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2004/09/19

お前、へべれけだぞ

 話は先週の土曜日に遡る。
 2004年9月11日、世間が3年前のニューヨーク貿易センタービルの惨劇の記憶にうめいていた頃、我々は、秋葉原の駒八で大騒ぎをしていた。2000年の日本SF大会『ゼロコン』の実行委員会の有志が、その後もなんとなく集まり続けて、いつの間にかオープンなSFモノの宴会として定着した駒八会である。
 この日は、ただでさえ、いつも使わせて貰っている、大人数入る奥の席の方が予約が入って埋まっていて、いろり式の一般席になったというのに、SFファン交流を考える会のメンバーが、突然。会合流れで合流して来て、予想以上に人が増えてしまった。一応「この日」と予約を入れているとはいえ、参加自由のフリー宴会は、こういう時に弱い。なんせ、人が来ててみるまで誰が来るなんて全く解らないのだ。ちゃんと人数を決めて予約を入れて来た他の団体の方がいい席に優先されるのは致し方ない。
 とはいえ、厨房と座敷席の間にある囲炉裡席から通路の方まではみ出して、通行の邪魔になりつつも大騒ぎをしている我々と、お店と、どちらが大変だったかと言えば、まあ、文句の云える立場ではない。
 いつもありがとう御座います。駒八さん。

 で、この駒八で、帰ろうとしたら、へべれけになっている男がいる。今年の岐阜で若手企画有望株三羽烏と呼ばれていた新人三人の内の一角、加藤くんだ。
 「いやあ、会社の研修で東京既ていたんで、偶然、辻堂さんに誘ってもらったて初めて来てみたんですが、話が面白くって、お酒美味しくって、どんどん呑んじゃいましたァ」
「で、辻堂は?」
周囲から「しばらく前に、明日仕事だって帰っちゃいましたよ」という声が……。
「で、加藤くん、今日の宿はどこ?」
「やど? いや、僕、帰れますから」
 この時間だと、大垣行き夜行列車ムーンライトながらか、名古屋行き夜行ドリーム号か……。
「鈍行コミケ号(大垣夜行の別名)で帰るのか?」
「え〜、あんな時間のかかるの嫌ですよ」
……ったってお前、もう11時。それより早く名古屋に行く手段は、もう残ってないよ。バスの方が更に遅いからね。
 だがなお、彼は「大丈夫ですよ」と云い続ける。
 なんとか店の外まで出したものの、ふらふらふらふら。このままでは、秋葉原の駅(200〜300メートル先)ですら行き着けまい。
 「しかたねぇな。秋葉原ワシントンに放り込もう。こっちも終電があるから、そうそうゆっくり安い宿を探している閑はねぇ」
 とにかく、場所が確実に判っているホテルということで、何人かで、彼をワシントンに連れて行くことに。しかし、これがなかなか大変。
 今年のG-conを手伝って、加藤くんとは顔馴染みの福薗くん、塩坂くん、神北で、歩くだけでぐわらんぐわらんスイングする加藤くんを交代ごうたい抱え込んで、夜更けの秋葉原を護送。女房のむらさきを走らせて、ホテルにシングルルームを取らせて、後から行列は静々と(?)フロントへ。
 しかし、ここからが大騒ぎ。
 「じゃ、加藤くん宿代は払ったから、あとは君、住所と氏名を宿帳に書いてくれ」
「ち、ちょっと待ったぁ。こんなに親切にしてもらえる筈が無い。みんな、何かを企んでいるんでしょう。俺はどこかに売り飛ばされるんだぁ」
「ンなわけねーだろ、早く書け!」
「いやだー、ころされるう〜」
「良いから書けよ」
「うわ〜」
「あの、お客様。ご本人でなくても良いので、とにかくお書き戴けますか?」
「あ、苗字だけで良いですか?」
「フルネームでお願いします。何かあった時に対応取れなくなりますんで」
後では更に「うぎゃー、た〜すけてくれぇぇ」と叫んでいる酔っぱらいと、宥めている三人。こりゃ、何かありそうだと思われてるなぁ……。
 「加藤くん、フルネーム居るんだって、君、下の名前は?」
「そんなもの教えたら、外国に売られちゃう〜。いやだー。俺は岐阜に帰るんだぁ〜」
こんな酔っぱらい、買った方が困るわい。
「こりゃ、本人からは聞けんな。塩坂くん悪い。あのバカに電話して加藤のフルネーム聞き出してくれ」
あのバカですね。了解しました」ピポパ……。「だめです。あのバカは、例によって留守電です」
「ちっ。辻堂くんは捕まらんか、仕方ないちょっと加藤くんを見ててくれ。」
 塩坂くんと福薗くんに加藤くんを任せて、岐阜の森田くんに電話。
「どうしました?」
「君んトコの加藤くんな」
「はい」
「今、へべれけに酔ってるんで、秋葉原でホテルに泊める」
「はい。すみません」
「で、ついては、宿帳にフルネームが要るんだが、知ってるか?」
「本人は?」
「これは自分を外国船に売り飛ばす為の罠だと言って、口を割らんのだよ」
「何んスか、そりゃ……。ちょっと待ってね。あー、漢字は不確かですが、たしか……」
「ん、ありがとう。で、すまんが君。今、加藤くんに替わるから、金は神北が出したから、何も心配せずに、今日はここで泊まって明日帰るように云ってやってくれんか」
「はい」
 電話を加藤くんに渡して神北は宿帳を書く。住所までは聞き出せないので、住所と電話は神北宅を指定。
電話を切った加藤くんが、電話を返して来た。
「森田なんて云ってた?」
と聞く。
「今日はここに泊まれって云われました。でも、俺、そんなお金……」
「お金は払ったから」
「そんな、親切な人が居るワケが無い〜」
……堂々巡りである。

