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2007/03/14

アニメの国が消えて行くぞ

 日本のアニメーション文化、アニメーション産業というものは、滅ぼうとしているのではないか? ……と、神北は考えている。しかしそれは、間接的には何らかの影響があるのかもしれないが、脅威とされているアニメーターの賃金環境の劣悪さや、中国・韓国を筆頭とするアジア各国のアニメ産業の成長などと云う、真っ当な競争社会の帰結としてではない。
 たしかに、手塚治虫さん率いる野武士達によって最初の国産テレビアニメが立ち上げられたその時から、安い制作費は日本のアニメ産業の要であったし、最大の問題点であった。他国に真似の出来ない安価で品質の高い作品を世に送ったが、あまりの過酷さから有意の人材が幾人も去って行ったし、命を落とす事すらあった。

 HOTWIRED JAPAN の連載記事『浜野保樹の「日本発のマンガ・アニメの行方」』第15回「日本のアニメーターは、どれほど貧しいか」(これ、記事に発表日付が無いのよね。多分2〜3年前のものだと思うけど、これだから信用出来ないんだ HOTWIRED JAPAN は……。)によると、この劣悪さは、アメリカの動画マンの週給が、日本ではほぼ月給にあたるレベルだと云う。

 それがいかに低いものであるかは、第13回に紹介したがアメリカの組合(The Animation Guild, Local 839 IATSE)の最低賃金と比較してみればわかる。関連する部分を再録しておく。
 「動画(inbetweener)は、「最初の6ヶ月」は時給なら23.089ドル、週給なら「5日で40時間」で923.56ドル、「ベテラン」で時給24.674ドル、週給で986.96ドルとなっている。」
 時給なので出来高払いと比較はできないが、ハリウッドでは動画の新人の時給約2500円で、日本の組合の要望額、月額124,960円を割ると50時間となり、アメリカでの週給がほとんど日本の月給となっている。
 さらに、日本の組合が提示している額は努力目標にすぎないが、アメリカのは強制力があり、それに会社が従わない場合にはピケをはられたり、組合員のサボタージュなど、激しい労働争議となる。一方で、職業別組合に所属しないと、ハリウッドでは仕事ができないし、会社も雇えない。

 ちなみに、この日本の組合の「要望額」というのは、映画演劇関連産業労組共闘会議が2004年11月10日に社団法人日本民間放送連盟に提出した「要望書」の中の「テレビアニメーション制作に関する要望」のことで「新人アニメーターの最低(保障)賃金(時間額710円×8時間)×22日=月額124,960円」「動画マンのモデル賃金 動画一枚250円×月450枚+月保障5万円=月額162,500円」「原画マンのモデル賃金 1カット3500円×月40カット+月保障7万円=月額210,000円」という、花形産業とは思えないような慎ましやかな「要望」のことである。
 社会に出て数年、20代なかば〜30代。家庭を持ち始め、人によっては子供も……という状況で、月給16万〜21万円。ファミリータイプのアパートラスマンションが7万〜15万ほど掛かる東京で暮らすには、これでも十二分に厳しい筈だが、現状はこれより随分と低い事も多いだろうし、生活費を減らすため地方に逃げ出そうにも、アニメ制作会社のほとんどが東京に集まっている日本では、それはほとんどの場合、アニメーターという職からの撤退を意味する。

 確かにこれは、労働条件としてゆゆしき状況だ。しかし、だからといって、このままある日全てが消し飛ぶなどとは思えない。産業の中核であるアニメーターは日本から海外に比重が高まり、産業として大きくなったそれぞれの国で質の高いオリジナル作品が作られるようになると、日本は、アニメーション産業のリーディング国家という今の地位からどんどん下がって行くかもしれないが、一気にそれが起こる訳ではない。日本には、そして日本のアニメ業界には、四十数年の歴史と底力がある。その力が、アニメーションを支えるため、唐突なハードランディングとはならず、軟着陸まではまだまだ時間が取れる。対応の時間はある。その間、日本製アニメを支持し、資金的にも支えられるだけのアニメファンの層が、今の日本にはあるのだ。

 で、本題である。
 このアニメの支持層が、今、急速に消えようとしているのではないか? それが、神北が危惧するところである。
 さて、みなさんに質問である。現在、アニメがどのように作られ、どのように配信されているかご存知だろうか?

