プリン野郎が汚名返上して名誉挽回したぞ
2月21日土曜日の朝、神北は旅立った。目指すは、4.5キロの彼方、その方向の至近駅から数えて2つ目の駅。時間ぴったりに到着。待ち合わせるメンバーはまだ来ていない。十分経過、待ち合わせ定時。まだ来ない。三十分経過、まだ来ない。おかしい。
電話を掛ける。
「おーい、幹事のプリン野郎!誰も来んぞ」
「へいセニョール、焼津行きは、明日ですぜ?」
「えー? そうだっけ」
「勘弁して下さいよ。徹夜明けなんスから」
「なにぃ明日だとぉ、俺は1時間もかけて歩いて来たんだぞ」
「あっしのせいじゃないっスよ〜」
「いいや、お前のせいだ〜」
「ふぇーん」
事の起こりは、昨年の十月に遡る。そのころの日付のこのページにも書いたが、塩坂・真庭・古市・そして神北の四人で、塩坂号でダイナ★コンに向かったときのこと、途中でどうしても大きなプリンが食べたいと、車のオーナーである塩坂くんが主張。なんでも、噂になる程の巨大なモノだとか。
「チャレンジを達成して、失敗した神北さんのことをプリン野郎と蔑んでやりますよ」
と、強気の主張をする塩坂くんにひっぱられるようにして、我々はそのお店『カントリーロード』へ。しかし、ここで大きな裏切りが生じる。
この店には、プリンは基本的に二種類ある。900円の普通のプリンと2000円の大きな方のプリンだ。神北も、大盛りとか、大食いとか云う言葉が大好きで、そこそこ喰って来たつもりなので、塩坂一人にチャレンジさせるつもりはなかった。流石に大きなプリンにディップアイスをぼこぼこ盛った、巨大なパフェ(と称する甘味兵器)にチャレンジする気はなかったものの、大きな方のプリン程度は付き合おうと考えていた。そこで、プリンに果物や生クリームを軽く添えたプリンアラモードを注文。さあ、チャレンジの主役塩坂くんはと見ると、「あ、この小さい方のプリン」とハナっから逃げを打っている〜!!
おいおい、ヲヒヲヒ……。そんなん、ありデスカ??
こういう経緯で塩坂くんは、自ら望んだ「プリン野郎」という称号を得ることになったのである。
時は流れて、つい先日。このプリンの噂を聞いて、ある男が言い出した、「俺も、チャレンジしたい」と。結局、何人もの人を募ってプリンを食いに行くことに決定。
当然のように、案内役に指定されたのがプリン野郎こと塩坂くん。結局幹事までやらされることになってしまう。
このプリン野郎の呼びかけに応じて、何人かの男が立ち上がった。面白いので神北も付き合うことにした。で、冒頭の通りである。
「え〜今日じゃないのか〜」
ということで、一時間足らずで歩いて来た道を、今度はトボトボと1時間半かけて家まで帰った神北は、2月22日の日曜日、ふたたび集合場所へ。この4.5キロが、平坦な関東平野とはいえ、急いで歩くと結構ある。へとへとになって辿り着くと、ちょうど待ち合わせた栗原さん・渡辺くん(ミツルん)が歩いている。この三人が今日の同乗組だ。今日こそ無事合流。
すぐに車で発進し、首都高へ。プリン野郎を含む横浜組との待ち合わせは海老名のSA。都内走行中に安達くんから電話。
「俺もそろそろ行こうと思うんだけど」
「ああ、俺たち今首都高の上。とりあえず海老名でみんな合流だから宜しく」
「了解」
ということで、来そうな面子は揃った。びっくりするぐらい首都高が混んでいなくて、スルスルスルと用賀に到達。東名高速に乗換えて、一気に海老名に至る。首都高に続いて今日は東名も走り易い。気持ちの悪いぐらい問題なく流れている。
二十分ぐらい休憩し、今日の面子を確認。栗原号には我々三人、藤澤号には藤澤兄弟とプリン野郎。そして、安達号は安達くんと齢三つの倅ヒロキ。この8人が今日の全メンバーだ。
空も快晴ドライブ日和。いい感じに車列も流れている。とおもっていたら、唐突に薄暗くなって来た。雨がボツボツ、ざーざー、だーだー……。おい! 何が悪いのか誰が雨男なのか判らないが、神奈川県から静岡東部に掛けて、急に雨。まいったなぁ。
しかし、そんなに大きな雨雲ではなかったらしい。雨雲を抜け、晴れ間が広がる途中のPAでもう一度合流し直して、まずはプリンを目指しカントリーロードへ。一気に東海道を名古屋までの半分も走って来た換算だ。
カントリーロードに辿り着いた我々は、何の躊躇もなくプリンを注文。今回はチャレンジャーではなく、単なる見届け役なので、神北は900円の方の物を選ぶ。「明日、健康診断なんや、変な数値出すわけにはいかへん」という栗原さんと安達くんもこれに倣う。しかし、残りの面子は大きな方に挑む。半年に及ぶ「プリン野郎」生活がよほど堪えたのか塩坂くんに至っては「大きい方、にフルーツとディップアイスを二つ載せて」
先に運ばれて来た小さい方のプリンを見て、ミツルんの目が泳いだ。あきらかに「小さい方でこんなにあるの〜?」と訴えている。しかし、自分の元に運ばれて来た大きい方を見てちょっとほっとしていた。大きさは一回り程度しか違わなかったからだ。しかし、彼は気付くべきだったのだ。この大きさの『一回り』がどれだけ大きいかということに。
