現象だぞ

　怪奇現象に遭遇したのかもしれない。およそ、1週間ほど前の事だ。

　暗い夜道を歩いていて、ステンレスのパイプで作られた公園の車止めを迂回してヒョイと通り過ぎた直後、誰もいない真後ろで、何かがパイプにぶつかるガチン!　という音がしたのだ。

　神北は、基本的に家でパソコンのある部屋に籠って仕事している。で、別に打合せに出るでもなく家に籠っている日は、たぶん1日1回だけ、ちょっと歩く仕事がある。女房を迎えに駅まで行くのだ。

　などと話すと「仲が宜しい事で」とよく冷やかされるが、そんな甘い話では済まないのである。引っ越して来た頃、東京都内からこの（今で言う）さいたま市 周辺に掛けてのかなりの広範囲で、女の人が一人で歩いていると自転車で近寄って来て、手に持った煉瓦かコンクリート塊で殴りつけて行くという、なんとも、 頭と素行の悪い通り魔が多出したのだ。
　まあ、どちらかと言えば女房の使っている最寄り駅への道筋は街中で、別の駅との間のように田んぼの脇を歩いて来るなんて事はしなくて済むので、そうそう 滅多な事はあるまいが、当時、その街中のゲームセンターで店番の女性が殺されたりする事件もあり、家に居る限り、退勤して来る女房を毎日駅まで迎えに出る のが定例となっている。

　さて、で、女房が駅まで帰って来る時間だから、早くても6時か7時、下手をすると8時か9時頃だったか。それは起こった。
　神北は、ある公園内をよくショートカットに抜けるのだが、その入口には、直径6〜8センチほどのステンレスパイプを「コ」の字型に曲げた車除けが、地面に開けた穴にはめ込むように、互い違いに3つほど配置してある。その脇をヒョイと抜けて通った直後、神北がまだ1メートル程度しか離れてない時に、この車除けが、ガチン!　と大きな音を立てて鳴った。風もないし、今そこを通った自分も触らないようにヒョイとよけながら通ったから、ステンレスの車止めを揺らすものは居ない。しかも、その音のしかたというのが、大の大人が気がつかずにぶつかったんじゃないかと云うぐらいの、わりと激しい音なのだ。
　当然、振り返ったが、辺りには人影無し。風も吹いていない。

　ま、それだけのことである。特に何か害を被ったとか、特別怖い想いをしたというほどの事ではない。ただ、鳴るはずの無い車止めが、何かがぶつかったような音でガチン!　と鳴ったというだけのことだ。

　とはいえ、いったい何が起こったのか。いろいろと推理してみた。
　一番、ありそうかなと思うのは、右の写真である。べとべとさん。このべとべとさんは、先日訪れた鳥取県境港市の水木しげるロードで銅像になっているべとべとさんだ。iPod Shuffleをしていた神北は、全く気付いていなかったが、もしや、神北の後からべとべとさんが、べとべとべとべと……と、歩いていたのかも知れない。
　が、車除けのステンレスパイプの間を通り切れずにガチン!　だったというのが、神北の推理である。べとべとさんは、「お先へお通り」と通してあげればそれで良かったのだが、可哀想な事をしてしまった。

　しかし、何か気に入る事があって、境港からわざわざ付いて来てくれたのかしら。それとも、今回は急いでいて、妖怪神社をちゃんと拝んでくれなかったから、怒られたのかなぁ……。
　いったい何があったのか、今度べとべとさんと行き会う事があったら、その時にはちょっと聞いてみたい所ではある。
　ちなみに、可能性として、もう一つの仮説がある。

　光学迷彩を施した、右の写真のコイツに、神北が付けられていたのかも知れない。ちなみに、このタチコマは、今年2月のワンフェスで見かけた1/2サイズぐらいのもの。

　ま、この説に関しては、別に神北は公安9科にどーこーされるほどの電脳犯罪者でもなければ、特に重要人物でもないという事と、玉川紗己子の声で「いったーい。少佐ァぶつかっちゃいました〜」と聞こえて来なかったので、多分違うと思う。

　ハテサテ、何だったんでしょうねぇ？