沈むこともあるらしいぞ
数年前のある年、仲間内の忘年会のために、事前に視察に行ったとある温泉地で、駅から近いんだが、割と値段が安い宿が在った。:源泉の筋からは離れており、いわゆるラドン温泉であることをちゃんと謳っている宿だが、ここまで駅に近ければOKだなと、そこに決めたのだが……。
番頭さんに施設などをいろいろと観せて貰って、最後に、お風呂場を見せて戴いた。斜面に建っているビルの4階だか5階だかにあって、露天も空が広くて気持ちいい。
「いいお風呂ですねぇ。お風呂のリニューアルは最近ですね」
「ええ、ラドン温泉ですけど、お風呂の気持ち良さではそこいら辺の宿には負けませんよ」
「こりゃいいや。夜中でも入れますよね」
「あ、す、すいません。それは駄目なんです」
「ハァ、またどうして?」
「実は……」
こりゃ、旅館に付き物の、出る話か?……神北はごくりとつばを飲み込んで、番頭さんの次の一言を待った。
「……一昨年の冬の夜……」
「はい」
「いや〜……」
番頭さん破顔。 え?
「おじいちゃんの宿泊客が浮いちゃいまして」
「は、ハァ」
「さんざん呑んで、お風呂で寝ちゃったか、心臓煽っちゃったか、とにかくどうにかしちゃちったらしいんですよねぇ。それを運悪く発見したのが別のお客さんだったから、大騒ぎになりましてね」
「うわ、それは大変でしたね。
「お風呂の大改装とかもしたんですが、支配人がビビってましてねぇ。また浮いたら敵わねぇってんで、12時から朝5時まで閉めることになったんですよ」
「わはははは、そうですか、浮いちゃいましたか」
「えへへへへ、まあ、こういう商売だと、どこの宿でもたまにあるんですがねぇ」
何か、大変な宿と云う印象を持たれないようにするためか、努めて明るい番頭さん。とはいえ、隠すより話しておこうと言う判断に感心。結局、この宿で忘年会を開催することになった。
なんで、こんな話が出て来たかと言うと、東京の天然温泉は大抵、関東ローム層の下から湧き上がって来る黒く濁ったお湯なのだが、この黒濁湯は、視界が20センチ程しか通らず、肩まで浸かって自分の膝がどこにあるか全く判らないようなお湯であることが多い。最近聴いた都市伝説では、こうした温泉を直接引いた銭湯では、しまい湯を終えて張ってあった湯抜きをすると、底に老人が沈んでいることがたまにあるんだと……。
もちろん、ちゃんとした事件の記録を見知っている訳ではないので、都市伝説に過ぎないのだが……。
で、疑問。浮くのが普通なの? 沈むのが普通?
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コメント
条件しだいで浮いたり沈んだりしますな。
基本的に人の比重は1よりも僅かに大きいのですが、浮き袋(肺)の状態とか微妙なパラメータで浮く沈むが分かれる絶妙の物体となっておりまする。
投稿: kemo | 2004/08/15 10:58
でも、体脂肪率の関係で、僕もKemoくんも、なんか浮き易そうな気がする……。
投稿: 神北恵太 | 2004/08/15 16:55