TNGのセミナーだぞ
TNGプロジェクトという団体がある。(一部の方には)残念なことに、スタートレックの関係ではない。
“TNG”は、「The New Generation」の略称。アドビ・アップル・大日本スクリーン・モリサワの4者によって進められている、新しいDTPスタイルを提案するプロジェクトのことだ。
基本的に、MacOSX上でOpenTypeやカラーマネジメントを利用し、PDF/X-1aを納入形式とする、新世代のDTPは、今年に入ってほぼ、その基礎となる技術が完成したものの、なかなかユーザは移行していない。
何故かと言うと……
現在主流となっているCIDフォントや、更に古いOCFフォントといったフォントセットをオープンタイプのものでリプレイスしようと思うと、かなりの費用が掛かること。(特に、何セットも導入している大きな会社ほど移行し辛い。)
紙に刷って初めて色が判るという時代に経験を積んだ印刷会社・編集者が、カラーマネジメントシステムという概念を信用していない。また、仮に始めるとしても、いままでバラバラに調達したバラバラの機種のスキャナやディスプレイやプリンタといった各機器のカラープルーフを整えるのは容易ではない。
既に、EPS形式による納品と云う作業フローが出来上がっている印刷システムにおいて、今新たにPDF形式に切り替えて使うことのメリットがよく理解されてない。
……まあ、つまりは、良い技術であろうことは判るが、まだまだ普及には時間が掛かると考えられる次世代システムを、如何にして普及するかというプロジェクトの、具体的活動としての、導入事例報告会というところか。
9月24日に開催された、第7回セミナーで、事例として発表されたのは、以下の4セッション。
1. 新世代DTPワークフローのメリット
JALのマイレージバンク会員向けの旅行案内と言う、ぎりぎりまでデータの変更が多
発する
2. カタログ制作におけるXML組版とPDF/X印刷入稿
株式会社リョーインは、三菱系のドキュメント会社。
XMLの自動組版システムを開発した事例を発表。
3. 品質管理の観点からのノウハウとPDF/X-1a入稿
ミスミと言うとよく判らないがマルチビッツと言えばデザイナーなら誰でも知って
いる電子素材データからハードまで何でも扱うカタログショッピングの大手。
このマルチビッツのカタログを新システムに移行した報告。システム移行を挿んでも、
発行間隔を全く変えずにスムーズに移行完了したという。その事例の報告。
4. 新世代、混在環境でのPDF/X-1aを入稿するための実践ノウハウ
移行に関する不安解消の為のFAQ事例の紹介
一本が30分づつの合計2時間ほどの無料セミナーだが、成功例と基礎的なノウハウを聞けて、なかなかにお得な経験だった。
とはいえ、オープンタイプのフォントに関しては、まだイマイチ普及が遅く、未だにTrueTypeの新作フォントなんて物が出て来る始末。また、急いで対応した大手メーカーのフォントは、どれも高価で、そうそう飛びつけるモノではない。かくして、OpenTypeへの完全移行なんて、なかなか出来るものではない。
また、カラーマネジメントに関しては、モニタの発色を計測するキャリブレータという機械が、最近では安価になり5万円台のモノが登場し始めたので、それを使い、自分のカラープルーフを作ることは出来なくも無い。だが、下流工程が対応してくれないことにはあまり意味が無いので、印刷屋さん、編集部さんが音頭をとってくれないことにはイカンともし難い。(もちろん、自分のスキャナ・モニタ・プリンタで色調を整えるという事にはそれなりに意味はある。が、別に、打ち出してみて直せば済んでしまうわけだから、自分の作業環境でカラーマネジメントが出来ていてもそんなに驚くほどの意味は無い。遠隔分業に於いて初めて真価を発揮する技術なのだ。
ただ、それを超えて、PDF/X-1a形式の定着は、望ましいものだと感じる。今の出版に関するワークフローは、拡張に拡張を重ねて来た為、既に、何が何高理解し辛くなっており、正体不明の不具合でイラストが表示されなくって印刷屋で大騒ぎと言うコトが多々ある。逆に云うと、この業界、そうした問題に触れないように、無理をせず、新技術を使わず、軽く……、いかに小さく纏まったデータを作って納品するか?と言うことが、重要なノウハウになっているのだ。だが、こういう後ろ向きのノウハウを身につけないと一歩も動けないと言う後ろ向きの作業環境は、精神衛生上よく無い。
ちなみに、カラーといえば、DTPで何かと問題になるのが、RGBとCMYKに関する色の問題。コンピュータに画像を取り込むのは、スキャナにせよデジカメにせよ、基本的に光学入力だからRGBの光の三原色でデータ化される。しかし、出力は、紙にインクを塗って印刷する訳だから、CMYKの印刷用四色分解を用いることになる。だが、RGB→CMYK変換は、機械的に簡単に行なえば良いというものではない。光の三原色とインクの四色分解では、表示出来る色の範囲に差がある為、どうしても、CMYKに起き直した絵は、元のEGBのものと比べてくすんで見える。これをどうするかというのは、Photoshop使い永遠の課題で、写真毎の特徴をニラみつつ、彩度やコントラストをいじって、ベストの状態に色を磨いてやると言う大変な手間が必要なのだ。また、RGBの原画とCMYKに変換して調整を済ませた納品物の2つを管理して行かねばならない為、リソース的にも無駄が多い。
これに関して、最近、面白いと思ったのが、大日本スクリーン製造のColorGenius DC2というソフト。このソフトは、RGBのものはRGBのまま管理しよう。CMYKが必要なときはRGBのソースを元に自動生成しよう。生成時の色調調整は「レシピ」と呼ばれる簡易な方針を指示するだけで、あとは自動的に機械にやらせよう。……というような概念のソフト。
くすまないRGB→CMYK変換というだけで、なかなかに価値がある。更に、「レシピ」は保存されるので、どの絵をどんな調整変換したかという情報を後で得られる。パンフを読むに、同じ写真に違う調整を施すという例が書かれているが、神北にとってはこれは別の意味を持つ。
仕事として、3DCGの絵を作ることが多いが、これの色調調整を行なった後でリテークが入ると、細かい微調整をもう一度やり直しとなる。細かい違いはあるとはいえ、同じ光源で同じ方向から撮影したシーンなので調整の仕方は(まず)同じでよいのだが、そのために「どんな風にした」というコトをメモっておいて、同じことをしなければならない。これが定型業務として簡素化出来るのであれば、CGクリエータにとっては、それはそれは大きな福音である。
また、このColorGenius DC2と組み合わせて使える、YUKIMURA Ver.1.5というInDesign CS用のプラグイン・ソフトがある。InDesign CSでRGB画像を配置し、回転や拡大縮小などを掛けておいたものを、自動的に最適なCMYKの画像に置き換えるソフトだ。
RGB形式の画像だけを管理し、CMYKにするのは、納品直前に自動処理で……というワークフローは、とてもステキだ。
ただ、これ等のソフト、ColorGenius DC2が最低99,750円。YUKIMURA Ver.1.5が71,400円。なかなか財布に厳しい。こんな重要なソフトなんだから、アドビが買い取ってPhotoshopとInDesignに標準搭載してくれればよいのになぁ……。ハァ……。
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