 1963年、日本に30分枠(実質23分程)のアニメというものが生まれた。テレビアニメ『鉄腕アトム』である。これは、それ以前にアメリカから持ち込まれたハンナ・バーベラ等の子供向けアニメ番組の長さでもあったが、1970年代に、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』という、それまでの「子供向け」という作品傾向を覆す革命的な作品が多く生まれたが、テレビと云うパッケージの中で、アニメーションの長さは大人向けドラマの1時間枠になる事も無く、2000年代に入った今も、(秒単位の増減や2パート制・3パート制等の細かな違いは作品毎にあるが、)ほぼ同尺である。つまり、作品と云う意味では、40年間その1本ごとの形態にほぼ変化は無いのである。

 しかし、その発表方法は、今や多岐に渡る。
 2007年の今、あなたは「アニメのDVD」と云われて、どんなものを思われるだろう。 『スチーム・ボーイ』『機動戦士ガンダムF91』のような劇場公開作品のパッケージだろうか? 『星界の紋章』『プラネテス』のようなTVシリーズのDVD化作品だろうか? それとも、『ダーティーペアFLASH』『沈黙の艦隊』のようなオリジナル・ビデオ作品で、宣伝活動の一環として副次的に放映されたこともある作品だろうか? はたまた『リーンの翼』のようなWeb配信のために作られた作品のDVD化だろうか? 現在、少なくとも日本のアニメの作られ方——(最初の)発表のされ方——には、大きく分けてこの4つがある。
 また、時間帯にしても、かつての「平日・休日を通じて夕方の、児童の視る時間帯」や「日曜のちょっと遅い朝」だけではなく、土曜・日曜の早朝や曜日を問わず深夜と云った時間帯も、今やアニメ放映の定番となっている。
 ちなみに、当時としてはかなり夜遅かった1963年の『仙人部落』(水曜日23:40~23:55 9話以降は日曜日22:30~22:45)等を除く、今云うトコロの深夜枠を切り開いたのは1996年の『エルフを狩るものたち』で次が後番組『EAT-MAN』ということらしい。この「深夜アニメ」がそれまでと大きく異なるのは、それまで夜更けに放映された『仙人部落』や1987年の『レモンエンジェル』、1992年の『スーパーヅガン』のような「子供を対象としない」——というよりは、はっきり云ってお色気描写やギャンブルがウリだったりと云う「子供に見せたくない」——アニメではない点だ。マンガやライトノベル等を原作とした普通のアニメが、放映枠の関係から夕方の時間帯に入り損ねて跳ね飛ばされて来た(新天地を開拓したとも云う)作品だ。
 この時代この時間、宵っ張りになっていた成年アニメファン(高校生〜社会人)にとっては寝る前の時間帯で、かえって家に帰り着いていない夕方6〜7時台よりテレビの前に居易かったと云う事情。たとえ起きていられなくてもそれまでの家族用のものでなく個人の部屋のテレビについたビデオの普及と、ルス録。さらに、1995年に日本列島を揺らした『エヴァンゲリオン』ブームの余韻もあって、この20世紀のドン詰まりの時期からこっち、深夜1時台を中核にアニメ放映は大きく枠を拡げた。

