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2006/04/08

架空歴史だぞ

 『ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記』に2006年4月8日、『もし、南北戦争で南軍が勝っていたら?』というエントリがあった。

 保険会社のテレビCM。
「連合保険はあなたの財産を守ります」
 「財産」というところで画面に映るのは、白人家族の立派な邸宅と、その家の庭の植え込みを刈る黒人の少年。彼は家や自動車と同じ、この家の財産、つまり奴隷なのだ。
 これは黒人奴隷制度が今も続く、もう一つのアメリカのテレビCMなのだ。
 映画『C.S.A. Confederate States of America』は、「もし南北戦争の勝敗を決したゲティスバーグの戦いで南部連合が勝利していたら?」というニセ・ドキュメンタリー。

 うむ。架空歴史モノだ。

 南部軍は首都ワシントンを陥落し、アメリカ合衆国United States of Americaは滅んだ。そしてアメリカ連合国Confederate States of America がアメリカ全土を支配する。USAではなくて、CSAだ。

 この映画『CSA』は、イギリス国営放送が製作したCSAの歴史についての教育番組をCSAのTVが放送している、というややこしい構成。だから番組の合間にCSAのCMが流れる。

 うーむ。これは……。なんっちゅうか、スゴい映画だなぁ。

 北軍が負けるとリンカーン大統領や共和党支持者の多く、それに北部に住むほとんどの黒人がカナダに逃亡する(奴隷解放はリンカーンはじめ共和党の政策で、南部は民主党だった)。

——中略——

 南北戦争から復興したCSAは、メキシコ、キューバを占領し、その勢いで南米全土も支配して大アメリカ帝国となる(中南米侵略は実際に南部政府が予定していた)。

 第二次世界大戦でCSAはもちろん白人至上主義のナチス・ドイツと同盟する。

 なかなか徹底している。実際の話、21世紀初頭という歴史の下流から見返す時、南北戦争というビッグイベントの最大の焦点は、アメリカ合衆国が奴隷制を継続するか撤廃するかという所に収斂する訳だが、北部諸州と南部13州とが戦争に突入したのは、別に人道的な理由だけに因ったのではない。無論、人間愛とか、平等思想とか言うものは大きかった。しかし、戦争という非常に大きな経済行為をおこすには、それなりの経済的な原理が隠れているものだ。奴隷制に拠って労働賃金を極限まで押さえる事に成功した南部経済と、今ひとつ発展が加速しない北部経済の、同一国内に於ける経済格差(つまり南北問題)という背景に目を転じると、ちと異なる様相が見えて来る。つまり、現在アメリカが唄う自由や平等というものは、白人同士の経済闘争の帰結として、やっかみに近い不平等感という推進力が事態を動かした結果、偶然に転がり出ただけという考え方も、一つの思考実験として成り立つのだ。

 かくして偶然の天秤が我々の知る側に傾かなかった、奴隷制度を放棄しないアメリカ連合国が誕生した世界。ここで、そのまま奴隷制度が21世紀まで残ったから、冒頭のテレビコマーシャルが流れる訳である。

 で、最後、アメリカ連合国はどうなるかというと、20世紀末にはDNA鑑定により純潔白人以外に市民権を与えない国になっている。そして、21世紀に入った今、女性参政権すらも認めていないこの巨大な人種差別主義国家が次の目標としているのは、中東のイスラム教徒だという話になるのだそうな。

 ハっとするではないか。「別にUSA(アメリカ合衆国)がCSA(アメリカ連合国)に置き換わったとしても、やっていることは同じ」と言いたいのではないかということが、明確に見えて来るから。
 ちなみに、町山さんによると、監督はアフリカ系のケヴィン・ウィルモットという人。黒人の目から見ると、そういう作りになるのかなどと単純に言うべきではないが、考えさせられる。

 しかし、何のかんのいってもアメリカは自由の国なのだなぁと思う。日本ではこういう作品は、なんだかんだとネガティブな「忠告」に進路を塞がれ、まず作れないだろうなぁ。

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コメント

これは興味深いですね!

ネルソン・マンデラ氏は別な働きをしたのかも?

