ビジネスライクだぞ
TBS系ニュース専門チャンネル『NEWS BIRD』で、米CBS製作のドキュメントに日本でコメントを追加した番組『CBSドキュメント』を流している時間帯がある。一週間通して『ドキュメント258』というタイトルを付け、平日日替わりで1時間番組を流しているのだが、水曜日が『CBSドキュメント』の日なのだ。この2本中の1本が、「塀の中のギャングたち」という、北カリフォルニアから現在も勢力圏を拡げつつあるギャングたちの首脳部が、ある刑務所内にあるのだという話だった。
呆れることに、彼等の首脳陣は、独房の中にいるにも関わらず、夜間、監視カメラの隙を衝いて、シャツを解いた糸と紙を丸めた錘りを格子の隙から投げ合い、絡ませ合って、上下階や隣の部屋の仲間との間で紐を互いにたぐり合って手紙をやり取りするフィッシング(釣り)という連絡網を作り、組織犯罪のプランを練る。
それを、週に一度の運動時間の間に、狭い運動室の排水溝が伝声管のように声を通し易いことを利用して、隣の独房群にいる仲間にまで伝えるため、瞬く間に情報は共有され、組織運営のコンセンサスが取られる。
そして、ムショ暮らしの有り余った時間を利用して習得したルーン文字や、細かな文字で書かれ、定期的に変更される組織的な暗号票を使って、検閲をすり抜けた指令が、シャバにいる部下たちに送られ、同じく暗号化された報告が検閲をすり抜けて戻ることで、首脳陣は常に組織の現状把握を行なっている。
刑務官は躍起になって検閲を強化し、食事用のプラスチックフォークや丸めた紙・衣類から取り出したゴム等から作った隠し武器等を押収し、犯罪を未然に防ぐが、イタチごっこであり、完全に彼等のペースに翻弄されている。しかも、この刑務所の独房は、死刑を除き現代アメリカで最も重い刑であり、これ以上彼等に厳しい措置をとることは出来ないらしい。人権国家アメリカ万歳。
塀の外もまた、恐ろしく組織化が進んでいる。かつてFBIが撮影した、数州から参集した彼等の地区代表による秘密会議の様子は、場所こそホテルの一室だが、ピザハットやセブンイレブンに代表されるような躍進したフランチャイズ企業の地区マネージャー会議の内容に、極めて近い。
現状の報告があり、塀の中のボスたちからの指示が伝えられ、組織全体の調整があり、組織運営に関して、進行中のもうけ話に関して、対立組織や警察との抗争に関して、丁寧な会議が行なわれている。FBIが掴んだこの会議で配られた資料というのは、議題のレジュメだったが、そんじょそこらの会社の会議資料より、よほどしっかりと作られていた。
驚くべきはこの組織、メキシコ系アメリカ人による組織だということ。別に偏見から云うわけではないが、どちらかというとメキシコ人というのは非常に楽天的で、刹那的、でも保守的というラテンの血の濃い人たちだと思っていたんだが、狡猾に新大陸を征服した征服者の子孫でもあったんだよなぁ、そういえば。そして「忠誠心? 家族愛? バカいうなよ。現実はビジネスライクなものさ」という徹底的に効率化された組織作り。うーむ。
司会のピーター=バラカン氏と吉川美代子アナウンサーの「この才能、この努力と向上心、もっと前向きなことに活かせば……」というようなコメントに、深く頷くしかなかった。
ちなみに、こうした状況に対応すべく、収監中のファミリー幹部たちを、全米の刑務所に一人一人分散収監し孤立させて、塀の中の司令塔壊滅を図る計画が進行中だという。が、現首脳部のファミリー最高幹部たちには既に、地方へ飛んだメンバーはそこで細胞を増やし、独自の支部を立ち上げて組織強化を図るという新たな任務が与えられているらしい。そして、現状の中枢部は、新しく独房に収監されるであろう二番手群に受け継がれ、維持される。
どこまでも、ビジネスライクだ。
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