18年は長過ぎるぞ
呆れるようなニュースだ。そして、憤慨させられるというか、他家ごと他人ごととはいえ、許せない気持ちにさせられる。
福岡市博多区の市営住宅に住む一家が、娘を産まれてから18年間、一度も学校に行かせず、自宅内に閉じ込めていたらしい。asahi.comの2005年12月06日の記事『18歳女性、自宅に18年 学校にも行かせず 福岡』である。
福岡市博多区の市営住宅に住む女性(18)が、生まれてからほとんど外出させてもらえず、小中学校にも通っていなかったことが分かった。母親(40)が女性を殴って傷害容疑で逮捕され、11月に罰金10万円の略式命令を受けた事件があり、調べの中で明らかになった。市教委や学校は義務教育の間、家庭訪問をしていたが、両親から本人との面会を拒まれ、「様子が分からなかった」としている。
という報道だが、どうにもワケが判らない上に腹が立つ。
博多署の調べでは、女性は10月28日、テレビを見てはいけないという言いつけを守らなかったことを理由に、母親に顔や背中を殴られて家を飛び出し、公園で水を飲むなどして過ごした。11月1日、市内の路上を裸足で歩いていたところ、目の上に切り傷があったことなどから通行人が110番通報して、同署に保護された。現在は検査入院している。
としているが、どうも、そんなことでは済まない。
女性は「親類の家を訪ねた以外は、ほとんど家から外に出たことがない」と話し、難しい漢字の読み書きや計算ができなかった。身長は約120センチで、体重は30キロもなかった。「自分のせいで母親が働きに出られない」と自分を責めるように話していたという。
これは普通に考えると、成長期全般を通して、食事をろくに与えられずに運動もさせてもらえず暮らしていたと考えそうだが、そう簡単なことではないらしい。記事は母親の「排泄(はいせつ)がうまくできないなど発育の遅れがあり、外に出しても迷惑をかけると思った」という供述を載せているし、先天的な発育障害を診断されていると語ったそうなので、彼女の身長体重が18歳とは思えないことに関しては、先天的な障害だったのかも知れない。
しかし、それは一旦置くにしても、NIKKEI.NETの記事によるとドリル等をさせていたというが、それが学校教育の代わりになるほどの教育だった訳でもないようだ。
これは、親による基本的人権の侵害なのではないのか? 他の子たちが社会性を得て行く年頃にひとり隔離して学校に行かせなかったのは、彼女の一生を奪うことと同じではないのだろうか?
しかも、この身長わずか120センチ、体重30キロのあまりにも小さな少女が、10月末に母親に殴られて、殆ど出たことのない家の外に逃げ出し、およそ3〜4日野宿していたというのだ。その間、記事には特に捜索願が出てたという話も書かれていないが、家族は何をどう考えていたのだろうか?
両親という存在は大きいらしく、彼女の義務教育の期間中の1994年から2003年の間、学校の教師は、一度も登校して来ないこの生徒に対し、毎月一度の頻度で家庭を訪ねていたというが、両親が玄関で対応するだけで、一度たりとも本人に会うことも叶わなかったらしい。
しかし、これで良いのであろうか? 面会を断る両親というものを教師が9年間突破出来なかったお蔭で、彼女は教育を受ける機会を喪失したのではないのか? これは両親だけのせいで済むことなのだろうか? 両親と、それを突破出来なかった教師・学校・教育委員会による、共同正犯ではないのか?
横溝正史の小説の中に出て来る因習深い寒村の名家じゃないのだから、もうこんなことあってもらっては困るし、もしどこかにそういう可能性があったら、学校や地方自治体が警察と協力する等して強権的に子供の権利保護を行なえる体勢を作るべきなのではないか?
しかし、もう独立しているという彼女の兄・姉、連れて行かれたことがあるという親類の家では、彼女のことを、どう考えていたのだろう……。新事実がどんどん判明して続報が出るとも思えないが、どこまでも不可解な事件だ。
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コメント
日本国民には、3つの義務があります。「労働の義務」「納税の義務」「教育を受けさせる義務」。
この親は、あきらかに義務を果たしていないわけです。神北さんが書いているように、周囲の問題も大きいと思えます。続報を待ちたいと思います。
投稿: 安達裕章 | 2005/12/06 20:57
親が「うちのコはダメなんだ」と思い込むところに
この問題点がある気がします。
幼い頃から
「この子だけ周囲と違う」
「この子だけ他者と比べて発育が遅れている」
と言い聞かされて育ってきた兄弟には
それが普通かも知れませんしね。
その家族にとっては「普通」で、他人から見ると
「特異」な場合、私たちはどう接すれば
良いのでしょ。(通報だけで良いの?)
いつもこの手の事件には考え込んでしまいます。
投稿: ちょま | 2005/12/07 00:39
安達裕章 さま
ちょま さま
なんか、やるせなくなるというか、酷い話です。
そう、たしかにこの親は、義務を果たしてないし、子供の権利を侵しているんですよ。
しかし、元々は「人様に迷惑をかけると、虐められるかもしれないから、この子を守ろう」というような、まあ、それだけとって見ると解らなくはない判断が出発点にあったのかもしれません。その後、地区の保険機関や教育機関・役所に相談しなかった時点で、方向性を誤り、誤った方向からさらに誰にも相談出来ず孤立していった18年は、この両親にとっても相当の苦痛だったのでしょう。特に、父親はあまり家庭を顧みない仕事人間のように報じられてますから、母親一人に全ての判断や対応が重責となって降り掛かっていたのかもしれません。
確かに傷害事件の加害者なんですが、単に母親を加害者としてみていては、この事件背景は見えて来ないのかもしれませんね。
続報、あるでしょうかねぇ……。
投稿: 神北恵太 | 2005/12/07 08:25