黒人と白人の混血がミルクコーヒー色になるわけではない、と昔どこかで聞きましたが・・・

われら、黄色人種はCSA時代も微妙な立場と言う事ですかね。

投稿: アーガマ | 2006/04/08 11:31

アーガマ さま

 元記事をお読み頂くと判りますが、第二次世界大戦は、日本が何かを始めるより前に、アメリカから核攻撃を喰らっており、以降日本は死に態のようです。

 昔、『エイリアン・ネイション』という映画がありました。銀河文明の奴隷船がアメリカ合衆国に漂着し、アメリカは合衆国法上当然のこととして「積み荷」の奴隷達を解放し市民権を与える。しかし、平均的な地球人より知能・体力ともに優秀な新移民(ニューカマー)達が社会に進出し始めると、それを排斥しようという地球人が出没し始めた……。というお話しで、アメリカではTVシリーズにもなりました。
 当然これは、インド・中国・韓国・日本ベトナム等々のアジア諸国からの教育水準の高い移民と白人社会との軋轢の写し鏡になっています。

 こういう、思い切った設定の話を作れるのは、アメリカの羨ましいトコロです。とはいえ、その社会に於ける地球人とニューカマーの刑事コンビを主人公にしたストーリーが大人気だったにもかかわらず、色々とオモンパカるコトが多かったらしく、この番組は1シリーズか2シリーズで打ち切られています。
 こういうのは、自分の立場からの意見を述べるだけで誰かを攻撃してしまいかねないので、難しいのでしょうね。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/08 12:27

これ、もろシムシビライズやんけ~。しまった、パテント取ってなかった……って、こんなん、パテント取れんわなあ(^_^;)。

投稿: 羅門 | 2006/04/08 14:43

ううむ、みりおた的にはヒトラーなんぞと同盟したら庇を貸して母屋を取られるだろ、とかユダヤ人を排斥して原爆作れるのか、とかいろいろ突っ込みどころもありそうですが、そういう話ではないわけですね。日本では上映されるのでしょうか。
ところで、本当に恐ろしい米国とは、「結局やってること同じやん」の米国なのか。「何だかんだ言ってもこういうの作れるやん」の米国なのか。一見前者ですが、うまいこと希望を持たせてしまう後者の方も・・・。

投稿: 成田ひつじ | 2006/04/08 18:31

同じサイトにはこんなのもありました。

「『ラスト・サムライ』のトムクル(まだだ)とワタケンだって」はその気にさせます。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060226

投稿: ふるき | 2006/04/09 01:22

羅門 さま

 私もそんな感じを受けました。ちうか、シム・シビライズの有無はさておき、営々と架空戦記のための世界設定を見聞きし、作り、いじって来た我々からすると「まだまだ甘〜い!」ってトコが多いんですが、まあ、映画一本に纏めるとすると、そうそう拘泥はでけんのかとか、作品媒体と盛り込む設定の匙加減とか、思いを馳せるコトが多いッスね。

成田ひつじ さま

 真珠湾以前に原爆を作れるのか?
 原爆くらった日本が60年以上復興出来んのか?
 だいたい欧州はどうなった?
……と、考えてしまうと、ちとアラが多そうですが、「一度寒ブナ機までに叩きのめした国は、二度とアメリカに逆らえなくなる」という能天気な思想は、現実のイラク戦争と同じですから、作品的にはこれで良いのかもしれません。

ふるき さま

 この町田さんのサイトの視点は、どれも、わりと面白いですよ。
 

投稿: 神北恵太 | 2006/04/09 09:47

アニメやらコミックやらはいまや日本の輸出文化として確固たる地位を築いておりますが。
架空戦記がその地位に上り詰める(もしくは落ちぶれる)のはいつでしょうかね。

投稿: 森野人 | 2006/04/09 14:34

森野人 さま

 架空戦記と言うのは、その国ごとのトラウマやノスタルジーを上手いこと刺激してやらねばなりません。たととえば、日本だと『太平洋戦争でアメリカに勝つ』とか『本能寺焼き討ちごときで信長が死んじゃったりしない』『豊臣一族が滅びない』『江戸幕府が終わらない』等が基本的に好まれる定番です。
 韓国は判り易いことに、『古代日本の任那支配に/中世秀吉朝鮮出兵に/近代の挑戦併合に/近未来に、逆襲して、日本をコテンパンにする』というのが売れスジと聞きます。
 かくも、民族意識や固有の歴史に根ざすものがウケるジャンルですから、ビジネスモデルとしての概念や方法論は輸出出来ても、個々のコンテンツ(作品)自身は、外に持って行けないと思いますねぇ。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/09 14:52

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