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2007/01/29

ガーオイズの宴だぞ

「信じろとは言わないけどね。ただ、金属製の人間が。塑性セラミック製のハードシェルスーツをまっぷたつにするほどのビームを撃つのは見ただろう? それだけでも十分パルプ本じみていると思うけどな」
ゴコウ・テンガイ

 日下部匤俊の新作、『ガーオイズの宴』は、合体巨大ロボット小説である。ガーズヘッド・ガーズライザー・ガーズロード・ガーズアクシスの4機が合体し、 身長160メートルの巨人ガーオイズが誕生する。この機体は、深宇宙の既に滅ぼされた星から侵略者の情報をもたらしてくれた、宇宙人ヴィアールの技術に 拠って成り立っている。だが10年前、地球にたどり着いたその時、既に潜り込んでいた金属生命体の手先により、主人公テンガイの父とともにヴィアールは殺 され、人類は、星の彼方からの救いの手を、言語解析のレベルから読み解きなおさねばならなかった。
 故に、どうしても人類には理解できない何らかの理由に拠り、ガーオイズに はいろいろな制限がついて回った。たとえば、最初から最強兵器であるロボット形態で存在することはできず、合体していた時間と同じだけかそれ以上分離しておかないと、何故か戦 力を減じて行く。また、何故に最強形態がヒト形なのかも謎である。しかし人類が、知的生命体を抹殺するために深宇宙から迫る金属生命体に対抗するには、この兵器しか残され ていないのだ。

 これは、謎に包まれた神秘の巨大ロボットに乗り組み、地球人類の安寧と存続のため、不倶戴天の侵略者と命をかけて戦う、勇者たちの物語である。

 近未来、世界が現在よりも大きな3つの国家にまとまった時代、人類の科学文明がついに本格的に他の天体に進出しようとしている時代。政治家の娘シンディ・ウェルクラウトは、父の束縛を嫌い奮起一念、国家の枠を超えて宇宙開発を一手に引き受けるディスター・バンズ財団による、宇宙開発の最前線たる月面都市の要員試験を突破、晴れて建設途上の最初の月面地下都市ニュートン・シティへと赴任した。しかし、シャトルが到着して、割り振られたコンパートメントへ入る間もなく、人類の宇宙開発への橋頭堡、ニュートン・シティは謎の大震動に見舞われ、シンディは乗っていたエレベータに閉じ込められてしまう。
 救いを求めるシンディのもとに現れたのは、異形の知性体だった。金属製ながら継ぎ目も蛇腹も無い関節がしなやかに曲がる不思議なそれは金属人間とでも言うしかない異形のものだった。謎の金属人間2体に取り囲まれ、拘束されたシンディ。しかし、天は彼女を見放さなかった。救い手は、ハードシェルタイプの機密スーツを着て現れた。あきらかに金属人間とは動きが違う。激しい戦闘の後、2体の金属人間を倒し、シンディを救った男は、ゴコウ・テンガイと名乗った。
 金属人間(テンガイはそれをティン=ドール(ブリキ人形)と呼んだ)達は、自分達の形状を自由に変形する金属生命体の一形態だった。彼らは薄くなって壁や床に成り済まして罠を張ったり、巨大な多足生物形状になって襲い掛かることもできる。金属人間達の仕掛けた幾つもの罠をくぐり抜け、テンガイとシンディは、無事な避難場所(シェルター)を探した。シェルターは、気密性と空気と最悪時にはそれ自身を基地の外へと射出できるだけのロケットエンジンを備えた救命カプセルになっている。
 やっと生き残っている避難場所に辿り着いた2人は、先に逃げ込んでいた数人とともにシェルターを射出。しかし、それで事態が終わる訳ではなかった。射出されたシェルターカプセルの表面には密かに変形した金属人間が薄く貼り付いており、それが自らをロケットエンジンと噴射剤に変じて、推力を上げ、大量の避難者を自分たちの目的の為に、上空に待つ小惑星規模の金属生命群体へと拉致しようとしていた。しかし、テンガイ達のカプセルは他のものと違う軌道を描いていた。テンガイの戦闘力を危険と判断した金属生命体たちはカプセルを月面に激突させ、テンガイを葬ってしまおうとしていた。
 外に出たテンガイは金属生命体と戦っていた。その身を案じてやはり外に出たシンディ。テンガイは自分が戦う間に、呼び寄せたガーズライザーに飛び移らせ、そのマニピュレーターでカプセルをキャッチさせる作戦を考えた。何の経験も持たない、専門の訓練も受けていない、全くのシロウトを特殊な兵器に乗せること、しかもその上、困難なミッションをさせること。そのどれもが常識では考えられない。しかしシンディには、カプセル上で金属生命体と戦う能力はない。2人が入れ替わることは不可能。如何に細い糸のようなものであれ、希望に繋がるのはこの一筋の道だけ。
 カプセルの外郭を蹴り、シンディは飛んだ、未知の機体ガーズライザーへと。

