ローカルでリフレッシュだぞ
2006年6月3日土曜日。まだ明るいうちに神北とむらさきは、長野県、白馬の岩岳スキー場に到着した。今年もまたセブンロッジで、ローカル・リフレッシュ・コンベンションが開催されるのである。
とりあえず、ちょいと時間があるというので、寝部屋に荷物を置きに行くと、無精髭を1センチ程蓄えた辻堂くんがいた。大会の資料を抱えて、機材チェックをしている。白馬まで来てご苦労様なことである。なんか、(後知恵で考えると目前に迫っていた)村上逮捕の話とか、最近考えている格差社会亡国論とかで盛り上がる。
ローカル・リフレッシュ・コンベンション、今年のゲストは桜坂洋さん。『よくわかる現代魔法』・『スラムオンライン』・『All you need is kill』など、ヒット作をばしばしと刊行し続けている人気作家である。
夕食の時間。桜坂さんの音頭で乾杯。白馬の一夜が始まる。
このセブンロッジ、本来はゲレンデに面したスキー宿である。白馬のペンション村のなかでも、特にゲレンデに近い便利な位置にある。
とはいえ、我々は毎年この時期にお邪魔するので、ゲレンデをゲレンデとして使用していない。この日も昼間は、長保さんや安達君の指導でモデルロレットを飛ばしたらしい。ただし、この日は風が強く、上げるロケット上げるロケット次々とロストしたというから、ロケットを持って来た皆様、御愁傷様でした。
まずは簡単に、文庫で出ている桜坂作品を紹介しておこう。
『よくわかる現代魔法』シリーズは典型的な「ドジでまぬけ、誠実だけが取り柄の女の子が、何の巡り合わせかまっすぐさだけをたよりに世界をひっくり返しかねない大事件に挑む」話。そこに、コ
ンピュータの実行コードの中に潜み、CPUで高速実行されることによって発動する「現代魔法」と、人間の体を依り代として発動する「古典魔法」など、魔法のテクノロジー体系化がなされている。「現代魔法」「古典魔法」のどちらも
が、稼働するシステムこそ違うものの、「違う物理法則を持つ別世界との境界を曖昧にし、この世の理を超えた現象を引き起こす」手順、いわゆる「コード」で作られているというところが面白い。専業作家になる前はプログラマーだったという桜坂さんの資質が、遺憾なく発揮されている連作長編である。
また、1970年代前半誕まれのゲーム世代・ガンプラ世代(そして多分、秋葉原派)である氏の発想は、時にストレートに、時に遠喩として、濃密な空気感を醸し、物語の端々を彩る。
ゲーム世代としてのプレイ経験・観察眼がフルに生きている(んじゃ無いかと思われる)のが『スラムオンライン』。茫洋とした、しかしオンライン格闘ゲーム世界ではよく名の知れた非常に優秀なファイターでもある、ゲームマニアの青年の、ゲーム世界での成長と現実世界での恋愛を、両世界を等価に置き、シームレスに描いてみせたこの作品は、格闘ゲームもオンラインゲームも、東京の学生生活にも無縁の神北が読んで面白いのだから、その咀嚼の完璧性と描写の慶明ぶりたるや、なかなかに恐るべきものがある。
そして、今のところ神北が推すベスト・オブ桜坂洋であるトコロの『All you need is kill』である。ビートルズの名曲の「Love」が「Kill」に変わっていて、侵略生命体との生存戦争に追い込まれた人類の兵士が主人公と来ると、もっと凡庸な作品を想像してしまうが、さにあらず。道具立ての巧さに於いては野尻抱介氏の『太陽の簒奪者』と並び称すべき現代日本作家による侵略SFの傑作である。
もっとも、野尻さんの『〜簒奪者』が侵略に対峙する人類全体を描いた大河小説であるのに対し、桜坂さんの『〜Kill』は、養成校を出て新兵として配属されて来たばかりの主人公一人の、初陣たった1日を描いたものである。しかし、この1日で無限に成長し、戦場を支配する能力を得た彼が最後に得たものは……? それはあなたが読んで確かめてもらいたい。(お詫び:この解説のあらすじには、アカラサマに大きな嘘があります。その嘘とは……? それはあなたが読んで確かめてもらいたい。)
