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2006/07/19

『日本沈没』を観たぞ

 そう、先の日曜日、CSの日本映画専門チャンネルの「日曜邦画劇場」で観たのである。小説の大ヒットを受け、33年前の映画としては空前の5億円の制作費を掛けた、まさに東宝映画乾坤一擲の大チャレンジ「溶岩の血を流し咆哮する火山列島! 一億の民をのせ ああ日本が沈む!」である。……が、それのことではない。
 『日本沈没』樋口真嗣監督/加藤正人脚本/小松左京原作/草彅剛・柴咲コウ主演/「日本沈没」製作委員会製作の、新作映画である。

プレートの断裂は北海道の南部から始まる。九州の出水断層帯も危ない。
阿蘇が噴火するだろう。
四国から紀伊半島に連なる中央構造線が裂けて南側は沈んで行く。
日本の活断層はそのエネルギーに耐えきれず次々に割れていく。
本州中央部糸魚川静岡間のフォッサマグナが避け始めたら、その時はもうおしまいだ。
富士山の大噴火とともに、日本は一気呵成に沈んでいく…。
by田所雄介

—————————— かなりネタバレアリ ——————————













■ご注意■

 今回の映画は、既に原作のままではギャグにしかならないであろう「箱根の御老人」を排し、前の映画でいしだあゆみさんが演じ、今回、柴咲コウさんが演じた阿部玲子を下町育ちのハイパーレスキュー隊員にするという思い切ったキャラクターの配置転換や、最新特撮技術を盛り込めるだけ盛り込み、自衛隊・消防庁・海洋研究開発機構(JAMSTEC)を筆頭とする数々の公的機関の協力を得て、素晴らしい絵作り、物語の舞台作りに成功している。
 前の映画で藤岡弘、さんが演じ、今回は草彅剛さんが演じた主人公の小野寺は、相変わらず「わだつみ」の操艇者だが、前の映画で夏八木勲さんが演じ今回及川光博さんが演じた相棒の結城が、母船オペレータから、同僚操艇者に変わったために、2人のパワーバランスが面白く変わっている。そのためもあって、最初から政府差し回しの研究事業から始まった今回の映画は、アメリカの諜報機関の出費で成り立っていた原作の田所研究所や、かつての映画のD1と位置づけが違うため、却って結城の方が、妻子の写真を胸に命がけで潜り続ける意志強固な操艇者であり、仕事は辞めたものの、なかなかヘッドハンティングに乗って欧州に渡ることも、田所のプロジェクトに復帰することも出来ない小野寺が、ちょっと浮いてしまっている。というか、田所博士が惚れ込むほどの優秀さが見えて来なかったりする。

 残念なのは、その小野寺が、殆ど彷徨うようにして突然故郷の会津に現れたり、箱根付近の避難者キャンプの友人を訪ねたりと、映画中後半、意味不明のモラトリアムを決め込むこと。いや、仕事を離れ、ものを考えたい気持ちは判るが、それを、第一線の潜水艇乗り持ち前の判断力で気持ちを切り替えて、新たな目標に向かってエネルギッシュに挑んでこその小野寺だと思うのだが、違うのだろうか?

 田所博士は、最後の希望として、列島の乗った地盤を引きずり込もうとする重いプレートを日本列島の側面で連続して割り、錘りと切り離されて軽くなったプレートが沈降を停めるようにしようという、なんだかものすごい即物的で化学的なのか荒唐無稽なのかというと、いかにも後者っぽい地球物理学をナメ切ったような作戦の承認を取り付ける。海底掘削船ちきゅうでプレートに連続して穴をあけて、潜航艇わだつみ6500でそこに爆弾を設置、石切り場で石を割るように一気に連続爆発させて、人工的にプレートを割ってしまおうという作戦だ。そのために、核兵器に匹敵する爆発力を持つ新開発のN2爆弾が使用される。……て、コレってN2爆雷の開発段階のもの? とにかく、日本のちきゅう一隻では足りないということで、世界中から送り込まれる海底掘削船! この絵はカッコいいぞ!!!

 しかし、小野寺を欠いた田所のプロジェクトは無理がたたって結城と、N2爆弾設置中の最新鋭潜水艇わだつみ6500を失う。そのため、最終的に旧式のわだつみ2000に乗った小野寺が、結城のやり残した仕事を引き継ぐのだが、潜水深度にして1/3に満たない旧型艇では、わだつみ6500の仕事を受け継ぐことは難しく、最初から帰還を期すことは出来ない。彼は、愛する人々のために、命をかける。
 そして、小野寺の死と引き換えに、日本を引きずり込もうとする重いプレートは列島と切り離され、列島の沈下は停止する。

……って、ここまでスチャラカなことをやっておいて、ここで小野寺で死ぬのかよ!

 浮上中に爆発に巻き込まれると、風に巻かれた木の葉のように振り回されて吹き飛ばされてしまうが、全エネルギーを使い果たしていたわだつみは海底を這っていたので、爆発やそれに引き続いたプレート断裂地震による津波で、滑るように遠浅の浜に打ち上げられ、帰還を果たす。そこに降り立つ阿部玲子のレスキュー・ヘリ。2人は斜めになったわだつみ2000のひしゃげた船体の上でひしと抱き合い……。

……ぐらいのコトをやって見せろよぉ。

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コメント

>藤岡弘。

ダメだよ、終わらせちゃ。

投稿: SOW | 2006/07/19 01:25

ひょっとして、セイウチ型の巨大生物とか出てませんでしたか?国連の極秘資料ではなぜか「使徒」と呼ばれているという・・・

投稿: 成田ひつじ | 2006/07/19 10:19

SOW さま

 あ、ホントだ。「まだおわらんよ」ということで、「、」なんでしたね。なおさなきゃ。

成田ひつじ さま

 今回のキービジュアルの一つに、水に浸かった京都盆地と言うのがありまして、そのド真ん中に傾いで建つ京都タワーが、遠めに白く光る十字架に見えるんですよ……。(^_^;)

 海底から何か出そうと言う意味では、中野監督の海底乱泥流の方がナニでしたよね。

投稿: 神北恵太 | 2006/07/19 15:04

全体に無気力な、運命に任せよう的な気分が強い映画でした。
日本人は実際、こんな感じかもしれませんが、北村龍平版、生きようとするエネルギーに満ちた「日本沈没」も、観てみたいものです。

投稿: ななろく | 2006/07/21 02:53

ななろく さま

 渡老人が居ないこと、山本首相が初動状態で事故死していること、の二つから、今回、D計画自身が、誰が引っ張っているか判らない、政府のただの省庁機関、そこの公務員さんになっていて、情念の面から日本を惜しんだり、日本文化を慈しむが故に、災害に立ち向かうという、情動面での輔弼が薄かった感はあります。
 田所博士のような、イッちゃった人を中心にチームを組ませる、渡や山本の情理を越えたパワーがないのに、どうして学会の異端児があそこまで中核に居られるのかが謎です。そのために、大地真央さんの演じた田所の元ヨメという新キャラなんでしょうが、いくらなんでもちょっとねぇ。(攻殻機動隊S.A.C.2ndGIGの萱葺総理のイメージっぽかったのは良かったんだけどなぁ……。(^_^;))

投稿: 神北恵太 | 2006/07/24 04:50

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