 さて、徐々にネタバレを含みますよ……。











 まず、面白いのは、これはバーサーカー・テーマの侵略SFであるということ。敵は、人類を抹殺することだけを目的としてこの太陽系に現れた金属生命体<生きている岩>。もたらされた情報によると、既に幾つもの星が彼らによって滅ぼされている。その宇宙を移動する災厄が、地球に狙いを定めた。敵の先遣隊は既に活動を開始し、人類の知らぬ間に、戦いは静かに始まっていた。
 ちなみに、地球よりもかなり進んだ科学力を持ちながらも、密かに準備された侵略に気づくのが遅れたために滅ぼされた名も知れぬ星から、地球に敵の情報と対抗する技術力をもたらした宇宙人の名が、「ヴィアール」であるところに、神北はこだわる。こだわるったら、こだわる。何故かは聞くな。だが、これが、紛うこと無きバーサーカー・テーマであることのなによりの傍証でもある。

 次にこれは、相容れぬものとの生存を懸けた闘争と、相互理解への模索と言う、ハードなファーストコンタクト・テーマでもある。敵は金属生命体。彼らにとっては、我々のような炭素系を始めとした幾つかの知的生命体は、彼らの同族を殺す敵。惑星上に繁殖し、害を為す、黴のような物に過ぎない。知性を持っている鉱物や、今後知性を持つであろう鉱物にとって、大規模な採掘に拠ってその安寧を掘り起こし、焼き、溶かし、固めて技術文明を構築する知的生物は、まさに駆逐すべき害獣であり、生存競争なのだ。
 しかし、人類にとってこの戦争は、突然降り掛かった災厄に過ぎず、黙って滅ぼされてやる必要は無い。
 かくして、互いに自分たちの陣営・自分たちの存続を懸けた、決死の闘争が勃発する。だが、生存競争だから仕方がないのだと割り切れば、それは単なる戦争のための舞台設定に過ぎない。割り切ること無く、お互いの理解と和平を求めて、異質な生命体の間の深い河を超えようとする希望が、ここには描かれている。たしかに、それが劇的な情勢変化をもたらす訳ではない。しかし、長い戦いの中に大きな変化をもたらし得る最初の一歩が、この作品には確かに描かれている。だからこそこの作品は、ファーストコンタクト・テーマなのだ。

 三つ目に、これは、吸血鬼テーマのホラーである。
 イギリスの人形劇(&リメイク版はCGアニメ)の『キャプテン・スカーレット』のミステロンと同じように、敵は人間を誘拐し、<使い魔>(サーバント)にしてしまう。この<使い魔>、姿形、立ち居振る舞い、記憶のすべてが、元の人間のものを引き継ぐ。それどころか、<使い魔>にされた自覚も記憶もなく、人類社会の中に埋没して平穏に暮らしているのだ。しかし、その形質は親から子へと確実に遺伝し、いつであれ、ティン=ドール等の金属生命体に接触して何らかの操作をされると、その形質は一斉に開花して、<使い魔>意外のあらゆる人類を憎み、それを殺すことに快楽を覚える殺人鬼となる。それに留まらず、サイコキネシスや火焔放射、テレポートなどの攻撃系超能力をも開花させる。誰がいつ<使い魔>にされているか解らず、いつ発動して、それまでの記憶や知識を持ったまま人類の数を減らすことに無上の喜びを見出す魔人になるか、見た目はもちろん、簡単な判別法はない。
 ある日突然、隣人が、家族が、職場の誰かが、そして警官や役人が、突然に牙をむき、あらゆる知識や立場を利用して貴方を殺しに来るか解らない。最大の味方が、身近であるが故の知識を総動員して襲い掛かる最悪の敵に、突然変じる。これは、吸血鬼テーマの最も古く最も新しい変奏曲だ。

 四つ目に、これは、デビルマン・テーマでもある。『新造人間キャシャーン』がアンドロイドの体を持つ新造人間だったり、先ほど上げた『キャプテン・スカーレット』がミステロンによって不死身の力を与えられたように、主人公のテンガイは、「目覚めそこない」の<使い魔>である。彼は、<使い魔>の中でもかなり強力な部類に入る超能力を手に入れたが、意識は<使い魔>ではなく人間のままだ。これは、デーモン族の体と人間の心を持つデビルマンと同じである。敵である<使い魔>から観れば、それは<使い魔>の力を持ちながら人間社会に隷属する裏切り者。最大の敵ということになる。

 この4つのテーマが、複雑に分ち難く絡み合い、これぞスーパーロボットという決定作でありながらも、強烈な個性を放っている熱いドラマ。それがこの『ガーオイズの宴』である。

 是非、お読み戴きたい。最近忘れていたような、野放図な、荒唐無稽な、熱血上等の、スーパーロボットものでありながらも、これは、緻密に張り巡らされた伏線が、ラストに向かい一つずつ形を結んで行く、よく練られた良質のSF小説である。
 ちなみに、「ガーオイズの宴」というのは、ガーオイズ運用チーム(パーティ・オブ・ガーオイズ)のダブルミーニングの片割れである。それは、これが巨大ロボットものをモチーフとしつつも、本当は、そこに乗り組む一人一人の人間が主人公であることを密かに読者に告げている。

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 1年かけましたが、やっと本が出ることになりました。 『ガーオイズの宴』と申しま... [続きを読む]

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