萌えない人々だぞ
ここのところ、「萌え市場規模は○○円」等というような、変な情報が飛び交っている。横浜銀行の市場研究機関浜銀総合研究所の「少子化などにより伸び悩むなか新しい動きがみられるコンテンツ市場 −2003年のコンテンツ市場における「萌え」関連は888億円−」という2005年4月1日のレポート(プレスリリースはここ PDF 230KB)と、それに続く「急騰する『萌え』関連株」という2005年4月18日付けのレポート(プレスリリースはここ PDF 67KB)に端を発するらしい。
このレポート、基本的に、投資オヤジどもに、『「萌え」と呼ばれる市場があるんだよ』と教える分には、役に立つのだろう。まあ、そこで言っている結論的概要も数字的にはそう外れてもいないのかも知れない。
しかし、読んでみると、いくらなんでも、よくもまあ、こんなに雑駁でトンチキな推論から、ご大層な予測が建てられたモノだなと、呆れちゃう。
面白がったITmediaニュースが取材して、「子どもがダメなら大人に売れ」──888億円「萌え」市場という記事を2005年5月20日に掲載した。よく要点が纏まっているし、いんたびゅーによって、このレポートの作成者の意識の中で、何が外しいるかも判るものなので、面白い。この記事と原本のプレスリリースとを足がかりに、ま〜、ナニやってんだか…を語ってみたい。
上記ITmediaニュースの記事には、浜銀の研究機関からこのレポートが登場するに至った以下のような経緯が書かれている。
信濃研究員は、自らをオタクとは認めないものの自作PCマニア。14〜15年前から秋葉原に通い詰めているという。「秋葉原の大通りはここ数年で、PC や家電ショップから萌え系に一気に変貌した」と、萌えの勢いを感じ取っていた。今回の調査は、信濃研究員がアキバで受けた印象を、数字で実証しようという試みでもあった。
ふむふむ。まあ、これは、誰の目から見ても納得出来るのではなかろうか。1990年代、秋葉原に、アニメ絵の巨大看板が登場するようになって、やがて、いわゆる美少女マスコットキャラが壁面や看板に大きく描かれたビルが登場するに至った。そして、家電品・AV機器・無線・コンピュータ等に関するハード屋・ソフト屋・周辺用品屋がほとんどを占めていた秋葉原に、別に電気を必要とするわけでもなければ、電気を必要とする製品のために使うソフトや周辺用品でもない、フィギュアや同人誌といったモノを扱う店が急増したのだ。
しかし、この変化は急だったが、秋葉原にとっては別に始めて経験する急激な変化ではない。萌えショップ充実の前段階としてのコンピュータ系・AV系を合わせたソフトウェアショップの充実。その前にあった、パソコン・ショップの進出。さらに前の時代にあったらしい部品と家電の街への無線機器やAV機器の完成品ショップの進出など、戦後の秋葉原は、10年単位・15年単位で、常に大きく変化している。そのタイムスケールで言えば、萌えの街を看板とする秋葉原の時代は、もうそろそろ終わりかけていて、次の芽吹きが始まっているのじゃないかという気がする。
この経済予測が、萌え市場をどこまで捉えているかという根幹の部分だ。まず、この予測では、萌え市場を大きく、3分野に別れていると想像している。具体的に言うと、以下のようになる。
- コミック 273億円
- 映像 155億円
- ゲーム 460億円
しかし、それぞれの中でどのコンテンツが萌えに当たるのかという分析は次のような方向性だそうだ。
萌え市場を子ども向け市場と対比したかったため、一般に萌え作品ととらえられているタイトルでも、子どもをターゲットにした作品は除外した。「美少女戦士セーラームーン」や「ふたりはプリキュア」などは調査の対象外だ。
これって、どうよ?
萌えに限らず、オタク市場がどこまでかというコトを語る上で、たぶん何よりも重要な小さなお友達・大きなお友達という分類要素は、このレポートの分類方法にはハナっから入っていないわけだ。フィギュア等を含む筈の玩具市場を頭から無視し、コミック・映像・ゲームという三分野だけで扱っておいて、更に、大きなお友達抜きにプリキュア市場を見るって、何?
目を引き易い要素で、レポートを面白くするには良いアクセントだったのだろうが、まだまだ市場規模としては微々たるものでしかないメイド喫茶(全国でもまだ30軒程度の規模らしい)をわざわざ関連産業に挙げる割には、本論で言っていること粗くありませんか、浜銀総研さん?