ヒロキが、自分でスプーンをもってさっそくプリンを一口。にまぁっとする。
「ヒロキ、ちゃんと『いただきます』した?」
「いまのは、味見!」
うーむ。三歳にしてこの言い返し。安達家の英才教育の成果であろう。
前にも書いたが、ここのプリンは、大きいからといってそれだけが売りではない。この大きさでちゃんと形を維持しているだけのしっかりした生地で、しかも美味しい。
まあ、小さい方のプリンなので、前回のチャレンジから見ると軽い物だ。前回は、昼食の刺身定食をしっかりと食った上のチャレンジだったが、今回はそれもないので、美味しく頂ける。
食い終えて周りを見回すと、さすがに大きい方組は必死で喰っている。ちょうど半分ぐらいが一番キツい。カラメルやクリームで目先を変えようとしても、結局はベースにある濃厚なプリンの味が、一種の壁になって来るのだ。それでもみんなまだ食い進めている。
やがて、大きいプリン組も早い者から食い終わり始める。
しかし、二人、匙足の止まりかけている人がいる。上から順に喰って行ったため、壊れかけたバベルの塔のような状態のプリンを前にした藤澤(兄)くんと、ディップ二つ分がボディーブローのように効いて来たプリン野郎こと塩坂くんだ。経験者だけに、流石にこれに対して「ちゃちゃっと喰っちゃえよ」とは云えない。藤澤くんのごく一部残っただけのプリンでも、普通の不二家なんかのカスタードブリン6コ〜10コ分はあるのだ。コージーコーナーのジャンボプリンで云っても体積で5コ分ぐらい。ただし、カントリーロードのプリンは、このコージーコーナーのものより濃厚に作ってあるから、濃度を視野に入れるならインパクトは1.5倍換算はすべきであろう。
一方、プリン野郎こと塩坂くんは、解け始めたディップアイスにも苦しめられていた。プリン用の平たいスプーンでは溶けたアイスは喰い難いのだ。
なかなか壮絶な光景が展開する。神北はそれをコーヒーをのみながらゆるりと観賞。まあ、前に一度喰っているからねぇ。
結局、藤澤(兄)くんは、途中でリタイア。プリン野郎こと塩坂くんはなんとか凌ぎ切って、ギリギリセーフ。かくして、藤澤くんは二代目プリン野郎の名を受け、塩坂くんは四ヵ月ぶりに、自ら望んで受けたプリン野郎の名を返上したのである。
これにより塩坂くんは「先代プリン野郎」と呼ばれることになった。
いや、別に藤澤(兄)くんが二代目となる必然はなかったんだけど、まあ、その場のノリだな。
プリンを食べ終えた我々は、焼津おさかなセンターへ移動。安達親子とはここでお別れ、別行動となる。市場内を彷徨った揚げ句、小さなお寿司を食べてあがりとした。さすがにここまで来てマグロを喰わないのは反則だけど、甘い物を先に詰めているので、別腹が作動しなかったらしい。
この後、富士山の麓あたりの立ち寄り温泉を目指して移動。しかし、一点俄にかき曇り、雨が……。さっきの雨雲地帯に戻って来たのかな。この雨の中を高速道路を走っている間に、相談し、経路の複雑そうだった1つ目の目標を諦め、場所がよく判っている御殿場温泉会館へと目標を設定。
さすがに徹夜仕事明けと血糖値バリバリがダブルで効いて来て途中で眠っていた塩坂「先代」が、降りるなり、
「あれ、予定変更したの?」
ミツルんがすかさず、
「探したんだけど判んなくって、迷ってたらここに着いちゃいました」
「へえ〜」
いや、へぇ〜って、いくら富士火山帯の真上で温泉地多いからって、迷って走っていて見つかるもんじゃないっすよ。
御殿場温泉会館は、御殿場のインターから箱根へと向かう経路にあって、晴れて居れば市内を一望、その向こうに雄大な富士が見えると云う絶景の温泉。あまりにもハマった光景に、へたな旅行ガイドの写真では銭湯風の描絵壁に見えるが、「実はホンモノだよ〜ん」という、とても気持ちいいお風呂。むかし、陸自の総合火力演習を見学に来た時に発見した場所だ。
血糖値のなせる技か、うっすらとかいた妙に粘つく汗を、お風呂でゆっくりと流した後は、二時間の時間制限一杯まで大広間でゴロゴロ。気持ちいい。
ここで、藤澤兄弟の弟の方が教えてくれた「ポカリは濃すぎるから水で割ると良い」というのを実践してみる。半々か、3対7の水勝ちで割ると、スルスルと呑める。まあ、割っている水が富士ミネラルウォーターなんだから、それだけ呑んでも美味しいんですけどね。
帰りがけに、塩坂「先代」が、
「道をちゃんと調べないといけませんよね」
こいつまだ、我々が迷ったと思っていたらしい。
この後、高速に戻った我々は、海老名のSAで夕飯を食べて、一路自宅を目指したのであった。
さて、次は何を喰いに行こうかなぁ……。
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