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2006/04/14

戦う人生だぞ

 「おれが戦死したら、米軍と英国王室から弔慰金が出る。受取人はお前一人だけじゃないが、充分すぎる金額を受け取れるよう手続きを取っている。後の事は心配しなくていい」

 6歳で、ワシントン大学に入学、10歳で資格を取ったものの体格が出来てなかったため5年待って15歳でミネアポリスの海軍士官学校に入学、待っていた5年間のうちにエール大法学部で弁護士の資格を得て、東大では法学部大学院で法学博士号をイッパツで得た。手元に置きたいと言う母の姉の希望で、ケンブリッジにも居たことがある。ミネアポリス卒業後、USネイビーに任官、ベトナムで特殊部隊のジェット・パイロット。爾来、常にアメリカ軍の特殊部隊として、中東戦争でも、湾岸戦争でも、コソボでも、、東チモールでも、世界の紛争地帯で、秘密工作の現場で、常に前線に立ち続けた男。現在の階級は大佐。
 そんな男が居る。名をジョナ=エリザベス=クヒオ。父はカメハメハ大王の子孫。母はエリザベス女王の双子の妹。現在米国籍。ただし、日本では特殊部隊で所有している日本国籍「竹内武男」と名乗る。

 この本は、そのクヒオ大佐の波乱に満ちた半生と、はからずも係わってしまった日本人達の物語である。

『結婚詐欺師クヒオ大佐』吉田和正(新風舎文庫 753円+税)2006/03/05刊

 ルポと小説の中間物と言えば良かろうか、私小説風でもあり、実在の人物を描きながらも事実と捏造の境目が極めて曖昧であると言う、いかにもクヒオ大佐を語るためのスタイルと言う気もする。

 話は変わるが、クヒオという名前を持つ歴史上の人物を御存知だろうか? 19世紀生まれの、ハワイのジョナ=クヒオ=カラニアナオレ王子である。“Prince Jonah Kuhio Kalanianaole Day ”クヒオ王子の日として、その功績を讃え、誕生日の3月26日がハワイの祝祭日になっている。1871年生まれで王位継承権第1位のハワイ王族だったが、1893年、リリウオカラニ女王の時に革命でハワイ王朝が終わってしまった。だが1902年、下院議員として国政に参加。以降20年間、天に召されるまで最初のハワイ人の議員として活躍した。

 だが、ジョナ=エリザベス=クヒオなる人物は、このハワイの教育水準向上などに尽くした高潔な政治家とは、何の繋がりもない。

 ヘンテコな軍服で現れては、「私ト結婚スルト、米軍カラ5000万円ノ結納金ガ出マ〜ス」「いぎりす王室カラハ5億円ノ結納金ガ支給サレマ〜ス」という小柄な男は、もちろん軍からの支給ではなく、趣味の軍装品屋で小道具を仕入れていたらしい。じぇいかんさんの、じぇいかんのアマチュア無線日記の2006年4月6日の記事『結婚詐欺師クヒオ大佐』に、84年に逮捕されるしばらく前に、クヒオ大佐が軍装品を買いに来たと言う話がある。彼の口八丁の軍事知識の深さなど、背景情報として非常に興味深いので、是非ご一読をお勧めする。

 ちなみに、言うまでもないが、彼は純粋な日本人。風貌から「やいアメリカ人」と遊び仲間に言われた事や米軍の電波基地がかつて故郷の近くにあったことが発端にあるようだが、間違っても、戦後の混乱期に米兵と日本女性の間に生まれたなどと言うことは無い。竹内武男が生まれたのは1942年、昭和17年。太平洋戦争のさなかである。

 さて、この本である。小説仕立てになっていて、非常に面白く読める。
 かつて、クヒオの詐欺事件を追ったこともある著者の吉田和正さんは、直接クヒオ大佐本人に取材した事は無いものの、ある米軍問題を取り扱ったムックで、クヒオ大佐の行状について文章を書いたこともあり言ってみればマスコミに於けるクヒオ大佐の専門家の一人。取材行の帰路、偶然にも新幹線の大阪駅で、(多分1年ほど前に出所して来たと思しい)クヒオ大佐を見かけた。妙齢の女性が付き従っている。クヒオ大佐の格好は、旅装と言うこともあり、くだんの軍服こそは着ていないが、女性連れの2人旅というところが、前職(つまり詐欺)に復帰したのだろうと思わせる。はたしてこの女性は「カモ」なのか、はたまた一緒に詐欺を働くクヒオ劇団の助演者(パートナー)なのか?

