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2006/04/10

夢野久作の世界だぞ

 『ドグラ・マグラ』を御存知だろうか? いや、機械獣のことではない。夢野久作の小説のことである。
 松岡正剛の千夜千冊の2001年10月17日の記事、第四百夜 夢野久作『ドグラ・マグラ』にこうある。

——前略——

 その正木の主張は一言でいえば「脳は何も考えてはいない」という恐るべきもので、むしろ何かを考えているのは細胞のレベルだというものになっている。脳は電話交換所にすぎない、むしろ人体は各部分で考えている、それが正木の若林に対する確固たる主張なのである。

——後略——

 この『ドグラ・マグラ』の世界で展開される理論に拠ると、脳は、全身の各臓器が考えたコトを単に外に出すだけの器官に過ぎない。だが狡猾にもそれを隠し、霊妙な思考器官であると思わせることで、人体内で最高の地位を確保している。そして、その史実を知ってしまった宿主たる人間は……。

 まあ、読破した者が一度は精神に異常を来すと言われる奇書のことは、ちょっとした前振り。気になった方は是非読破していただきたい。が、責任は取らないぞ。

 で、本題。

 海外ボツ!NEWSに2006年4月8日、『細胞の記憶 臓器提供者の資質が受け継がれる』という記事が載った。

 元ケータリング業者のウィリアム・シェリダンさん(63)は2年ほど前、ニューヨークの《マウント・シナイ病院》で心臓移植手術を受けた。手術は無事に成功し、新しい人生を歩み始めたが、手術後、不思議な現象が起きた。
 ウィリアムさんは臓器提供者を待つ間、病院で絵を描いて、退屈を紛らわせ、気持ちを落ち着かせる精神療法を受けていた。が、美術の才能はまるでなく、幼稚園児のように遠近感のない稚拙な絵しか描けなかった。
 でも絵を描くことが大好きになり、手術後も「またやってみよう」と趣味で再開したところ、自分でも信じられないくらい見事なテクニックが身についていたのだ。

 臓器移植、特に心臓の移植に拠って、こういう技能・才能に目覚める、既視感に囚われると言う話は、ちょくちょく聞く。これも、その一例である。

 よくネタ元にさせて戴いているX51.orgさんの2005年3月2日の記事『心臓移植で転移する人格 - 記憶は細胞に宿るか』には、こういう症例が幾つも報告されている。

 こういう症例報告が、思ったより多いのだ。

 さて、それが、元記事でアリゾナ大学医学部のギャリー・シュワルツ教授いうトコロの「細胞の記憶」なのか、内蔵という単位に嗜好や技能といった能力が宿るのか、それは全く判らない。が、なんと言っても「ハートを移植」するのだから、何が起こっても不思議は無いのかも。

 ちなみに、X51.orgさんには、2006年01月17日に『女性の肝臓を移植された木こりが突然家事に目覚める クロアチア』 という記事もあった。確かに、心臓と言う報告が多いようだが、特に心臓移植固有の現象と言うことではないのかも知れない。

 ただ、心臓を取り替えたことにより、拍動に因って押し出される血流量・血圧が変化したり、肝臓や腎臓を取り替えたことで血中老廃物の濃度が変化したり、他人由来の細胞が一定以上体内に存在することによってホルモンバランスが僅かばかり変化して、これまで不活性だった脳の部位を刺激して(若しくは逆に活性部位を休眠させて)、それによって嗜好や技能が変化すると言うことはあり得ないだろうか?

 神北としては、この、手術を機に起こった物理的・化学的な理由に因って、理論脳(左脳)と直感脳(右脳)のちょっとした働きのバランスが変化しただけ、という説を取りたい。でないと……。

 ……でないと、真実を知ってしまった我が身が危ないではないか……。

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コメント

よく、人格は全て脳の中にあるようなことを言いますが、それはきっと間違いだと思います。
人格(感情の動き)は、細かく分析的にみると自律神経系や各種ホルモンの働きによる部分が大きいので、その人の体の各部分(の働き)全体によるものだと位置づけた方が事実により近いんじゃないかと思います。

心臓、肝臓以外にも、たとえば消化器系には膨大な量の神経ネットワークが存在することが知られています。
ここを切除する・移植する(でもたぶん接続はしていない)というのは、ズバリロボトミーにも等しい影響が出るのではないでしょうか。
接続したらしたで、むしや立ち方に変化が出るでしょうし。

20年前のSFはいよいよ現実のものになってきましたね。
これから「パッチワークガール」(ラリー・ニーブン)のような事件が起こるかと思うと、ドキドキ(でもちょっとワクワク)してしまいますね。

