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2004/07/13

燃え尽きたらダメだぞ

 これは、昨年の日本SF大会のスタッフ仲間のミツルんのBlog、blog de omoi○の、真っ白にと云う記事で紹介されていたお話し。
 WIRED NEWSに掲載されたブロガーに蔓延する「燃え尽き症候群」という記事の話題。作者はDaniel Terdiman、日本語版は天野美保/高森郁哉と署名されている。
 「燃え尽きる」「真っ白な灰になっちゃう」「バーンナウト」等と呼んでいる現象は、別に、昨今のブログで始まったことではない。80年代の終わり頃からパソコン通信のシスオペをし、燃え尽きて行った仲間を何人も見送って来たが、これはネットワークでコミュニケーションをとる全ての人々、特にその中でも、自分の側から活発に発信をする人にとって、常に身近にある問題なのだ。熱心なネットワーカーにとってバーンナウトとは常に、今日発生するか、まだ先まで抑えられるかと言う葛藤関係にある問題だ。
 もちろん、パソコンの登場以前からも何かに没頭する人は居た。研究者だったり趣味人だったり様々だが、いろんなものに「のめり込む」人々は、いつの時代にも存在した。だが、そういう旧来からの「のめり込み」とネットワーカーの「のめり込み」は、質的な面で大きく違う。
 旧来の「のめり込み」は、自分と興味対象との関係性だったのに対し、ネットワーカーがのめり込むのは、どこまでいってもネットワーク内の人間関係なのだ。
 つまり、双方向メディアであるネットワークでの発信には、興味のあることを発信すると云う作業の上に、その発信に対して他者からの意見を聞く・場合によっては討議することまでが、自動的にワンセットで付いて来るのだ。だから話題の対象にのめり込み、人間関係を構築する事にものめり込むことを並行してこなしつつ、両方とも面白がれる人でないと、ネットで何かを発信し続ける事は辛い。
 ネットは気軽だ。同人誌を作ろうと思ったら、(1)原稿を書き、(2)ページ構成やレイアウトを決めて、(3)版下を作り、(4)印刷をし、(5)配布or頒布する、という手間をかけて始めて読者の手に届くトコロを、ネット上の会議室・BBS・ブログなどでは、(1)原稿を書く、というだけで既に終わり、極めて簡単である。読者からの意見もメール一発で、極めて簡単に届く。しかし、この極めて簡単が、悪い面も持っている。極端な話、活発な場ならBBSにせよWEBLOGせよ、書き込んで、トイレに立って戻って来たら、もうレスポンスが付いている訳だ。もちろんその場の性質にも因るが、レスを貰ったら返さなければ始まらない。(もちろんそうでない人もいる訳だが、バーンナウトする人の殆どがそれだ。)その内、自分の時間の大半が、記事を書く事からレスのやり取りをする事に遷って行くし、レスを付けたくてうずうずしている人たちに対し、元記事を提供しなければならないと言う妙な義務感が高まって来る。
 世間では、これを「おー、イレ込んでるなぁ」「好きだねぇ」と評するし、本人も「充実している」「手応えがある」等と云っているが、結局これはバーンナウトの一歩手前でしかない。考えても見て欲しい。手応えがあると云うのは、言葉でフルコンタクト制の組み手をしているのと同じだ。拳法漫画であるまいし、一日の大半を殴り殴られていたら、人間、身体から駄目になってきて当然なのだ。
 拳法でフルコンタクト制の組み手がキツければ、寸止め制や防具を導入すれば良い。(いや、「良い」とか断言口調で書いているが、別に私は拳法どころか、高校でやった柔道の授業以外一切、格闘技の経験はないけれど……(^_^;)…)ちょっと不自由にはなるが、身体のダメージを軽減し、怪我を恐れれず専心出来る方法だ。

