技術的飽和だぞ
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木健社長が、2006年6月22日に行われたソニーの株主総会で、PS3の累計出荷1億台をぶち上げたそうだ。
ん〜〜。どうでしょう? ……というのが正直な感想。
確かに、PS(プレイステーション)シリーズは、過去2世代、累積出荷1億台突破を果たしては居る。
しかし、周囲と比べて断然技術的優位に立っていた(と神北が思う)プレイステーションや、先行機種の優位を決定付ける事の出来たPS2と比べて、確かに技術的進化は目を見張るべきものがあるものの、PS3はそこまで訴求力がない気がする。
まず、最大の問題点は、流石に10万円とは言わないが、1万円代後半という価格設定であろう。少なくとも、ゲーム機の値段ではない。廉価なパソコンなら充分に買えてしまう。
で、そこまで価格を持ち上げているブルーレイディスクとか、超高性能画像チップとか、そういう新技術がどこまで今求められているのかというと、ちょっと難しいのではあるまいか……という気がする。
というのは、プレイステーション発売時、CD-ROM搭載はゲーム機の基礎要件となりつつあり、その中で、ほぼ同じ価格帯中、ポリゴン描画に秀でた画像描画エンジンという武器を持っていたのが、ソニーの勝因だった。
もちろん、その技術的優位を収支的に支えるためにやたらと削られたメインメモリは、せっかくの大容量を誇るCD-ROMから、ちょっとずつしかデータを取り出せずにやたらとローディング待ちが発生するという非力さだったが、そこは、各ソフトメーカーの涙と努力によってなんとか間を持たせつつ、人気ゲーム機となった。
続くPS2は、DVD揺籃期にあって、まだDVDプレイヤーを持たない家庭が多かった中、ゲーム機を買うとDVDまで見れるというウリがあった。まだメインメモリは乏しくて、しょっちゅう「Now Loading」が出るトロ臭さは残っているが…。
しかし、PS→PS2で搭載ドライブがCDからDVDに進化して映像が見れるようになった事と、PS2→PS3でDVDからブルーレイディスクへの進化で画質が良くなった事は、全く次元が違う。
確かに、上を見ればまだまだ画質的な満足が得られている訳ではないDVDだが、
この規格の限界は媒体の容量以上に、「家庭用のテレビ画面で見るならこの辺りで良いのでは?」という技術的な割り切りが影響していた。ところが、この「家庭用のテレビ」というものが、ここのところ大きく二極化している。メーカーとしては10万円台〜100万円台の高画質テレビを売って行きたいという希望があり、それを下支えするように、非常に愚かしい事に、地上波テレビのデジタル化などという、庶民に取っては迷惑千万な映像システムの切り替えを御上が強要しつつある。
とはいえ、まだ2011年7月24日の完全地デジ化までには、5年の余裕がある訳で、庶民的には、次の買い替えまで今のテレビでなんとか凌ごうと思っている家庭が殆どである。そりゃ、高品位テレビで見れば楽しいのだろうが、わざわざ高嶺の花に飛びつくよりも、技術的・費用的にこなれてくるまで待っている方がお得なのは判りきっている訳だ。
というわけで、日本だけの理由を考えてもPS3は、5年ほど世の中が進んでからでないと普及しづらい面を持っていると思う。もちろん、5年も経てば、高画質テレビは普及するだろう。が、その頃にはPS3のCPUは陳腐化を極めているだろうから、次世代機にバトンタッチしている筈。と考えると、PS・PS2の時と比べて、その性能をフルに発揮しづらいPS3が、多分次世代機が登場する5〜6年先までに、同じだけ売れて行くとは、神北には到底思えないのだ。
しかも、既に嵩張るテープメディア・LDからの移行が急速に進んでいたコンパクトなDVDメディアの映像作品が大量にある中に満を持して出て来たPS2と比べて、「やっとビデオショップの売り場にブルーレイディスク版のソフトの棚が作られるかな、でも、メディアの大きさ代わり映えしないよね」という時点で出荷されて来るPS3では、ユーザの有り難みが全然違って来る。
考えてみて欲しい、せっかく買ったPS3で、既にあるPS2でも見れる旧来のDVDソフトを見る遣る瀬なさを。もちろん、そのフェラーリを毎朝の都市通勤に使うような贅沢感が楽しくて堪らんという人が居るかも知れない。確かにそういう成金趣味の人には、通勤ラッシュの環八をスーパーカーでじわりじわりと走ってもらって構わんのだが、我々庶民はちょっとお付き合いしかねる。
