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2006/10/04

時代遅れで知恵遅れだぞ

 世の中、右を向いても左を向いても腹の立つことばかりだが、呆れるほどモノを考えない御上ほど、腹の立つモノは無い。

 読売ONLINEの2006年10月3日の記事『代理出産の出生届受理、長勢法相「決定内容を検討」』にある長勢甚遠法務大臣の発言は、許し難い暴言。

 同高裁決定は、民法が代理出産を想定していないからといって、母子関係を認めないという理由にはならないとしたが、長勢法相は「我が国では、母子関係は分娩(ぶんべん)の事実で発生することになっており、(高裁決定には)問題が残る」と述べた。

 しかし法務省の法令データ提供システムの民法/第四編 親族/第三章 親子/第一節 実子を確認しても、「(嫡出の推定)/第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」などの、父を推定する方法に付いては記述してあっても、どうすれば母子関係を認めるとも認めないとも書かれていない。どうも「出産した時点で母」とする過去の最高裁の判例が、全ての根拠となっているらしい。しかし、それは、人工授精も代理母も無かった時代の、全く別のケースによる判決にすぎない。代理母出産の実母認定の先例とするのは無理が多い。

 各個の法律条文・判例の法解釈問答を離れて全体像を俯瞰すれば、人工授精も代理母も有り得なかった時代の法規で現代の医療とその結果を縛るのが不合理である事は、想像に難くない。でありながら、社会や科学技術の進化に旧来の法制度があからさまに経年劣化を起こしている事に目を瞑り、そのまま旧制度にしがみつくのは、法務大臣の発言として如何なものであろうか。

 もちろん、住民課の窓口や簡裁で、法律の普遍性や判断の同一性を維持する先例主義・判例主義によって判断の均質公平や効率化を図ることは、悪いことばかりではない。やってくる膨大な問題・案件の多くが、そういった一律の判断で振り分けられる事項だからだ。殆どの事例が先例主義というワクで丸く収まるのならば、そのワクを利用して効率化すれば、時間的にも人件費の面でも、社会に大きく利する事は言うまでもない。

 しかし、人工授精と代理母による出産の先例は、なかったのだ。これを曲解しまくり無理矢理別件に当てはめて、既存の法律のままでなんとか済ませてしまおうとするから、「分娩した代理母を実母として、養子に取れば丸く収まるじゃない?」なんてぇ寝言を捏ね繰り回すことになるのだ。

 彼らは「どう考えても分娩した母が実母だろう、今までもそうして来たのだ。それを変えてしまうのはダブルスタンダードではないか」とでも言いたいのだろうが、しかし、それは単なる屁理屈である。既に本人確認や親子認定の科学的手法として遺伝子検査が使われ、遺伝子と言うものが親と子を特定する最も確実な方法の一つとなっている現在、遺伝子的には間違いなく親子である人工授精児を実子として認めないと言う方が、余程不可思議なダブルスタンダードだ。

 そんな単純な事も判らない役人なんぞ居ない方がましだから、懲戒免職でも磷付獄門でも構わない気もする、が、上で述べたような効率を優先する意味合いからは、「初めて持ち込まれたイレギュラに対応し損なう」部分までは、たしかに織り込み済みとすべきかも知れない。しかし、窓口が対応し損ない事を織り込み済みとするならば、対になってイレギュラに柔軟に対応出来る後背部門も織り込む必要がある。

 今回は、国家の中で一貫性を持たなければならない戸籍の問題だけに、一区役所の窓口で判断出来なかった事までは判らなくはない。が、そうなった時にちゃんと判断を委ねる上部機構が無く、拒否するのみで結局役所は何にもしてくれず、判断を受けるためには住民側が民事に訴えでるしか無かった。これは、日本の法律のシステムが科学技術の進歩について行けなくなっていて、動脈硬化を起こしている査証だろう。

 ましてや、そういう問題を大所高所から見て、必要ならば法改正をも検討させるべき法務大臣が「我が国では、母子関係は分娩(ぶんべん)の事実で発生することになっており、」などと、区役所の窓口レベルの思考停止をしてもらっていては、国民は多いに困る。困りまくる。
 時代遅れは是正が利くが、知恵遅れに付ける薬は無いぞ。

 ちなみにこの大臣、少子化対策に一家言あるらしい。
 しかし、最先端不妊医療を試してまで子供を作りたい作ろうという夫婦の希望を土足で踏みにじるような政治家が、少子化対策案とはねぇ。

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コメント

あたしゃ、この発言は法務大臣としては大変にまずいところがあると思ってます。

もともと、地裁の判決の根拠はアメリカの裁判所が出生と認めたからなんですね。

もしこれで日本では出生と認めないと、法的にはどこからも生まれていない人間が出来てしまう。

あるいは、アメリカの判決をひっくり返すのか?です。

これが、刑法犯であれば「アメリカでは有罪だが、日本は無罪」で構わないわけですが、こと人が生まれたことについて、関係2ヶ国で食い違うことは許されないですよ。

この法務大臣はそういうことを知らないで発言したのではないか?それじゃ法務じゃないですよ。

こっちの方が大問題だと思う。

投稿: 酔うぞ | 2006/10/04 11:51

酔うぞ さま

 もちろん、大臣は所轄官庁の業務を掌握する必要がありますから、「知っている」べきとは思いますが、大臣官房が情報を揃えられる所までを「大臣が知っている範囲」として良いだろうと言うのが僕の大臣観ですので、長勢甚遠さん個人の資質というよりは、法務省中枢組織の組織的問題だと思います。

投稿: 神北恵太 | 2006/10/04 12:01

遺伝子上、子供だから戸籍上も実子。なんてスッパリしたもので良いのだろうか。

科学の進歩に伴い生殖医療のサービスが向上してはSFの様なことも起こり得る。
だからといって、宗教論や生命倫理では極端で線を引き難い。
そこで、社会的倫理観に訴えたい。
日本では婚姻外の子供は戸籍上、非摘出子として差別されています。子供たちに罪は無いですが、社会が認めていないからです。
臓器売買同様、第三者に命の危険と多大な不利益をもたらす代理出産を社会が認めてはいない証拠として、戸籍が養子縁組で良いじゃない。が結論です。
日本ではグレーですが、フランスでは代理出産した子との養子縁組を禁止し、5~10年の懲役刑と徹底しているそうです。

投稿: 通りすがり | 2006/10/05 14:41

通りすがり さま

> 遺伝子上、子供だから戸籍上も実子。なんてスッパリしたもので良いのだろうか。

 私はそれで良いと思いますよ。

投稿: 神北恵太 | 2006/10/05 23:42

InfoC管理者といいます。はじめまして。代理母に関する話題に関して書いていらっしゃるので、コメントを送りました。私、ナノピコ放送局(http://www.infococktail.co.jp/pickup/contents.cgi?topic_id=9)
というサイトを運営してまして、代理母の問題を含め様々なテーマに関して、トラックバックを用いて皆様の意見を集めています。ブログ読者を増やすのにもお役に立てると思います。トラックバックしてみませんか?代理母以外でも興味があるテーマがありましたらブログ記事のトラックバックを送って下さるとありがたいです。解説はhttp://www.infococktail.co.jp/index7.html
にあります。勝手なコメントを送り申し訳ありません。ただブロガーの皆様のお役に立てるサイトになるのではと考えています。よろしくお願いします。

投稿: InfoC管理者 | 2006/10/20 04:42

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