さて、桜坂さんの乾杯で幕を開けたロリコン23。食事の後、リビングで桜坂さんを囲んでの質疑応答となる。毎年一人のゲストを招き、ゆっくりと話を聞くというこのスタイルは、ローカル・リフレッシュ・コンベンションの特徴である。
この企画のキモは、なんといっても毎年司会を引き受けているまるさんこと丸山さん。そのマイルドにして機転の利いた質疑にある。この人、ゲストの応答を巧く引き出すことに関して云えば、今、SFコンベンション企画のインタビュアーとしては日本屈指の逸材である。
40〜50名の参加者に囲まれて最初は緊張しているゲストも、この質疑応答の間に、徐々にリラックスして行く。各論から入り、気がつけば、作家としての作品論、執筆姿勢など、深いところまで話が進む。やはり、第一線の現場で切磋琢磨している人の話は面白い。
で、そのインタビューを受ける桜坂さんの後ろには、スタッフが集められる限りの桜坂作品が置かれている。文庫などの桜坂さん本人名義の単体として出た本はもちろんのこと、関わった作品、掲載された雑誌、毎年、そういう物をきっちりそろえる努力には頭が下がる。もちろん、集めるだけでなく読み込んでいて、ゲストとの質疑の中でそれは生きている。こういう姿勢で臨めばこそ、ゲストも遠くから来る甲斐があるという物だ。
その本の脇に、大きなたらいが置いてある。そこには「このたらいは 森下こよみが魔法で召還したものであることを保証します。2006.6.3.桜坂洋」とサインがされている。(詳しくは、『よくわかる現代魔法』シリーズをお読み戴きたい。)
ちなみに、タライの前においてあるのは、ウルトラアイである。で、その乗っている箱は『ジョー90』のプラモ。その他、この日は、メガネ関係の代物が大量にセブンロッジのリビングに置かれている。
実は、神北は寡聞にして知らなかったのだが、桜坂洋=メガネスキー というのは、自他ともに認めるトコロの世間の常識だそうな。
で、桜坂さんを囲んでの全体企画終了後、このリビングの企画は、同志サクラザカを迎えての眼鏡っ娘至上主義者決起集会と化した。いや、きっと正式の企画名はもっと穏当なものが付けてあったのだろうが、ワシャよう知らん。(^o^;) これで状況は充分に伝わった筈だ。
この2つめの企画からは、リビングだけではなく、他の大きめの客室も使って、パソコン部屋や女の子のお茶会が始まっている。神北は、とりあえず決起集会を覗き、そのままパソコン部屋を覗きにゆく。当然ここには羽目仙人とちょんぼさんが飲んだくれている訳だ。昔はここからニフティにつないで、FSFでチャットしたりしたものだが、既にニフティサーブは無い。ローカル・リフレッシュ・コンベンションより後に誕生し、先に逝ってしまった。
女の子のお茶会は、なかなか盛会。桜坂さんも、2本目の企画が終わってここに移って来たようで、なんだかんだと雑談。
結局、3時ぐらいまでお茶を飲んでいたようだが、さすがに眠くなって退散というか、解散。トイレから戻ったら終了していた。(^_^;) とにかく、翌日も運転があるので寝る。
翌朝目が覚めたのは5時30分。辻堂君が「散歩いきませんか」というので起き出す。既にリビングに起きて来ていた安達くんを誘って、周囲をぶらぶらと歩く。朝の空気が澄んでいて気持ち良い。流石は高原地帯。海抜700メートルは伊達ではない。で、てこてこと歩いていると、安達くんが叫んだ。
「あ、なんだありゃ?」
「何? どーした?」
「いま、多分リスなんだろうけど、ヴェラキラプトルみたいな陰がそこを横切ったんだ……。二本足でしっぽが伸びてて……、あ、ホラあれ!」
見てビックリである。確かに、体高15センチ程度の小さな動物が、テコテコテコっとアスファルトの道を2本足で走り抜けてゆく。前足は短く、長い尻尾でバランスを取っている。
「うぉぉ、ホントだぁ。さすが白馬だなぁ自然がいっぱい」
「ひゃあ、大きいの居ないよね?」
ま、リスなんだろうけどサ、平行進化っての? 本当に、スピルバーグの映画に出て来る動きだったんだよぉ。
さて、セブンロッジに戻って朝ご飯。昔は3人ぐらいは酔いつぶれてて朝飯食わないって人がいた(、で、その倍ぐらい、二日酔いで食えないって人が居た)んだが、最近はみんな健康的だ。ほとんどみんな朝飯を食っている。
