書評『我が家のお稲荷さま。』だぞ
チョイとお気に入りのシリーズなぞ、お奨めしてみる。
「父さん、妖怪飼っていい?」 高上昇
『我が家のお稲荷さま』柴村仁 イラスト:放電映像
(メディアワークス 電撃文庫)既刊 1〜4
1巻550円・2巻570円・3巻490円・4巻510円
高村兄弟は、高校生の兄、昇と、小学生の弟、透の二人。母は既に亡く、父と三人暮らし。しっかり者の長男の昇は、いない母の代わりに家を切り盛りするしっかりさん。母との記憶すらない次男の透は、元気いっぱいの小学生。
そんな高村家に突然やって来たのが、空幻という名の狐。この空幻狐、年を経た化けギツネで、何百年か前には、水気を良くあつかい人々からも敬われていたが、暴れ出すと手が付けられなかった。高村兄弟の母、美夜子の実家、水気の司祭の家柄である三槌家の先祖が、いたずらの過ぎるこの狐を封印していた。しかし、母の代で女子が途絶え、三槌の家は、ついえていた。
そんな母の血筋のせいか、妖異に狙われやすい透に憑いた何者かを退治するため、封印を解かれた空幻。しかし、何を気に入ったのか、この天候すら操る大天狐は、封印を解かれたままどこかへ去るでもなく、面白がって透の守り神として、高村家に居着いてしまう。
いや、普通、少年のところにお稲荷さまがやって来るといって、きつね色の髪に狐耳の出た和風美少女が表紙に描いてあったら、何の因果か妖狐に気に入られた少年が、妖怪がらみの大事件に巻き込まれるドタバタラブコメだと思うではないか。でも、そんな「落ちモノ」ラブコメには、どう足掻いてもなりそうにない。もう、1本2本、ちゃんとしたストーリーラインを歩いている。
登場するキャラクターに、根っからの悪人がいないというこんなシチュエーションコメディー的なお話なのに、大事件が起こる起こる。その大きな流れに流されることなく、ノホホンと続いてゆく高村家とその周辺の人たちの生活を、わりと丁寧に描くこの書き方は、現在人気放映中の『仮面ライダー響鬼』などにも一脈通じるものがある。
空幻とともに高村家にやって来た「護り女」コウは、その身に蛟を宿し、主家たる三槌の当主を命に代えて守ることを代々至命としてきた一族の少女で、霊術・体術に秀でた戦士である。……が、一般生活能力は全くない。野菜を切れと頼まれると、みじん切りを通り越しておろしたんじゃないかというぐらいに切り刻むわ、田舎暮らしに疑問一つ抱かなかったので、電車すらまともに乗ったことはないわ、貨幣経済を理解出来てないわ。超天然大ボケキャラである。
それに対し、さすが天狐というか、大妖怪というべきか、空幻は技術文明や現代社会に対し、高い理解力で長足に順応してゆく。が、べつに人間ではないので、モノの考え方は高村兄弟や父の春樹の想像の範囲には収まらない。しかも、狐のままの姿から、絶世の美女、美男子と、場合によって三態に変じ分け、兵器で街に散歩にも行く。
こんな居候二人を迎えて、高村家はどうなるのでしょう……と思うと、特にどうにもならず、普通に暮らしている。その普通が気持ちよい。
始まったのは、2004年初頭。4ヶ月ペースで来て、冬には4巻目……と思ってたら、3巻目と続き話になっている4巻目は、それまでより大きく間を空けて桜が咲いてからの発売となった。3巻〜4巻は、母から強い霊力を受け継いでしまったためにいろいろなことに巻き込まれ易い弟の透がストーリーの中心にいるお話。前からそうなのだが、当世風小学生の友達付き合いが丁寧に描かれているのが、わりと気持ちよく読める。
ちなみに、お買いになるならば、既刊全部を揃えての方が良い。少なくとも、読み始める時はそうすべきだ。スルスルと読めて、どんどん続きを読みたくなるから、手をのばせば最新刊まである状態にして読み始めるべきである。
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