 疑問を抱きつつも、そのまま尾行することも出来ず、東京に帰り着いた吉田さんは、2ヶ月後、ライター仲間からある相談を受ける。ライター仲間のそのまた友人が、行きつけのスナックでマスターから「店の客の一人がハワイの王様の息子と結婚する」という話を聞かされたと言うのだ。なんでも、ハワイで挙式、仲人は田中眞紀子夫妻、司会がKonishiki。吉田さん達は吹き出すが、雨宮さんと言う女性はそれを信じ、式の費用として既に500万円を用立てていると言う。結局、客の事を心配したそのマスターに頼まれた吉田さんは、雨宮さんに会うことになる。

 だが、それだけで、対クヒオ大佐作戦を考えていられれば、きっと吉田さんも幸せだったろう。あっという間にそれで済む状況ではなくなった。ある日吉田さんのもとに、編集部経由でファンレターが届いた。その送り主こそ、クヒオ大佐の元被害者の一人で、現内縁の妻の中村さんという女性。ファンレターと言うよりは相談事だった。会ってみると、出所後しばらくはおとなしかったクヒオ大佐が、最近、おかしいと言うもの。話してみると、結局中村さんが考えているのは、彼に早く立ち直ってもらいたいということ。そのめに、故郷に自分探しの旅をさせてみたいと中村さんはいう。彼女の知合いで我が儘だったがん患者が、故郷に旅をした事をキッカケに人格が非常に丸くなったと言う例を挙げ、クヒオ大佐こと竹内武男の出身地、北海道に旅をさせてみたい、ついては、その旅でクヒオ大佐が米国軍人として振る舞い始めた時に止めてもらいたいので付いて来てくれと、頼まれた。

 かくして、稀代の結婚詐欺師クヒオ大佐、かつての被害者で内縁の妻、そしてクヒオ大佐の事を記事に書いたことのあるライターによる、自分探しの旅が始まった。お話しは、一気にロードムービーである。かつての同級生や、証券会社を脱サラしてペンションオーナーを営む後輩など、ちゃんとと自分の生涯を生きた人たちと何十年ぶりかに出会って、稀代の詐欺師は何を思う? クヒオ大佐を伴って自分の故郷に戻って静かに暮らしたいと言う、中村さんの夢は叶うのか? 吉田さんがぶち上げたクヒオに贖罪をさせるための秘策とは?

 そして、新たに登場する女、警察沙汰、この後に及んで「コソボに出撃しなくては」とのたまうクヒオ大佐。はたして彼等を待ち受ける結末とは?

 どうやって騙されるのか判らないような、稚拙な設定と突飛な話で、結婚を夢見る女達から金を巻き上げ続けた稀代の詐欺師、ジョナ=エリザベス=クヒオ大佐。
その珍妙な生涯の表と裏を、ホンの時間つぶしに面白可笑しくツリツリっと読んでみるには、割と軽くて良い読み物である。

 ちなみに、この本の中で作家の吉田さんが、「ジョナ」というファーストネームを「獄中で読んだ『カモメのジョナサン』の速さを求めるカモメの姿に自分を模し、ジェットパイロットの名前にした」と云う風に書いておられるが、ジョナ=クヒオ=カラニアナオレ王子の名前そのものから取ったと考える方が自然ではなかろうか。もちろん、そもそも「ジョナ」ありきで「クヒオ」が後から付いて来たのかも知れないが。

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コメント

とり・みきの話で、実際にこの人物の臨終場面で、ユニオンジャックをつけた黒塗の車が、というのがありました。
女性週刊誌によく登場しましたね。

投稿: やしお | 2006/04/14 13:51

やしお さま

 短躯で、年を20もサバ読んだ怪し気な染め金髪の日本人(50歳台)を36歳で東西の王室にすら通じた重要人物と信じさせるマメさが、この人の特技だったんでしょうなぁ。というか、エサとウソのバランスが上手いと言う事かな。

 しかし、ユニオンジャックを付けた黒塗りの車が「ちゃんと死んだことを確認しに」やって来るのはアリかなぁ。(^_^;)

 ちなみに、カメハメハ大王直系の子孫は、今、ハワイ島で、米国最大規模の個人牧場を経営しているパーカーさんです。(ま、他にも居るんでしょうが……)

投稿: 神北恵太 | 2006/04/14 14:24

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