投稿: まっち | 2006/04/10 10:43

まっち さま

 いろいろ、医学的・生化学的な新事実が判れば判るほど、人間の精神とは全身からのフィードバックで駆動する細密な化学コンピュータ上のソフトウェアであるように思えて来ます。
 こんな複雑かつコンパクトな思考システムを設計したヤツ(居るのか?)は、スゴいですよね。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/10 10:59

それは細胞記憶ではありません。霊です。医学的にみて、霊の仕業しか考えられません。臓器移植提供者の背後霊が、提供された人物に乗り移ったのです。霊です。これが定説です……あー、一度、言ってみたかったぞ(^_^;)。

投稿: 羅門 | 2006/04/10 11:16

羅門 さま

 (^_^;)……。

 い……、医学の専門家にそう言われて、ワタクシになんと返せと? (^_^;)……。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/10 13:16

どこぞの語学教室では、スペシャルコースを選択して臓器移植を受けるとみるみる語学力が向上・・だとか。

でも読み書き出来るのは簡体字だけだったり。

投稿: 森野人 | 2006/04/10 15:35

 ピッキングや青龍刀の振り回し方が上手になっていたら便利

投稿: 東部戦線 | 2006/04/10 21:49

森野人 さま
東部戦線 さま

 「君の言葉は下町言葉かね? ガラが悪いね」と言われそうな上達法ですな。
 でも、モノになる技能を持った臓器には、なかなか当りそうにない所が、乙。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/10 22:07

ううむ。興味深い。
このセンでいくと、いつの日か「爪のアカを煎じて飲む」ことの
効果にも科学的裏づけが出てきてしまいそうですね。

あるいは、偉人の脳のホルマリン漬けやら、聖骸布やら、仏舎利やらをめぐる
暗闘が始まったりするかもしれません。

あるいはクローン技術と相まって、臓器のブランド化が進むとか。
「某マラソン選手の心臓」の値が爆発的高騰……。

意志薄弱なワタクシも、毛の生えたやつを一個
入れてみたいもんです。

投稿: ドヴロク | 2006/04/11 00:43

ドヴロク さま

 そんなことになったら、もう、たかが「ダヴィンチ・コード」ごときで大騒ぎしている時ではありませんな。
 内臓移植を狙って、死刑になった教祖の遺体返還を願い出るカルト教団教徒とか、それで活気づかないように完全に火葬廃棄する司法の判断とか、いろいろ起こりそうです。
 アジア各地では、(どうやってかは別として、)「ブッダの骨」を移植したら「ンモォ〜ッ」と鳴き出す人が続出したりしそうです。なんせ、アジア中の仏舎利の総量は、2トンありますからね、

投稿: 神北恵太 | 2006/04/11 04:43

一晩経って事の重大さに気付きました。
それじゃ、サイボーグの立場は・・・?
ああ、少佐が只のマネキンに、バトーが只のターミネーターになってしまう^^;。
あるいは、そもそも脳などいらず、超高性能の生体I/Oプロセッサで置き換えたら凄いことになるとか。頭は只の感覚器官載せ台。
恐るべしステゴザウルス<違うか

投稿: 成田ひつじ | 2006/04/11 09:54

成田ひつじ さま

 サイボーグの場合、脳味噌にちゃんと合わせた擬態内部の人造内分泌器官の調整を行なって、義体化以前と情動が変わらぬように調整する事が、医師の腕なのではありますまいか?
 となると、幼少時から完全義体化していた少佐の場合、サンプルたる義体化前の自分というのが乳幼児期のものの記録しかないので、成長に合わせて調整を行なう事は、多大な医師の努力と想像力、そして本人の協力が必要だったと考えるべきでしょう。かくして、沈着冷静にして思慮深くも大胆な、ああいう少佐の性格が形成されたのではないでしょうか。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/11 11:31

すいません。
元ネタではなく、その後のコメントのやり取りが……爆笑させて頂きました。

贅沢は言いません。皆さんの脳みそを移植させてください。w

投稿: かざま | 2006/04/11 16:55

かざま さま

 うちの常連さん達達はたぶん、内蔵にテトロドキシンを多量に含んでいるので、手術はちゃんと免許を持った資格者にやってもらって下さいね。法外な報酬を要求する無免許医とかじゃあダメですよ……。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/11 20:58

法外な報酬を要求する無免許医の手でも移植して自分でやればいいではないか、と。

少佐は・・・実はスキャナーみたいに自分で内分泌を調整するつまみが胸についてたりして。
勝手に触ると殺されそうですが。

投稿: 森野人 | 2006/04/12 09:03

森野人 さま

 そんな、バトーくんでも出来ないようなオソロシイことを……。

投稿: 神北恵太 | 2006/04/12 11:59

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