 無論、ネットワークにも、寸止めや防具を使う方法は幾らでもある。
 1つ目は、物理的に(いや、論理的にか?)コメントを停めてしまう方法だ。レスポンスを投稿出来なくするのだ。「ここは俺の意見を発信する場だ、お前の意見はお前の場で発信しろ」という理屈だ。これに併せ技でメールアドレスを公開しないようにすると、自分は発信するが他者の意見を求めない姿勢が出来上がる。無論、そんなことをしたところで、ネットのどこかで反論を受ける事は停めようが無い訳だが、「そんな余所のことまでは知らん」という事にすれば、これで完璧な発信専用サイトを構築出来る。ただ、そういうサイトに人が付くとは思えないし、意見を交換する気が全く無いのならば、わざわざネットで発信する意味もないのだが……。(少なくとも、メールを受けるつもりのないサイトと云うものは、神北なら信用しない。よく親方日の丸系の企業の広報サイトにあるのだが……)
 次に、制度的にレスをいなす方法だ。いちばん簡単なのは、「私は元発言だけで個々のコメントに対してはレスをしませんが、読者どうしのご意見交換に、自由にお使い下さい。ただ喧嘩だけはお断り」と、コメントをBBS的に開放してしまう方法。逆に言うと、元発言者抜きに話がちゃんと回るのであれば、その元発言は社会にちゃんと有用な提言なり、ものを考える切っ掛けなりを与えたという事になる。自分の文章で世間に一石を投ずることを目指すのであれば、ある意味ベストなのではなかろうか。
 また、レスポンスをある程度読みながらも、スルーする心構えで居ることも必要だろう。意見を聞くことは必要だが、自分と違う意見にであった時にどうするのかと云う問題だ。その場で反論してガシガシとハードな擦り合わせを行うのか、こういう意見もあるという事を心に留めるのかということだ。雑誌・新聞等のライターは読者の意見に対し、基本的に後者の立場を取る。というより物理的・制度的にそれ以上の反応が取り辛いからだ。それに対し、ネットワーク上の発信者は前者の反応を取り得る環境にある。しかし、それは、そういう姿勢を取っても良いのであってそうしろではない。ここのカンチガイが、ネット発信者の仕事量と時間と、そして気力を大きく削り取って行く。必要以上に自分のリソースを削られないためには、手を広げ過ぎない、身幅の対応ということを常に考えることも必要である。身幅の受信にとどめて良いのである。なんといっても、ネット上の身幅の発信であり、身幅の発信者なのだから。

 何よりも大事なことは、場であり、それを継続することに尽きる。継続が得られないのであれば、それは場として成り立たないのだし、燃え尽きた過去の情熱はどこまで云っても残滓に過ぎない。そんな残りカスには意味がない。いまもその発信が続いていることが、そして今後もずっと続いてバーンナウトしていかないことが、作られた場の最も大事なことなのだ。
 もちろん、1人でやっている以上、バーンナウトだけでなく、発信者個人の生活によって時間が取れなくなることだって多々ある。本人や家族の入院・転勤・家庭環境の変化、人生いろいろである。個々の状況をカバーするために、チームを組んで発言を集める手もある。たとえばココログでは、10人までの書き手を擁することが出来る仕組みが既に用意されている。
 もちろん、バーンナウトするほど必死に取り組む時期も、良いものだ。しかし、出来ることならば、バーンナウトして流されて行き一過性のブームとして終わるのではなく、その前に踏み止まり、発信することを続けてもらいたい。それが場を作ったものの責任なのだから。

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コメント

基本的に同感ですが・・・。
自分のことは自分が一番分からないから「どこまでやると燃え尽きるのか?」という間合いを知ること自体がなかなか出来ないでしょう。
パソコン通信が始まったくらい時には、一生懸命盛り上げないいけないくらいだったけど、blog などではちょっと話題のテーマを書くだけで、どんどんと暴走的(?)にネットコミュニケーションの範囲が広がってしまう。
自分では制御出来ないわけです。

そのコントロール出来ないものを少なくとも自分自身の範囲ではコントロール出来たと思うことが燃え尽きないための条件なのだが、これじゃコントロール出来ないというワケの分からないモノと、自分が燃え尽きる限界というこれまたワケの分からないものを天秤に掛けることになって、それこそ「言うは易く行うは難し」の代表のようなもの、とも言えます。

まぁ実際的に一番のコツは「?をちょっとでも感じたら動くな!」かな?

投稿: 酔うぞ | 2004/07/13 10:52

 ニフティーサーブの劈頭からずっと生き延びている、ネット界の大長老の言葉には、流石に重みがあるなぁ。
 アタシが、人生訓としている言葉に、ゲーム『ウィザードリー』のプレイヤー達の間で常に囁かれていた「“まだ行ける”は“もう危ない”」と云うのがあります。きっと、初期にこのゲームを日本に紹介した1人の多摩豊か朱鷺田祐介か、そのあたりの誰かが言い出したんだと思います。『ドラクエ』みたいに、死ぬと自動的にセーブポイントまで返されるようなゲームと違い、最初の頃の『ウィザードリー』では、死んでしまうとホントに終わりという厳しいゲームの中だったので、ちょっとでもヤバかったらちゃんと引き返せよという処世訓でした。
 「?をちょっとでも感じたら動くな!」というのは、この「“まだ行ける”は“もう危ない”」と同じですね。

 まあ、「座右の銘とは、守れないから常に座右に置くのだ」と言われる通り、なかなか自分の人生をそのようには歩んでないですが……。

投稿: 神北恵太 | 2004/07/13 11:21

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