日本のアニメーション文化、アニメーション産業というものは、滅ぼうとしているのではないか? ……と、神北は考えている。しかしそれは、間接的には何らかの影響があるのかもしれないが、脅威とされているアニメーターの賃金環境の劣悪さや、中国・韓国を筆頭とするアジア各国のアニメ産業の成長などと云う、真っ当な競争社会の帰結としてではない。
たしかに、手塚治虫さん率いる野武士達によって最初の国産テレビアニメが立ち上げられたその時から、安い制作費は日本のアニメ産業の要であったし、最大の問題点であった。他国に真似の出来ない安価で品質の高い作品を世に送ったが、あまりの過酷さから有意の人材が幾人も去って行ったし、命を落とす事すらあった。
HOTWIRED JAPAN の連載記事『浜野保樹の「日本発のマンガ・アニメの行方」』の第15回「日本のアニメーターは、どれほど貧しいか」(これ、記事に発表日付が無いのよね。多分2〜3年前のものだと思うけど、これだから信用出来ないんだ HOTWIRED JAPAN は……。)によると、この劣悪さは、アメリカの動画マンの週給が、日本ではほぼ月給にあたるレベルだと云う。
それがいかに低いものであるかは、第13回に紹介したがアメリカの組合(The Animation Guild, Local 839 IATSE)の最低賃金と比較してみればわかる。関連する部分を再録しておく。
「動画(inbetweener)は、「最初の6ヶ月」は時給なら23.089ドル、週給なら「5日で40時間」で923.56ドル、「ベテラン」で時給24.674ドル、週給で986.96ドルとなっている。」
時給なので出来高払いと比較はできないが、ハリウッドでは動画の新人の時給約2500円で、日本の組合の要望額、月額124,960円を割ると50時間となり、アメリカでの週給がほとんど日本の月給となっている。
さらに、日本の組合が提示している額は努力目標にすぎないが、アメリカのは強制力があり、それに会社が従わない場合にはピケをはられたり、組合員のサボタージュなど、激しい労働争議となる。一方で、職業別組合に所属しないと、ハリウッドでは仕事ができないし、会社も雇えない。
ちなみに、この日本の組合の「要望額」というのは、映画演劇関連産業労組共闘会議が2004年11月10日に社団法人日本民間放送連盟に提出した「要望書」の中の「テレビアニメーション制作に関する要望」のことで「新人アニメーターの最低(保障)賃金(時間額710円×8時間)×22日=月額124,960円」「動画マンのモデル賃金 動画一枚250円×月450枚+月保障5万円=月額162,500円」「原画マンのモデル賃金 1カット3500円×月40カット+月保障7万円=月額210,000円」という、花形産業とは思えないような慎ましやかな「要望」のことである。
社会に出て数年、20代なかば〜30代。家庭を持ち始め、人によっては子供も……という状況で、月給16万〜21万円。ファミリータイプのアパートラスマンションが7万〜15万ほど掛かる東京で暮らすには、これでも十二分に厳しい筈だが、現状はこれより随分と低い事も多いだろうし、生活費を減らすため地方に逃げ出そうにも、アニメ制作会社のほとんどが東京に集まっている日本では、それはほとんどの場合、アニメーターという職からの撤退を意味する。
確かにこれは、労働条件としてゆゆしき状況だ。しかし、だからといって、このままある日全てが消し飛ぶなどとは思えない。産業の中核であるアニメーターは日本から海外に比重が高まり、産業として大きくなったそれぞれの国で質の高いオリジナル作品が作られるようになると、日本は、アニメーション産業のリーディング国家という今の地位からどんどん下がって行くかもしれないが、一気にそれが起こる訳ではない。日本には、そして日本のアニメ業界には、四十数年の歴史と底力がある。その力が、アニメーションを支えるため、唐突なハードランディングとはならず、軟着陸まではまだまだ時間が取れる。対応の時間はある。その間、日本製アニメを支持し、資金的にも支えられるだけのアニメファンの層が、今の日本にはあるのだ。
で、本題である。
このアニメの支持層が、今、急速に消えようとしているのではないか? それが、神北が危惧するところである。
さて、みなさんに質問である。現在、アニメがどのように作られ、どのように配信されているかご存知だろうか?
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