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2004/12/24

豪華絢爛剣劇絵巻だぞ

「いいか、よく聞け。俺の名は無斬祭之介」
「むざん……まつりのすけだとぅ?」
「どんな字を書くのだ?」
「わからぬのは当たり前だ。むろん真実(まこと)の名ではない」

 本を紹介する。
 いや、新ヒーローを紹介する。

『時の剣 隻眼の狼王』赤城毅(光文社カッパノベルス 本体895円+税)

 面白い。面白過ぎる。過ぎるほどに、なお面白い。
 いやもちろん、どんなに面白くても面白過ぎるということがないのが、エンターテイメントである。主人公の立ち居振る舞い。辿った人生はもちろんのこと、脇役、時代設定、カタキ役、どれひとつとっても、望むべくもないほどおさまりが良い。

 三代将軍家光の御代。熊本の、死期を迎えた宮本武蔵のもとに立ちよった青年、無斬祭之介。この六尺を超える大男は、師の臨終の床を警戒する武蔵の弟子たちを難なく押しのけ、武蔵に面会する。二人は旧知の友であった。
 死の床に際した武蔵は、かつて剣の道を歩む友と認めた男、尾張柳生、柳生兵庫助利厳(やぎゅうひょうごのすけとしとし)の危急に際し、身体の動かぬ自分になり替わり、尾張へ赴いて欲しいと切望する。
 尾張柳生の危急とは、江戸柳生の嫡男、柳生十兵衛に謀反の疑いがあるというものだった。一切関わりのない祭之介に代役を頼むことを詫びる武蔵に、十兵衛が本当に恐るべき野望を抱くならば、わが敵がやつのもとにはせ参じるのは必定、そうなれば柳生兵庫助の闘いは自分の闘いだと断じ、祭之介は、武蔵の頼みを快諾する。
 それが二人の今生の別れであった。旧き友の頼みをもう一人の懐かしき友に託し、肩の荷を下ろした武蔵は、その数日後、静かにこの世を去った。
 かくて、剣豪宮本武蔵を介し、柳生十兵衛の陰謀と相対することとなった無斬祭之介の闘いが始まる。

 じつはこの本、一見、何がタイトルだかよく判らない。本自体は、ほぼ『時の剣 隻眼の狼王』赤城毅とだけ書いてあるだけの真っ白いカバーの本なのだが、帯(コシマキともいうよね、しかし、これは帯なのか? 帯高が新書判の2/3もあるんですが……)には、そのタイトルや作者名のどれよりも大きな文字で、『おれがやつを斬るか やつがおれを殺すか』と入っている。この装丁だけでも、尋常じゃない。
 だが、中身はもっと尋常じゃない。
 まず主人公、無斬祭之介。こんな名前の奴ァ居ねーよと思う間もなく「わからぬのは当たり前だ。むろん真実の名ではなぃ」。あのなオッサン、ワシャかなわんよ!(大平透さんのハクション大魔王の口調で読んで下さい。)
 一事が万事、ことほど左様に、この調子。いやはや、トンでもない主人公がやって来たものだ。なんといっても、無敵、無茶苦茶、無遠慮。その上、あろう事か不老不死である。
 柳生十兵衛に組みするのは、怪しい老人、骨嚙無限斎(ほねがみむげんさい)。
 祭之介も祭之介なら、この無限斎も無限斎であろう。こんな人をバカにした名前、ショッカーの大幹部のノリである。しかも、彼の配下には、転魔と呼ばれる三人の、いや三匹の怪人がいる。蜘蛛人間アンカブート、蝙蝠人間フッファーシュ、蜥蜴人間スィフリーヤ。もう、まさにショッカーではないか。

 武蔵の死の場から始まった豪傑の物語は、一瞬にして、魑魅魍魎の徘徊する魔界の物語に転じる。無論言うまでもなく、この書き出しと云い、登場人物と云い、山田風太郎の『魔界転生』の換骨奪胎というか、壮絶なオマージュである。しかも、私には赤城毅が読者にこう語りかけているように聞こえる。「どうだ? こっちの方が面白いだろう?」
 いや、ホントに面白いんです。ムチャクチャなんです。こんな面白い話、一巻でまとめてよかですか?! 山田風太郎の風太郎忍法帖と呼ばれる一連のシリーズの柳生十兵衛像をはるかに上回るような、壮絶な野望を持つ十兵衛と、軽くその上を行くヒーロー無斬祭之介。
 2004年も後一週間と迫ったが、まだこれを読んでない人が居られるなら、是非、今年最後の一冊にこの本を読んでいただきたい。西暦2004年、平成16年と云う、現代が産んだ、最新の剣豪ヒーロー。その時代性に触れ、エンターテイメントの底力を感じて戴きたい。


蛇足

 主人公無斬祭之介のインパクトありありの名前。かつて佐々木功主演で東映が世に問うた怪作『妖術武芸帖』の主人公、婆羅門の妖術使いと戦った鬼堂誠之介(きどう まことのすけ)を思わぬ者は、同世代には居まい。そういえば、赤城さんは、同い年であった。

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