パクリというには無理があるぞ
如何に底辺の仕事とは言え、これでもデザインや著作権に関わることで糊口を凌いでいるので、資料としてデータを得ることと丸写しすること、イメージにインスパイアされることとパクること、許されることとヤバいこと、等々、版権の所在や意匠アイデアに関しては、自分なりの線引きというか、考え方の基準を持っている。
ところが、このアイデアとか意匠とか言う物は、判断が難しい。美少女と標語の位置関係を「レイアウトのアイデアだ」と言ってしまえば、世の中の啓蒙ポスターや商業広告の半分以上が、過去の誰かのパクリと言うことになってしまうかもしれない。しかし、それが裁判沙汰だらけにならないのは、「定番の構図」とか「表現の基礎文法」とかいう共通認識・共有財産として多くの人が認識しているからだ。
小説ジャンルや映画ジャンルに於いても、「一本目はアイデアの勝利、二本目はパクリ。だが十本目になるとジャンル」という話がある。例えば現在、SF作品にタイムマシンや宇宙人が登場する度に「これはH=G=ウエルズのアイデアの剽窃」という人は居ない。「タイムトラベルもの」とか「ファーストコンタクトもの」とかいうジャンルの作品として認識されている。
たしかにデザインとか創作とか言う世界では、新奇なアイデアを思いつく圧倒的な才能の発露と言う物も重要だが、受け手としての世間が何を好み何を厭うかという経験則の連綿たる積み重ねが重要な世界でもあるのだ。
さて、ZD JapanのコラムJ. O'Gradyのアップルコアの2006年10月12日のエントリ『マンハッタン5番街のアップルストアにイスラム世界が不快感示す』には、少なからず驚かされた。
中東メディア研究所(Middle East Media Research Institute:MEMRI)によると、一部のイスラム系ウェブサイトが、マンハッタンのミッドタウン(58番ストリートと59番ストリートの間)にあるAppleのフラッグシップストアに、イスラム教を侮辱する要素が見られると指摘しているそうだ。同サイトには、イスラム教徒にこの事実を広く知らしめ、願わくば「結束して同建設プロジェクトを阻止」したいと記されている。
米国の内国歳入法(IRC)501条(c)号第3項で規定されている非営利団体であるMEMRIは、ワシントンD.C.に拠点を置いている。同団体は、複数のイスラム系ウェブサイトがアップルストアの立方体型デザインに不快感をあらわにし、「イスラム教に対する明らかな侮辱」だとして非難していると伝えた。
アップルストアの建物がメッカにあるカアバに似ており、「Appleのメッカ」と呼ばれている(だれがそう呼んでいるのかは明らかにされていない)こと、さらには同ストアがカアバと同じく24時間開いていて、「内部にバーがあったり、アルコール飲料を販売していたり」することがその理由だという。
うーむ。ま、「一部のイスラム系ウェブサイトが、……指摘している」のであって、情報を伝えた中東メディア研究所がそう主張している訳でないことには、ご注意戴きたい。
歴史的なことを言えば、カアバは、西暦610年頃のラマダーン月にムハンマド(マホメット)がメッカの郊外で天使ジブリールより唯一神アッラーフの啓示を受ける以前から、既に永く多神教時代の寺院として栄えていた古来の聖地だそうだ。その頃は、太陰暦の一年の一日ごとに由来する360柱の神像が安置されていたらしいが、現在の10×12×高さ15mの直方体の中は、ムハンマドが偶像を破壊して以来、何も安置されては居ないそうだ。その点、岩のドームのような物を安置する場所ではなく、日本神道の社殿や神鏡のように、それを通じて神に至る為の拠り所となる「場」そのものと言える。
たしかにGiGAZINEでも、2006年04月11日の記事『ニューヨーク5番街に新アップルストア建設中』において「これ、何かに似てるな~と思ったら、メッカにあるアレでした。」という言い方をしており、周囲から「似ている」と言われていたのは事実だが、アップルが自分で『Apple's "Mecca"』と宣伝した訳ではない。
しかも、これ、カアバに似ていると言えば似ているが、現在アップルに吸収されているNeXT社がかつて販売していた NeXT cube の方にも、充分に似ている。というか、黒い壁とガラスの壁の配置に関して言えば、より NeXT cube に似ている気がする。
そんなことを言い出せば、「信州信濃の新蕎麦よりも、わたしゃ角源の蕎麦が良い」(三重テレビ限定か、これ?)のCMで(1970年代には)御馴染みの、わが故郷四日市の蕎麦・うどん屋角源が、宣伝用の看板とかで、ずっと持ちキャラのように使っていた肩に笊蕎麦の四角い器を積んだお盆を構えた河童の横に「うどんのメッカ」と書いていた方が、よっぽど拙いんじゃないの?
ちなみに、アップルストアの中には、Macintosh や iPod のメンテナンスやサポートの窓口である「Genius Bar」や「iPod Bar」と名付けられたスタイリッシュなにカウンターを持つ窓口があるが、ここは当然お酒を供する「バー」ではないんだよねぇ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
サジーブ・チャヒル氏に一言コメントを貰いたいね。
投稿: 森野人 | 2006/10/13 12:52
森野人 さま
20周年記念Macとかピピン・アットマークとかの「デザインの濃いMacゾロゾロ」期の指揮を執った、懐かしのターパン巻いたアップル重役ですね、チャヒルさん。
投稿: 神北恵太 | 2006/10/13 17:55