帰ってくるぞ
朝から、唐突に飛び込んで来たニュース。ミンダナオ島に生存する、未帰還の元日本兵二人が、帰国を求めているというもの。
【マニラ27日共同】フィリピン南部ミンダナオ島に2人の元日本兵が生存しているとの情報を確認するため、マニラの日本大使館員が27日、同島ジェネラルサントス市内のホテルで2人と面会する。
これまでの情報では、2人は元日本兵であることを証明するものを所持、漢字で書いた名前を示したという。大使館員は、第2次大戦中の同島での日本軍の展開記録などを基に話を聞く予定。
現地で元日本兵の遺骨収集活動をしている日本人が残留日本兵のうわさを聞き、ジェネラルサントス近くの山中にいる2人と連絡を取って日本政府に通報した。
2人がいるとされる同島南部の山岳地帯は、イスラム過激派のモロ・イスラム解放戦線(MILF)の活動が活発な地区。
—— 後略 ——
—— 前略 ——
マニラの日本大使館の職員が27日、2人に面会して身元を確認し、第2次世界大戦の終戦を知らずに過ご していたのか、現地で結婚するなど生活基盤を築いていないのかを含め、詳しい事情を聞く。
—— 後略 ——
産経新聞 戦後60年の「奇跡」「よくぞ生きて…」 比ミンダナオ島 旧日本兵
—— 前略 ——
「本当にお願いします。お待ちしております 山川、中内」
今年三月中旬、わずか七センチ四方の粗末なメモ用紙に弱々しい文字で書かれたこのメッセージが、旧日本兵の遺骨収集をしている日本人男性のもとへ届けられた。このメッセージが二人の六十一年ぶりの帰国へ、歴史の扉をこじ開けた。—— 中略 ——
この日本人男性に入った情報によると、二人は終戦直後に山岳ゲリラに収容され、長年にわたって部隊で戦術などを教えてきた。最近になって老齢を理由に部隊からの除隊を勧告されたため、帰国の思いを強くしていた。
二人はニッパヤシの部屋で一日一菜の生活を送ってきたが、健康状態はいたって良く、意識や記憶も確かだという。身長は二人とも一六五センチとみられ、一人は現地の女性と結婚して子供や孫もいる。子供たちの家族は、東部の港町ダバオ市で暮らしているという。
救出に向かった日本人男性は、山川吉雄中尉(87)と中内続喜上等兵(83)の上司である大阪府東大阪市在住の市川豪弌(ごういち)さん(89)から依頼を受け、五月中旬にミンダナオ島入り。ゲリラ経由で二人に日本製のたばこや名刺を渡してきた。
—— 後略 ——
なかなかに、三紙三様の記事に仕上がっている。
河北新聞は、共同通信の情報だけで配信しているからか、基本的に事実の説明だけで終わっている。
朝日新聞は、その第一報の後、政府がどう動き出したかということを、在フィリピン日本大使館(マニラ市)の対応と、もう1ルート別の政府筋の見解を載せている。
産經新聞は、……。産經新聞は、凄いよ。
なんだか、どこで調べ出したのか、本人たちがメモに書いた姓だけの名前も入っているし、それをもとに当時その地方に展開していた陸軍第三十師団の行方不明者の中から想定される、彼等のフルネームと年齢まで、掲載されている。更には、師団の生存者でつくる「豹の会」会長の談話や、当時の兵士が経験した劣悪な環境の話等、お涙頂戴風の長大な読み物に仕上がっている。
まあ、こういう情報を調べさせたら、産経が一番情報源との距離が近く、パイプが太く、また、一番熱心ということもあるのだろう。だが、それにしても、伝聞形の多い文章で、わずか一日待てば大使館員が本人たちと会ってくるのに、こんなに不確定なまま急いで報道する要があるのかという気がする。
そんなことよりも、気になることがある。彼等は、正式な軍事教育を受けたことのある兵士だったので、敗走後、迎え入れてくれた山岳ゲリラの戦術参謀として活動して来たようだ。当然、ゲリラは、フィリピン政府と対立していた訳で、いくら高齢を理由に除隊されたとはいえ、60年間ゲリラを支援していた人間を、フィリピン政府がどう扱うのだろうか。フィリピン政府から見れば、彼等は犯罪者なのだ。
