噂のATを見て来たぞ
それが、信仰というものなのかどうかは、本人にしか解らないことだが、凄かった。
運慶・快慶という鎌倉期の奈良で活躍した仏師たちが残した、金剛力士像。阿形・吽形で一体となって東大寺南大門を守る、この身の丈八メートルの巨大な仁王さまを知らないという人は、日本人には居るまい。小中学校の日本史で必ず教科書に登場するし、多くの人は、高校までの修学旅行で、一度は訪れてその目で見たはず。
そのリアリスティックな表情と躍動する筋肉は、もう800年近く前のものであるにも関わらず、我々現代人にまで、強い感銘を与える。
仏師と呼ばれた彫刻家たち一人一人が、はたして信仰心からそれを彫ったのか、それとも彫りたいが為に信仰に寄り添ったのか、神北は仔細は知らない。だが、それは、爾来八百年、変わらぬ信仰を集め続け、今も、変わらず愛されている。
それと、同じような衝撃を受けた。2005年5月2日(月)。つまり、昨日だ。
それを作ることが、信仰というものなのかどうかは、作ったkogoro(倉田光吾郎)さん本人にしか解らないことだが、とにかく凄かった。
『装甲騎兵ボトムズ』(日本サンライズ(現サンライズ)1983年度制作。監督、高橋良輔)に登場する、単座の戦闘兵器スコープドッグ。それを、1/1モデルとして、作り始めてしまった人がいるというウワサは、ちょうど1年ほど前に、ネットに衝撃となって流れ出した。以降、kogoroさんが、仕事の合間に、知恵を絞りつつ、鉄でフルスクラッチしてゆく経過を、BLOGで拝見しつつ、しばらく前までは「ホントに出来るんかいな」という思いもあったのだが、春先に全身が取り敢えず完成し、素組み(て、プラモ用語なんですが、鉄の1/1モデルに使ってよいものなのでしょうか?)の立ち姿が公開された。
そして、最後の追い込みとして細部をいじって、完成したものが、今、東京、水道橋のとあるビルで、公開されている。kogoroさんの個展である。
もちろん、スコープドッグだけでなく、他のkogoroテイスト溢れる鉄製作品も多数展示されている。が、なんといっても、最大の展示物が、このスコープドッグ(正確に言うとブルーティッシュカスタムということになるそうな)である。
順路を進むと、簡易壁で仕切られた部屋に入ったとたん、圧倒的な鉄に打ちのめされる。そこは、スコープドッグの背中だ。約4メートルあるので、腰の下が普通の大人の頭の高さ。ということは、パっと見上げるとそこには、巨大な鉄の巨人の背中が広がっているのだ。同行した女房は、奈良の大仏を思い浮かべたという。確かにその通り。名状し難い感動がある。変な例えだが「寄らば大樹の陰」というか、圧倒的な庇護感というか、幼い頃後ろを付いて歩きながら見上げた父親の背中というか……、巨大な鉄のそれは、何故か安心できる背中だった。 だが、そんな単に安らかなものではないことも確かで、鉄の巨人の放つオーラは、力強くも、また禍々しくもあった。
前へ回ってみると、昇降ステッブなど、実際的な細工も多々盛り込まれているのが解る。単なる鉄のオブジェにも関わらず、カメラのレンズをはめ込んだらしい光学スコーブのリアルさや、すっくと立ったポージングの妙もあって、それは周囲を圧するものがあった。
ああ、これは金剛力士像なのだな。
そう思ったのは、その時だった。そして、kogoroさんという人が、信仰の対象を木で彫り上げた鎌倉期の仏師たちと同じように、敬慕の対象を鉄で作った、現代の異端の仏師なのだなということが判った。言ってしまえば、ギミック満載とはいえ単にファンがフルスクラッチで作り出したポージングモデルであるにもかかわらず、ここまで衆目を集め、また、本人もあぐねること無く完成まで情熱を保ち得たのは、それが、現代に於ける一種の信仰だったからなんだなと解った。そういうふうに理解してみると、このスコープドッグ製作に全身全霊を傾けた、この一年あまりの彼のひたむきな姿勢と情熱が何であったのか、一つ見えて来たような気がする。
斯様にこの展覧会は、単なる元アニメ小僧のヤンチャっぷりを眺めるつもりで出かけてゆくと、大きな間違いである。『ボトムズ』ファンであったかどうかということには何ら関わり無く、そこにあるものに、みな圧倒される。魂の深奥からこみ上げて来るものがある。
ちょうどこの日は、kogoroさんご本人は、最後の追い込みから展覧会設営までの疲れもあって、一日お休みだったので、お会いすることはできなかったが、逆にそのせいもあってか、夕刻に訪れた時、会場内にはスタッフも含め、20人程度の人しか居らず、わりとゆっくり眺めさせていただくことが出来た。
展覧会の詳細はここ。2005 年5月12日(木)までなので、まだ間に合うぞ。また、撮影お断りだったので、展示物の写真は無いが、普段駐車場になっているのではないかと思われる場所 に簡易な壁を作った展覧会の、道を挟んだ向かいからの外装の写真を一枚だけ載せておく。(お断りしておくと、内部の展示物が見えないように軽くレタッチしてある。ご了解いただきたい。)
展覧会の外壁。モンキーファーム印があしらってある。
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コメント
お~行かれました・・・・。
あたしも月曜日に行こうと思っていたが出損ねました。
6日以降に行くかな。
ところで、
>鉄の巨人の放つオーラは、力強くも、また禍々しくもあった。
これは、青山で開催された「ツナガリ」展で展示された、部分でも感じました。
肩と指頭など展示されて、倉田さんいわく「椅子代わり」とかでしたが、当時はそうとう熱心にココログを読んでないと、すぐには理解出来ないものでした。
しかし、指とかを展示出来るというのがすごい。
機械屋さんとしては設計が良いのだな、としか思えんのですよ。
チラッと倉田さん自身がかいているけど「図面があれば簡単」という表現で設計に基づいていること、さらには設計図を形として見通していることが分かります。
しかしだからといって、あの形や存在感までも設計図を見てくみ取ることが出来るのか?となると、そんな人はそうそう居ない。
つ~わけで、後日行ってきます。
投稿: 酔うぞ | 2005/05/03 10:26
酔うぞ様
ぜひ、行ってください。
実は、腕だけ展示されたワンフェスの展示を見た時は、ここまでスゴいことになろうとは思わなかったんですよ。
それが、ヒトガタというシステムに組み上がると、kogoroさんのモノヅクリの凄さとともに、大河原さんの、メカ屋としての万端行き届いた設定の妙が見て取れて凄いです。
投稿: 神北恵太 | 2005/05/03 10:55
世の中図面があれば作っちゃう人いるんですよね
http://www.geocities.jp/dourakuoyadi/index.html
高校時代に、ブループリンとを元に歩き回るR2-D2を文化祭用に作ったことを思い出しました。
投稿: 大外郎 | 2005/05/04 10:46
行って来ました。
すごかったです。
ボトムズにはあまり思い入れはなかったのですが、圧倒的な存在感に純粋にすごいと思いました。
投稿: 池田武 | 2005/05/04 18:23
大外郎さん
kogoroさんは、最初、譲り受けたShadeデータで始めたらしいのですが、三面だけであの難しい立体構造を把握することは難しく、大型模型に紙を当てて型紙を切り出したり、いろいろな母型からデータを取っては、「ええとこ取り」したみたいです。
池田さん
あの大きさを(触れぬまでも)目の前で見れたのは、貴重な体験ですよね。
投稿: 神北恵太 | 2005/05/04 23:08