かくして、PS2の時には大きな助攻勢力となり得たメディアプレイヤーとしての用途を、今回は完璧に諦めなくてはならない。だからといって、世間があっと驚くようなキラーソフトが晩秋(ちょっと遅れて初冬?)の発売時に同時に登場するという、遠雷のごとき噂話もまだ聞かない。
ていうか、フルに楽しむために、映像・音声系に20〜50万円かけて、その上で6〜8万円のゲーム機を買う人間(家庭)が、年に1000万人(世帯)以上あるとは思えないんだけどなぁ。たとえ1000万台(ということは、地球全人口の600〜700人に1人が買うという事)を次までの6年と次世代機発表以降のロングテールであと2年分ぐらい売れたとしても、8年で8000万台。
到底無理って気がするけどなぁ……。
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コメント
プロダクトアウトそのものですよ。
投稿: 酔うぞ | 2006/06/23 09:30
プロダクトアウト(製造者が良いと思うものを作る)でも、価格決定時にマーケットイン(購買者の要望するものを作る)になっていれば、特に文句はないんですがねぇ。
据え置き機はテレビサイドに置くものとして、PSX的な用途にもっと固執すると思っていたら、次世代光ディスク普及のためになりふり構わずという紆余曲折ぶりも、最近のソニーの「決定力のなさ」を感じさせます。
投稿: 神北恵太 | 2006/06/23 10:24
CPUの陳腐化?だいじょぶ。CPUなんざもう進化しないしw
世界人口60億とすれば最大でも60人に一人買えば良いだけだし。どうせ何台も買う羽目になるでしょ、壊れて。
投稿: 森野人 | 2006/06/23 12:28
PS3は、OpenOfficeをネットワークインストールして、在宅勤務でのビジネス文書作成に使うんですよ・・・多分。
投稿: うじ | 2006/06/23 12:48
森野人 さま
べつに、今までみたいな、中身も高度化する、I/Oも複雑化する……みたいな進化なんてしなくていいけどね。クロック数だけは、並列化でまだまだ上がる気がする。
うじ さま
んー。8万円弱のマシンにOpenOffice乗せるより、3万円パソコンにWindowsとMS-Office乗せる方が、ビギナー&ライトユーザには楽な気がするんですが……。(^_^;)
投稿: 神北恵太 | 2006/06/23 15:17
お皿が先か頭が先か?で両方載せたら首が,,,。
たかだか0.01TBクラスのお皿よりも今の内蔵HDDをカートリッジ式にしてくれた方が、って著作権とか著作権とか著作権とかそうですか。
CELLの方は、ある一定数ネットでつながると完全体になるとかならないとか。<どんな?
投稿: 成田ひつじ | 2006/06/23 18:34
成田ひつじ さま
カートリッジ式HDDは、すんごくいいアイデアなんですけどねぇ。別に、カートリッジ型に収まっていたら、HDDじゃなくてシリコンメディアでも良い訳ですよね。
CELLの完全体は、タチが悪いので止めときましょう。(^_^;)
投稿: 神北恵太 | 2006/06/23 23:29
神北さん
消費者に説教をたれるようなのがダメなんです。
別にハイテクじゃなくても「供給側が・・・、消費者は」という天秤的な発言をするとそれだけでビジネス失敗になっているんですよ。
「天に唾する」ということですね。
投稿: 酔うぞ | 2006/06/24 07:57
ヨドバシで新型VAIOを見て、「ソニータ○マーデフォルト表示かよ!」と思ったのは秘密です^^;。
つか、たたんだとき上部だけ液晶がはみ出るデザインって、品質維持的にどうなの?
といいつつメモリーウォークマンを使っていたりする(周りがみんなIPODなので反抗^_^;)
投稿: 成田ひつじ | 2006/06/24 09:31
酔うぞ さん
以前、2005/03/08に『トップは厳しいぞ』というエントリをしましたが、そこで書いた「PSPのUMDカセットが飛び出すのは仕様です。故障でないので修理には応じません」発言をして以来、SCE社と久多良木社長が、宜しくない方向へ宜しくない方向へ、間違ったボタンを押し続けている気がします。
ちょっとねぇ。
成田ひつじ さま
昔のソニーが持っていた、「一見、奇抜なデザインに見えたが、細部に渡って良く考えられていて、用途を考えて実装すると、この形状が優れている事がよく判る」デザインが、最近は単なる「奇抜なデザイン」に成り下がって来てしまった気がします。
使い方を提案出来ない奇抜なだけのデザインは、ソニーのエンブレムに相応しくない気がします。
投稿: 神北恵太 | 2006/06/24 09:52