 やっと鍵を貰って、10階のシングルへ。とにかく、「殺される〜」「売られる〜」「そんなにまでして、俺の何を奪うんだ〜?」と、逃げ出そうとする加藤くんを男3人掛かりで連行。部屋に入れ、ベッドに座らせる。
「こんな良い部屋に泊まらせてもらえる訳が無い。何か企みが゜あるんだー」
「いいから寝なさい。いいね。僕らも終電があるから、帰るからさ。判るだろ?」
「えー。あー」
 とにかく、酔っぱらいは少し静かにしていれば寝てしまうだろうと、4人は帰ることに。

 「やー。お疲れさまでした」
「いや、なに」
気のいい仲間である。
 で、エレベーターホールでエレベーターを待っていると、福薗くんと塩坂くんが「あっ!」
「どうした?」
「今、加藤くんがむこうの廊下を変な方向に歩いて行きました」
「へ?」
「あ、ヤバいぞ。鍵を閉め込んだんじゃないかな……」
 塩坂くん、福薗くん、むらさきが飛んで行く。神北はフロントへ電話。
「すみません、今、酔っぱらいを部屋に入れた○○○○号室ですが、外に出て鍵を閉め込んじまったようなんですよ。マスター持って来ていただけませんか」
「はい、承知いたしました」
呆れられている。明らかに呆れられている。言葉は丁寧だが、完璧に呆れられている。
 慌てて云ってみると、三人に拘束された酔っぱらいが……。
「今、ホテルの人がマスターキー持って来てくれるから」
「うわー。また閉じ込められるぅ」
こいつは……。

