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2007/01/18

黄金の魔女が棲む森だぞ

「光を掲げる女王、夜の守護者、輝ける月の主、あらゆる女の神、黄金の美貌の方、あたしを守って、あたしを守って、あたしを守って……」
シフ

『黄金の魔女が棲む森』麻木未穂(徳間書店 トクマノベルズEdge ¥819+税)

 東方ローマ帝国の北方に位置するアエスティ王国の王女シフは、求婚者を盗られた恨みから異母妹ベーダを殺そうとしたという嫌疑を受け、神狩りの森に放逐された。本来、死を賜る筈だった裁判だが、森に棲む惑いの魔女ルヴァーが身請け人となる事で13歳の少女の一命を貰い受けた。それ以来18年間如何にしたものか、シフは一切齢を重ねること無く13歳の姿のまま、ただ瞳にだけ18年分の思慮深さを加えつつ、森に籠り続けた。事件の後に妹の身に何が起こったかも知らず、彼女の去った王国がどんな歴史をたどったかも知らず、ただ、深い森の中で、日々を暮らし、ルヴァーと、ルヴァーのもとにやってくる、医者に見放された病人や医者に相談できない悩みを持つ者達の顔以外を見ること無く。

 かくて、キリスト教暦394年。
 シフとルヴァーは、ブリタンニア人の東ローマ帝国の近衛騎兵隊長レギウスに捕らえられ、帝都コンスタンティノポリスへと連行されようとしていた。レギウスの語る所に拠ると、一命を留めたシフの妹ベーダは、曲折を経て14年前にローマ皇帝の妾妃の一人となり、皇帝と同じキリスト教に改宗してアウグスタと名乗っている。そして、そのアウグスタが姉を呼んでいるのだという。
 しかし、コンスタンティノポリスへと向かう長い旅程の最初の晩、部隊はローマ帝国ら反旗を翻した元傭兵アラリクス率いるゴート族の夜襲を受け、ルヴァーは連れ去られ、シフとレギウスはただ2人、ローマ帝国を遠く離れた敵のただ中に取り残された。

 シフとレギウスは、きょう日の小説の基準から言うと、博物館級のニブチンである。シフは、31年間生きて来て世間ズレしたような言動をするものの、いかんせん老婆との2人暮らしで耳から得た知識だけの、実経験に関しては思春期以前の単なる耳年増少女。レギウスは忠義一徹のストイック朴念仁。これでどう話が進むのかと思うようなキャラ立ちながら、この2人は実は良いコンビであり、苦難の旅を通じて、かけがえの無いパートナーになってゆく。
 そして、キリストの時代から400年ほど経って、ローマの国教となり、勢力を拡大するキリスト教と、それに押されてどんどんと悪魔の技として退けられて行く土着信仰の狭間で、力を失って行く古き神達や、ひたすらそれを恐れ、キリスト教にすがる1600年ほど前の民衆達が、生き生きと活写されている。

 ちなみに、今度はレギオスの元婚約者だった帝妃エウドクシアを守り、ミラノ大司教のもとまでレギオスとシフが旅をするという2巻目の『麗しき巡礼の姫 —黄金の魔女が棲む森』も発売中である。

 なんで昨年8月と11月に刊行されたこれを今頃ご紹介するかというと、3巻目『美しき邪なる公子 —黄金の魔女が棲む森がそろそろ発売になり、それに神北が地図を描かせて頂いているからである。4世紀末。東西ふたつのローマ帝国が並び立つ、パクスロマーナがまさに終焉へと歩を進めんとする時期の欧州全体を描いた地図である。

   

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