「ノートPCを赤く塗って、シャア専用PCとか。供給者側の工夫次第で商品の幅が広げられるというという意味では、家電など他の市場と変わらない。例えば、“どれも同じ”と思われてきた洗濯機でも、ドラムを傾けた『ななめドラム洗濯機』はヒットした。目先を変えることがヒットにつながる」(信濃研究員)。
というのも、言っている論旨自体は間違っちゃいないだろうが、例がどうもなぁと思う。
シャレで買える額で、しかも既に枯れた安定製品、さらにキャリングケースなどの付属品も充実していたシャア専用ポータブルDVDプレーヤー。それとは違い、その前に製品化されたガンダムパソコン“CHAR(シャア)モデル”は「中身はただのソーテックのパソコン」「しかも、一世代前のスペック」「わざわざ高い定価で買わなければならない」「シャア専用なのに、通常の3倍の速度どころか、返って遅い方」と、マーケティングの詰めの甘さをネット上で揶揄されまくった製品。
最初からの注文限定生産なので損はしていないのだろうが、買ってみたいと思っていた興味のある層が実際の製品スベックに失望したために、こういう書き込みがネットに溢れたわけだ。つまり、適正スベックの商品を送り込めていたら、もっと市場規模を拡大出来た筈。というわけで、マーケティング的に残念なことをした製品。
もちろん、バンダイ(ララビット)の商品開発はそれを充分に肥としていて、今販売されている『仮面ライダー響鬼』の登場人物が劇中で使っている「TAKESHI」グッズのような、充分に実用に堪え、キャラグッズとしての価格的プラスαも遊び心の範囲内というハイセンスな人気商品に繋がっている訳だが……。
また、劇中のキャラが好んだようにノートPCを赤く塗るという情緒的付加価値と、洗濯機の出し入れ口を小柄な女性や車椅子の人でもドラム内を見渡せる高さに持ってくるという実利的な、ドラムを斜めにする機能的付加価値を同一視しているのも、本当にこの人、市場とかマーケティングを分析する気があるのかいなと思わせる。同じ付加価値という言葉でも、持つ意味がまるで違うのだ。
しかし、このかたの名誉のためにも言っておくが、もちろん全てトンチンカンな訳ではない。
「例えばシューティングゲームは、当初は幅広い層がプレイしていたが、難易度がどんどん上がってマニア向けに特化してしまい、市場全体がしぼんだ」(信濃研究員)。
「萌えは愛情の一種。人から恋愛感情がなくならない限り、萌え市場がゼロになることはない。コンテンツ市場の1ジャンルとして、ある程度の規模で動いていくだろう」(信濃研究員)
こういうことも言っているのだ。
ただ、一つ一つの事象に対する考察の積み重ねが市場規模や動向を規定するのだとすると、このレポート、方向性は正しいものの、論拠となる市場観察が非常に雑駁で、かなり粗く感じる。
ま、粗いトコロがプラス・マイナスを作り、結果的に市場の適正規模を出しているのかも知れないが。
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コメント
これは読者の理解レベルも考慮したのかもしれませんね。(筆者の理解レベル的に受け付けなかったところもあるかもしれないけど)
シャア専用PCなんてのも、人がとっつきやすく、なおかつ他のヒット商品との比較もしやすいから取り上げたんでしょうけど。
全体として突っ込みが甘いのは確かですねぇ
もう少し深ければ面白いものになったんだろうけど、多分経済ページから、アニメージュに載ることになるだろうな。(笑)
投稿: もりた | 2005/05/22 11:12
信濃研究員も宮島副主任研究員もどう見てもスーツをきたオタにしかみえません。
特に宮島副主任研究員にガチですな。
投稿: ãµã˜ã•ã‚ | 2005/05/22 12:09
RD-XS41ハーロックモデルは、みんなハーロックモデルは定価でもいいから欲しいが、DVDBOXはいらんという、たいへん困った商品でした(笑
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20030924/toshiba2.htm
たった869台のためにGUI画面を変える東芝に萌え。
まあ、プリキュアななんかは
http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=6984
こういう状況なので、無視するのはどうかと思いますね<大きなおともだち。
ちなみにシューティングは同人ゲームの分野で、難易度の高さをキャラクターの魅力で引っ張るという新しい形が見えつつありますな。ここのところの「うどんげ」ブームにはちょっと驚かされます。
投稿: 大外郎 | 2005/05/22 15:56
もりたさん
馬鹿に出来ないのは、『ファミ通』等の埋め草記事で、今の20代〜30代に入ったあたりの連中は、小学生の頃から、企業の開発能力と、それに対する世間の認知と、株価の関係を、そういう記事を通じて学んでいるというトコロです。
ãµã˜ã•ã‚(ふじさわ)さん
名前、バケちゃいましたね。
まあ、今の30代・40代の多くは、顕在・潜在を別として、オタ要素を多々持っていますからその見た目に出るのは仕方ありませんね。
ただ、ちゃんとした感性のヲタがプリキュアを子供向けと切り捨てるというのは「ぶっちゃけ、ありえな〜い」ですから、ウスウスだと思いますがね。
大外郎さま
東芝は、誰がRDシリーズのメインターゲットなのか、よく知ったマーケティングをしているということなんでしょう。
プリキュアのターゲット層に関するこのパネルは、ネット上でもあちこちでネタにされていたものですね。
気がついていないというのも、どこがターゲットかということを制作会社なり代理店なりに聞いてもいないというのも、調査会社としてどんなものですかねぇ。
シューティングゲームは、ぼくは反射神経がないので全然ダメ。いつもちょっと寂しい思いをさせられてます。
投稿: 神北恵太 | 2005/05/22 19:43
シューティングゲームって難易度上がってるんですかぁ?
そんなに沢山やりこんでるわけでは全然ないのだけども、昔のグラディウスとかのほうが絶対難しかったとおもいます。一番最近ハマった(といっても既に古いけど)「斑鳩」のほうが面が進む気がー。
投稿: 錆猫★ | 2005/05/22 21:34