とはいえ、当時の状況から、山岳ゲリラに身を寄せるしかなかったことや、既に80歳代と高齢であることを考慮し、どうか、フィリピン政府が彼等の帰国に速やかに同意していただけることを切に願う。
まだ、正確な情報確認がないため、日本政府を向こうにまわしたトンチキな詐欺事件の可能性も捨て切れない。が、60年遅れて帰国する兵士にとって、故郷が住み易い国であることを、切に望む。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>60年遅れて帰国する兵士にとって、故郷が住み易い国
・・・かどうかは別にしても、ウラシマタロウになることは確実ですね。
白髪老齢のおじいいさんになってることですし。
投稿: バウム | 2005/05/27 21:03
会社に入って、初めて就いた編集の仕事が、敗戦・俘虜・国家的棄民・植民地住民の引き上げ・復員の手記集でした。シベリア、南方、中国大陸、朝鮮半島、兵士も市民も国にさっさと見捨てられ、地べた這いずって命からがら帰国してきたという、体験者の記録です。これを読んでから、わたしの「国家」とか「大義」とか「軍隊」とか「国体護持」とか「愛国心」とかいうモノに対する思いは決まりましたね。今回の南方の兵士はフェイクのようですが、大日本帝国とか帝国陸軍とかのイジメ体質がイヤになって、現地人化した兵士は結構、いたと思います。昔、水木しげる先生も、「ひょっとしたらボクも南方に残ってたかも」と仰ってましたし。
投稿: だごん様 | 2005/05/30 11:04
バウムさん
ダゴン様
なんだか、今回のはやはり、詐欺っぽいですね。第一報では遺骨収集をしている人という話だったんですが、いつの間にか、フィリピンで手広く商売をしていると良い、しかし在比日本人会にはつながりが全くなかったり、唐突に何万ドルも私費を投じているという話が出て来たり、残念ながら、『仲介者』の言動が、信憑性を削いでいます。
東南アジアを舞台とする体験記や小説に、頻繁に出てくるタイプの詐欺の匂いを感じずには居られません。その昔、話通りのゲリラに身を投じた日本兵が居た可能性はまだ残りますが、もう亡くなっていそうです。
でも、戦争で出兵したまま、未帰還兵として現地に残った人が居るというならば、調査し、本人の希望があれば帰国させることが、政府の義務なので、今回の在比大使館の行動には、非常に好印象を受けました。
脱走兵の大きな要因にもなった、陸軍伝統の陰湿な兵隊いじめ体質の正体は、何なのでしょうか。大声で唱えているうちに、崇高な目的と明確な手段がいつの間にか入れ替わり、手段のためならば目的を選ばなくなってしまうという、我が日本人の稚拙に生真面目な社会性が、原因なのでしょうか。
「強兵を育てるために、負荷を掛けて兵隊を揉む」という一般論を「兵隊に負荷を掛けて揉めば、強兵が育つ」に変化させ、上官の気まぐれに根ざした部下いじめを「強兵を育てるため」と正当化させてしまいます。
モーレツ社員時代の会社組織にも、同じような匂いがしますよね。しかし、だからといって、それに対抗し、社員の権利を主張した労組系の人間も、何年も同じお題目を唱えているうちに思考停止を起こしていたりするので、どちらが正しいとか言う単純な構造ではない気がします。
微力とはいえ、発信側に居る駄文書きの身としては、いつか硬直しかねない社会に対し、別の視点や論理の存在を、どこかで見せて行くべきなのでしょう。
いろいろと考えさせられる事件でした。
投稿: 神北恵太 | 2005/05/30 17:42