ご飯の後は、9時から閉会式。ローカル・リフレッシュ・コンベンションは閉会式が早い。というのは、その後、みんなで近くの山にゴンドラリフトで登ったり、絶品の傍を食いに行ったりするからだ。
閉会式を前に、冬にはゲレンデになる草地を走り回る子供たち。最近は、ローカル・リフレッシュ・コンベンションも子供連れが多い。写真は、葉月・Alice一家。一番下のワンパク坊主は、遠くまで走って行っちまってフレームに収まらなかった。
さすがにみんな燃焼しきっているのか、まだ体が起きていないのか、閉会式はいつも、わりと淡々と進む。とはいえ、ゲストから頂いたサイン本を求めて、拳で勝負(じゃん拳大会)したり、わりと燃え上がる局面も用意されている。
6月初旬とはいえ、晃晃と日が射すと暑いくらいの年もあるのだが、今年はわずかに雲が出ていて、やや曇り。閉会式日和と云ったところか。
締めの挨拶で、「また来年」と云ってしまった富井会長が「うわ、ヤベ」という顔をするところまで毎年のお約束通り、いつもの閉会式である。
最後に、全員で記念写真を撮って終わり。もちろん、当然のように「ハーイ、桜坂先生の周りにメガネ女子集まって」というかけ声ががかる。判ってらっしゃる。
このまま、八方のゴンドラで上に登って、山菜採ったりぶらぶらしたりするのも楽しいのだが、実は、神北家は、この日、友人の結婚パーティーがあって東京に戻らなくてはならない。
名古屋組とももちっと遊びたかったが、時間のあることだからしょうがない。というわけで、閉会式の終了後、名残を惜しむ間もなく、車に乗り込んで出発。
今度は、鬼無里経由の国道406号ではなく、オリンピック道路(白馬長野道路)を経由する南回りルート。こちらの方が断然早い。なぜかというと、道が曲がりくねっていないから。長野と白馬の間を急ぐ時は、近年整備されたこちらである。……と思っていたが、やはりオリンピックで先行して予算を使いすぎて、意向何年か補修費が足りなくて道ぼろぼろと云うのは本当なのだろうか? 犀川沿いの道路の川側の斜線の真ん中ぐらいに、かなり多量のアスファルトのヒビが出来ていて、あちこちでのり面工事が行われている。もう、満身創痍の道という感じなのである。今の長野県、道路インフラの重要度を見誤っては居まいか?
かくして、長野駅へと帰還した我々は、営業所の電話番号をナビに入れればイッパツだと云うニッポンレンタカーの兄ちゃんにだまされて、見事に駅の反対側に連れて行かれ、ぐるりと駅を回り込むなんて、愉快なクエストもこなしつつ、レンタカーを返した。
そのレンタカー屋の駐車場の脇に置かれた小さなスチール倉庫に、面白いマークがあったので、パチリ。「三つ葉初心者マークの紋所」である。いやもちろん、早い話が、ただ、必要という人の車に付けるための初心者マークを、わざわざ事務所まで持って上がるのが面倒だからとヒョイとスチール物置にくっつけて保管しているだけなのだが、こんなものを「目に入らぬか〜」とズイと突き出されたら、わしゃ、エビのように後ずさって逃げるね。きっと。
三つの力が一つになった、キング・オブ・初心者って感じじゃないですか。勇者シリーズの新人ロボに貼ってあったら笑うなぁ。
しかし、誰が考えたんだろうなぁこんなこと。
さて、長野からは、新幹線。これが、走るにつれて、どんどん天候がおかしな方に。軽井沢を通る頃には、霧というか、超低く垂れ込めた雲というか、もう、沿線の30へ40メートルまでは見えているが、100メートルと視界が無い状態へと突入。ま、新幹線なんで、乗っている客に取っては全然構わないんだが……。
結局、軽井沢をすぎたあたりから眠り込んで、大宮まで5分というあたりでむらさきに起こされた。
さて、この後は、一度家に帰って着替えてから、銀座で結婚パーティーである。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
「現代魔法の基礎知識」ではなく「よくわかる現代魔法」です。
投稿: 池田武 | 2006/06/07 12:37
池田 さま
あ、ホントだ。直しました。
m(._.)mスマン!
投稿: 神北恵太 | 2006/06/07 22:11