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2007/03/06

銀星号だぞ

「あの銀星号に信号を送ってくれ。文面は『貴船ノ航海ノ無事ヲ祈ル。貴船ハ奇跡ノ船ナリ。ソノ責務ヲ全ウセシコトヲ我等ハ確信スルモノナリ』。通信派ではなく発行信号でだ」(高速定期旅客船『カラフル・メリイ』船長)

 退役軍人ハヤト=フォーゲルスト=ナグモとハインツ=クノール=キャンベル(なんてスープっぽい名前だ!!)は、先に終結した戦争で全滅に近い被害を被った帝国軍機動戦闘隊、一○九戦闘隊の数少ない生還者。仲間内で金を出し合って買った宝くじが大当たりし、生き残ったこの2人のフトコロに22億クレジットが転がり込んだことから、口さがないマスコミに良いようにオモチャにされたり、とんでもない騒動に巻き込まれていたが、やっと審判の場で身の潔白が決し、念願だった船を買い、自分たちの輸送会社を立ち上げた。
 とはいえ、会社のメンバーは、船長のハヤトと一等航海士のハインツ、そして、ひょんなことから客室乗務員(キャビン・アテンダント)に就任した少女、リアン=マッケンジー=カルミンの3人だけ。この20歳前後の3人、宇宙船銀星号の制御AIのクララを合わせても4人しかいない会社で、しかも、頼みの銀星号は、かつての帝国軍の殊勲艦だが、損傷・放棄されていたものをサルベージし、実に120隻に及ぶ同様の艦船からの部品を組み合わせたという、いわく付きの船。
 さて、今回彼らが飛び込む命がけのミッションは、特殊な麦の病で惑星の主要産業が滅びようとしているリアンの母星でもある農業惑星バレリアへ、1万2千トンの殺菌剤を輸送することだ。しかし、この殺菌剤ニトロ・バイセルス・ナトリウムは、極めて高性能爆薬に似た不安定な科学式を持っており、安定剤のお陰で比較的安定しているとされる製造直後はともかく、製造から2年を過ぎるものは貯蔵タンク内で変化を始め、いつ大爆発を起こすかわからない危険物質に成り代わっている。コンテナ一つ一つに液体窒素を満たした多重断熱コーティングを施して冷却装置を着けても、放射線・光線・電磁波・物理的なショックにかなり弱いことは間違いない。しかも、戦時下の物資統制のため5年間凍結保存のまま残されていたこの1万2千トンが、この宇宙で唯一、残っているニトロ・バイセルス・ナトリウムなのだ。化学工場に新たに製造ラインを整えて生産するには時間がかかり過ぎる。今、死にかけている星を救えるのは、銀星号しかないのだ。
 はたして、彼らは無事、7つのタンホイザー・ゲートを抜けて、バレリアへ辿り着けるのか? ハヤトたちの冒険が始まる。

 『若き女船長カイの挑戦』以来、なんだか、輸送業者が主人公のスペオペづいている神北である。今回ご紹介するのは『銀星みつあみ航海記 LOG.01 彼女が家出した動機』鷹見一幸(角川スニーカー文庫 ¥590)。これは、軍を退役したばかりの超絶技巧の天才パイロットと相棒のナビゲーターが中古船を買い、たまたま知り合った少女と買った船に付いて来たAIを合わせてもたった4人で切り盛りしているという、なんとも小さな会社、銀星運輸を舞台にした、鷹見さんの新作である。

 鷹見さんの作品をそれほど読んで来てはいないので、大きなことは言えないが、なんといってもバランスが良いなぁ。お話しの本体は、「危険なものをトロトロ運ぶ」という話の元祖「ニトログリセリンをトラックで運ぶ」フランス映画『恐怖の報酬』(この本の第六章のタイトルはそのまま「恐怖の報酬」だったりする。)のバリエーションながらも、その仕事を受けるに至るお話しの中で主人公達の人となり、会社の経緯、彼らが手に入れる遥か以前からの船の戦歴を上手く絡めつつ、金目当てなどという即物的で乱暴な理由ではなく、この気持ちの良い主人公達がどうしてもこの危険な任務を「断れなくなる」状況が丁寧に丁寧に描かれている。
 このミッションスタートまでに約半分と云う膨大な紙幅を費やしている為、後半分に凝縮されたニトロ・バイセルス・ナトリウムを抱えて帝国を半周する旅は、いささか駆け足気味になっているが、第1巻ということもあって、登場人物や世界観の紹介にページを割かれることは、致し方ないのかもしれない。
 しかしそうした中にも、既得権益団体の嫌がらせやら役人の怠慢ぶりやら、いろいろな社会的な障害が待っている。この「いやな大人」達を的確に描写しつつ、それを排除して、危機管理だの、プロジェクトだのを一つ一つ成し遂げて行く「前向きな大人」を際立たせて行くと云うこの鷹見さんの筆力は、なかなか気持ち良い。
 もちろん、それだけで終わる訳ではない。互いに引かれながらも今イチ臆病なハヤトとリアンの不器用な恋愛描写もちゃんと物語の要所でキャラクターの決断に繋がっていて、奇麗に一連の話の中に溶け込んでいる。まあ、呆れるほど無駄のない物語である。

 ちなみに、ハヤト船長、つまりキャプテン・ハヤトである。といっても、今日日のスニーカー文庫の読者には、1969年公開の東映動画作品『空飛ぶゆうれい船』なんて、知らない人がほとんどなんだろうなぁ。おじさんたちには、主人公がキャプテン・ハヤトというだけで、性格から何から設定がごっくりごっくりこんと納得出来てしまう……。そう考えると、銀星号は、『スーパージェッター』のジェッターくんの親友ピーターが乗って来た流星号と同型のマシンからかな? コナン=ドイルからかな? 鷹見さんはその辺りどちらも残さず押さえている人だから、なかなか見抜けないなぁ……。

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