 五分か十分待って、やっとホテルマンがやって来てくれた。鍵が開いて、元の部屋に。
「おい、塩ちゃん。もっぺんあのバカに電話入れてみてくれヤ」
「了解、もうそろそろ帰り着くだろうから、家の方にかけてみましょう」
 辻堂くんがやっと捕まる。
『もしもし、辻堂です。すみません、加藤くんがどうしたんですか?』
「お前が酔わせて放って帰った加藤くんが帰れなくなって困ってるんだよ」
『いやだって、ボク明日仕事ありますから』
 なんだ、コイツは。仕事だっていうのが、ナニか、友達を放ったらして帰ったイイワケになっているつもりなのか?
「お前の仕事の都合なんか、俺たちの知ったことじゃねーよ。お前が誘った友達を放り出して行ったからこうなってんだぞ。」
『じゃ、僕、今から車でそっち行きます。…………だいたい1時間半ぐらいで着きます』
「それまで待ってられねぇよ。(だいたいお前、さっきまで一緒に酒呑んでて、まだアルコール抜けてないだろう?)……こっちにも終電があるんだ。もう11時半回っているんだから」
「僕、自分で帰れますよ」
てめーの酔い方では、どうやっても帰れねぇよ! この酔っぱらいがぁ!
「なあ、辻堂くんよ。そういう訳で、こっちゃ時間が無いんだ。頼むから、バカなこと云ってないで、この酔っぱらいを今日はここに泊まるように、費用の心配は要らないって説明してやってくれ」
『ハイ、判りました』
辻堂の説得……。
「はい……ええ。でも……はぁ」
なんとか説得が始まった途端。
「んぐっ!」げろげろげろげろ……。
わわ、やっちった。受話器をひったくり、「つ、辻堂、いっぺん切るぞ」
 マトモに喰らったシャツを脱がせ、トイレで残りを吐き出させる。ベッドのシーツカバーはまったくだめになっているから、ひっぺがし、フロントにかわりを持って来てくれと頼む。部屋のバスからタオルを湿らせて持って来させて、チノパンを拭きつつ、シャツは洗面所で洗う。
 濡れシャツは下たる水気を絞った上で、乾いたバスタオルに包んで更に絞る。それを衣紋掛けに通して、換気扇を回したバスルームの中に干し掛ける。
 腹の中のモノを出したら、冷や汗でも出たのだろうか、ちょっと落ち着いた加藤くんに、また辻堂くんから電話。
 辻堂くんにハナシを付けてもらいつつ、後始末。フロントからホテルマンが来たので、じゃ、シーツ換えてくれというと。
「あ、やっていただけますか、では宜しくお願いします」
とか何とか云って、そそくさと撤退。面倒臭かったんだなぁ。そりゃ嫌だろこんな客。
 なんとか加藤くんが理解してくれたので、我々も帰ることに。乗り継ぎの関係で終電が早くなる塩坂くんはちょっと先に帰っているので、福薗くんと神北夫婦の三人がホテルを出たのは、12時丁度ぐらい。地下鉄の駅の方へ行く福薗くんと別れて、へろへろになって歩いていると辻堂くんから電話。
『あ、どうも。どうですか?』
「今、とりあえずおちついたみたいだから、置いてホテルから出て来たところ」
『すみませんでした。で、ホテルの支払いはどうしました?』
「取り敢えず出したよ」
『あ、じゃ、すみません。銀行の振込先教えて下さい。明日にでも振り込みます』
「来週の土曜日、また会うだろ」
『あ、そうですね。』
コイツ、本当に、自分が何をしてるか判ってねぇし、振りまいた迷惑が判ってねぇ……。

 ちなみに、翌日の日曜日、無事岐阜に帰った加藤くんから電話があった。打って変わって恐縮していた。
『いろいろとご迷惑をおかけしまして』
「あ、心配内心配ない。これに懲りずにまた遊びに出て来てよ」
『ありがとう御座います。で、領収書は取ってありますが宿泊費はどうしましょう』
「辻堂からとるから君は心配しなくていいよ」
『ハイ。すみません。』
「また、これに懲りずに遊びに来てやっちくり〜」
『あ、いや、また来週、研修で東京出張なんですよ。来週、辻堂さんの計画している、G-con東京企画局&関係者ご苦労さん会に参加予定です』
「ンじゃ、来週会おうぜぇ」

 辻堂くんからも電話があった。
『すみませんでした』
「まだ済んでネェよ」
「お金は加藤に出させますから……」
『昼間っから寝言云ってんじゃねぇ。お前が、出すんだよ』
『ええ?ぼくが、そんなヒドい!』
「ひでェのは、お前であって、俺でも塩坂でも福薗でも、ましてや加藤でもねェぞ」
『うひゃぁい』
 コイツは本当に懲りてない。

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コメント

いや~\(^_^)/

ありがちありがち、大爆笑。

投稿: 酔うぞ | 2004/09/20 10:55

 実は、定例呑み会の常連下戸なんて、大なり小なり、こんなコトばっかりやってるデスよ。でも、自分の出身地の方から、若い元気なのがやって来たら、つい、嬉しくなって面倒見ちゃう。
 とはいえ、酔うぞさんクラスだと、自分の方が倍は飲んでて、毎回同じようなことやってるんでしょうねぇ。

投稿: 神北恵太 | 2004/09/21 04:10

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