初物写真だぞ
2005年3月24日、気象庁から、運輸多目的衛星新1号(ひまわり6号)によって撮影された初画像が、公開された。
可視光線による写真と、いくつかの赤外線による写真(ちなみにこれは、赤外3チャンネル)が公開されている。
とても、くっきりとした写真で、どれも美しい。特に赤外3チャンネルの雲の様子は、とても鮮やかで、地圏・水圏・気圏の三圏を持つ地球という天体の凄みが伝わって来るようだ。
まずは、おめでとうございます。
赤道上空の静止軌道から、やっと、ちゃんとした気象情報を自前で確保できるようになった。
ここ数年、ただでさえ肩身の狭い思いをしている宇宙関係者がみんなぴりぴりしていた。やっと上がったロケットに搭載されていた衛星が、ちゃんと軌道投入に成功し、目的軌道から鮮明な写真を送って来ることで、どれほど多くの宇宙開発関係者が胸を撫で下ろしたかと思うと、単なる一市民でしかない我が身ですら、ほっと一息である。
だが、世間では、宇宙技術なんて浮世離れしたモノに税金を遣うのはまかりならん、ましてや、大枚はたいて作ったロケットが打上げ失敗で失われるのは技術者の無能だと云う、アホかと、クソかと、お前の頭はウジが湧いているのかというようなことを、平気で云っていた輩が居る。
ちょっと待て。考えて貰いたい。自動車会社が、新開発・新改良した新しい車を、試験走行ひとつ無く、直接ユーザに売り出すなんてことがあるだろうか?
普通はあり得ない。
まずは試作車を何台も作り、データを取り、テストコースを走り回らせ、場合によってはわざと事故を起こさせて、あらゆるデータを取り、設計不具合を修正し、実装技術と使用環境の状態を見、半年点検ていどの間は、問題無く走らせられる確証を得てから、始めて製品となるのだ。さらに、各製品一台一台は、工場出荷後に車検を受けて、問題のないことを確認した上で、やっとユーザのもとへ納車となる。
しかし、ロケットというものはどうであろうか。
車であれば何台も何台も、使い潰して実地運用を繰り返し、データをとる筈のものが、潤沢な予算を与えられないばかりに、試作品イコールミッション運用という劣悪な環境に置かれている。
その上、失敗すればしたで、「東大京大の頭のいい博士たちがいっぱい集まって、なんで堕ちるの?」なんて酷い悪口をマスコミ云われてしまう。
揚げ句の果てに、潤沢な実験の出来ないような予算組をした張本人である国会議員のセンセイたちからまで「金の無駄遣い」と指摘される。
ちょっとまてよ、技術試験は無駄なのか?
技術試験に使うべき製品を本番に回さざるを得ないほど、予算を削りまくった真犯人が、何をぬかす!
こうした、予算面からの日本の宇宙開発不要論のお蔭で、何年もの間,日本の経度に気象衛星が上がっていなかった。その間、一時はとても精緻だった天気予報が、随分大まかになっていたと感じているのは、神北ばかりではあるまい。
ここ何年か、冷夏・猛暑を始めとする予想外の気候・気象に、ふりまわされた事も、日本経済が被った機会ロスと廃棄ロスの大きさも、それによって堅調さを逸した流通・製造業者が大量に出た事も、すべては、予算の分捕りあいで宇宙開発費を削った馬鹿どもに起因する。
既に気象衛星というものが生活に不可欠にも関わらず、それを得るための手段に予算を与えようとしなかったこの馬鹿どもは、日本経済に対する叛逆者、国民の敵である。本来なら、絵中開発の予算を削った財務省の役人と、決定した国会議員は、全員揃ってシワ腹かっ捌いて詫びを入れるべきところだ。それが、現場を攻め立てる姿、盗人たけだけしいとは、まさにこれであろう。
ひまわり6号初写真送信の報を聞いて、そんなことを思った春の宵である。
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コメント
コメントすべきだよなあ、おれ、こういう話の場合。
えー、まず、基本設定として、日本の気象衛星というのはオセアニアを含む近隣諸国にとって実に重要な情報源となっております。駐留米軍なんぞよりもはるかに実のある国際貢献です。
「だから、日本は自分のロケットで自分の気象衛星を運用維持しなければならない」
自分の気象衛星って言っていいのかなあ。衛星製作したのはアメリカの会社で、しかも「倒産しちまったんで契約より値上げします」なんぞと言い出して揉めたのは御存知の通り。おまけに積まれているセンサーは次期米気象衛星用の試作品で、つまり実績がないしこれまでのセンサーとも違うから継続運用データもない。
さらに、運用多目的衛星との触れ込みで、気象衛星だけならもっと簡単に軽く早く出来たものを、いろいろと通信器材を搭載して太平洋上の航空管制までやらせようという構想に関しては猪瀬直樹氏がいろいろ吼えてるらしいんでここでは触れません。というか、こっちにコメント出来るほどの情報は笹本は集めてない。
さらに、宇宙関係の予算は削られたわけではない。使えるかどうかもわからない情報収集衛星分が別勘定に移されちゃったんで、見かけ上がたっと減っているように見えるだけ。本当なら新しいプロジェクトである情報収集衛星関連は新しく予算を付けるべきなのだが、それを宇宙開発関連から削り取って集めて来たと言うのが本当のところで、しかも軍事衛星だからそんなことは黙っている。
もし、日本の宇宙開発に潤沢な予算が投下されたら?
そしたら、たぶんH-IIロケットは一発200億円のままだっただろう。ロケット製造はメーカーにとっては親方日の丸な、しかも利益率の低い公共事業なのだから。
日本の上層部は、技術的判断が出来ない。それは、その通りだろう。例えば日本政府は戦後の一時期、自動車メーカーの数を削減しようとしていた。メーカーはもちろん反抗し、結果として日本は今自動車輸出大国になっている。
政府が作ろうとして成功した工業製品は?
YS11、トロンなど、ものとしての出来はよくても殿様商売で失敗と判断されるものしかない。そりゃそうだ、国がやるってことは予算よりも官僚のプライドで判断されるってことで、そこで既に歪んでるんだから。
宇宙開発も、有象無象が寄ってたかって甘い汁を吸おうとしている公共事業でしかない。たまたまパイが小さいから、無駄な計画があんまり目立たないだけである。
「失敗失敗っていうなら試験出来るだけの予算を出せ!技術試験機なんぞ失敗してなんぼのもんじゃあ!」てネームがあさりよしとおのまんがにあったのはもう10年くらい前の話か。
投稿: 笹本祐一 | 2005/03/25 12:56
笹本さま
> もし、日本の宇宙開発に潤沢な予算が投下されたら?
> そしたら、たぶんH-IIロケットは一発200億円のままだっただろう。
云われてみれば確かにその通りッスな。
ある、宇宙関係の機材を作っている会社に、代議士様たちの視察があったそうな。戦車工場なら防衛族なんていう長い歴史を持った族議員たちが居るが、宇宙開発関係には宇宙族なんて確固たる支持層はがいないワケで、視察に来てくれる議員と云うのは、とっても有難い存在。なんとかフレンドリーにしておいて、次の予算取りの時も助けてもらおうと云う、ま、必死だけどぶっちゃけスケベ心で担当スタッフが、つきっきりでご説明申し上げた。無事、見学が終了しようとした時、代議士様が仰った。「ここに大きな日の丸が欲しいなァ。」その一言で、塗料分の重量計算やら、そのかわりに何を減らすやら、大騒動になったそうな。
マイッたもんですな。重量と云う技術的要因を代議し相手に説明できずに右顧左眄した挙げ句、何十グラムだかの増加をローンチ側に願い出るにはプライドがあり過ぎて、結局、予定していた内容物から代替重量を減らしてつじつまだけ合わせようとする技術系会社員。技師としての矜持も誇りもあったものではありません。
こういうチンピラ技師が大手を振って罷り通る会社が支えているんですから、コストダウンなんて考えませんわな。
投稿: 神北恵太 | 2005/03/25 14:51
自動車メーカー数の削減策より前は国産乗用車不要論が出ました。乗用車は輸入外車で良い、国産はトラックだけ(需要の関係で当時トラックしか作っていなかった)で良いと言う論でしたが、それに反発し頑張った技術者がいなければ今のトヨタは存在しません。
投稿: 名古屋是清 | 2005/03/25 15:38
>YS11、トロンなど、ものとしての出来はよくても殿様商売で失敗
本筋とは関係ありませんが。TRONは失敗ではありません大成功です。
うまくいかなかったのはパソコン向けのBTRONだけで交換機用CTRONと家電などの組込み機器用のITRONは日本だけでなく世界中で使われています。
一家に数台はTRONマシンがあるんじゃないですかね。
投稿: ふじさわ | 2005/03/25 22:20
>TRONは失敗ではありません大成功です。
深く静かに採用されてる、みたいな話は聞いたことあったのでこの機会に調べてみたんですが、成功とすべきか失敗とすべきかは、よくわかりませんでした。すいません。
えー、笹本の文脈は「国が技術開発の音頭を取るとろくなことにならない」ということなので、TRONは「原子力船むつ」とか「第5世代コンピューター」に読み換えていただければ問題ないか、な?
投稿: 笹本祐一 | 2005/03/25 23:47
TRONといえば、携帯電話の大半がTRONでしたね。
最近はLinux系組み込みOSが増えて次第にシェアを奪われているところが残念です。
携帯電話の開発をしていた人から聞いた話では、Linuxは専門の技術者がいらないのでTRONより人材確保が楽だというのがLinuxが使われる最大の理由だとか。
PCもTRONが残っていれば、そのまま技術者がシフトできたのに…
投稿: 池田武 | 2005/03/26 02:04
名古屋さま
そうですね。
ふじさわさま
笹本さま
池田さま
書こうと思って書きそびれていたことをまとめて頂きました。ありがとう御座います。
あともうひとつ言えば、B-TRONの滅亡は「親方日の丸だったから」じゃなくて、大学教授と産業界が産学合同で勝手に始めたことなど気にくわんと、通商と産業を管轄する偉いお役人様たちが思っていたからであり、「親方日の丸でなかったから」潰されたという感じです。
まあ、市販される啓蒙書を何冊買っても、画期的と喧伝する割に暈けた写真しか載らない試作キーボードが、キーアサインひとつ明示されていないと云う、坂村さんのスポークスマンとしての下手さの所為で、一般ユーザが待ちくたびれて飽きてしまった。その間に、要素の多くをMacOSやWindowsが実現してしまったという面もあるのでしょうが……。
TRON、特にB-TRONに関しては、思うところ多いです。
投稿: 神北恵太 | 2005/03/26 04:30