 しかし、このあたりから多くのアニメが、テレビ局のコントロールを大きく外れてしまった気がする。
 1995年『エヴァ』ブーム・1997年『もののけ姫』ブームの直後から、多くの広告代理店が、それまで適当に流れ作業で対応していたテレビアニメに対して、一気に注目するようになった。あの十年程前の、馬鹿みたいで、本当に馬鹿なだけの大騒動が、『ヤマト』『ガンダム』とは比較にならない規模で、こういう「お金を動かす人たち」に「アニメは金になる」と思わせたらしいのだ。結果、うなぎ上りにアニメの本数は増え、1990年代初頭にはなかなか進まなかったライトノベルからのアニメ化が、ばしばしガシガシ行われるようになった。同じく、1980年代までは大手出版社の人気漫画でもそうそうアニメになる事はなかったというのに、今は小さくても良い連載マンガを持っている雑誌を1本でも持つ会社が「アニメ原作のなる木」として伸して来る事が増えている。
 だが良い事以上に悪い事は多く、金に飽かしたアニメ制作と、その作品(のDVD)を売る為のショウ・ケースとしての放送枠の確保が常態化し、ハズした時の損を小さくしてうまく目先を変える為に一作あたりの予算枠を小さくして、無理矢理1クール〜2クールに押さえたボリュームのため、伸びる筈の作品もどんどん使い果たし、どんどん新しい作品に手を伸ばすと云う、決して誰の為にもならない傾向がある。既存在京キー局の枠は、突出して多いテレビ東京を含めて既に使い尽くし、WOWOW他のBS局・CS局・地方UHF局といったあらゆる場に、枠を求めてアニメの放映が広がっている。
 この量の多さ、しかも、作品の善し悪しよりもバックに付いた広告代理店の資金の寡多で、放映時間帯が決まって来るような現状。全年齢層に向けた良質のアニメが深夜枠の片隅に追いやられたり、凝りに凝った玄人ウケするクセの強い作品が視聴者が多すぎるゴールデンタイムで人気が出ずに喘いでいたりと、どうにもバランスが悪いのだ。

 こうした乱暴なコンテンツの消費が続いていること。1週に放映されるアニメが新作だけで30分番組×80本以上という膨大な量であること。一見繁栄の極みに見えるこの質と量の両面からの圧倒が、今、「みんなが視るその時代を代表するアニメ」というものを消し飛ばしていまいか? これがやがて、バベルの塔で神に挑んだ人類が受けた罰のように、ファンから共通言語を奪うという事態に至るのではないか。
 この点が今、神北がもっとも危惧する点である。

 今、必要なのは、あれだけ関連商品が売れて経済波及効果が大きかった『機動戦士ガンダムSEED』(2002年〜)シリーズでも、過去の『宇宙戦艦ヤマト』(1974年〜)や『機動戦士ガンダム』(1979年〜)・『超時空要塞マクロス』(1982年〜)・『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年〜)と較べて、アニメ・ファン全体からの支持率が随分と低いということへの理解だろう。ファン層の爆発的拡大によって数的に大勢のファンを抱えたものの、過去の「好悪は別として、とにかくみんな視ている」アニメとくらべ、視ない人の比率がどんどん増えているのだ。
 数的な多さに満足せずに、比率的な減少に留意しないと、短期的な利潤は得られても、これでは10年・15年先の市場が安定しない。

 そのためには、ちゃんと一貫した方針を貫いて放映枠の編制を行えるプロのテレビマンが育ち、各代理店と交渉して、すべての作品にちゃんと陽の光を当ててやる事が必要だろう。

 たとえば、あるキー局では、ネット内他局制作のアニメに関してはたとえゴールデンタイムでもノータッチだが、自局制作アニメだと深夜枠でも厳しい規制があったりするらしい。このため、夕方の枠に血刀振りかざして走り回るオリジナル番組が平気で流され、深夜のガンアクションやチャンバラがウリの原作を持つ作品が「刀や銃で人を殺すシーンは駄目」なんてクレーム付いたりするらしい。

 たとえば、1〜2クールの番組で、次の作品はスタッフもキャストもまた別チームと云う作品が増えたため、人間関係が円滑に進み始めてそのプロ同士の凄みが滲み出て来る前に作品が終了してしまうため現場は一期一会になりがちで、新人の育成すらままならない状態という話も聞く。

 お金が流入して来るのは悪い事ではないのだが、口を出す人が増えただけで、しかもそれぞれがバラバラな事を言い、アニメ製作会社も放送局も振り回されるのは宜しくない。

 経済産業省(旧経済省)の経済省広報誌「経済産業ジャーナル談論風発」に掲載された特集【日本コンテンツの国際展開の促進に向けて】(2005年11月号)という座談会(出席者 角川歴彦 (株)角川ホールディングス代表取締役会長/ 浜野保樹 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授/ 依田 巽 (社)日本経済団体連合会産業問題委員会エンターテインメント・コンテンツ産業部会長((株)ギャガ・コミュニケーションズ代表取締役会長) /豊田正和 商務情報政策局長)で、浜野さんが、こんなことを云っておられる。

 浜野 1960年代、ベトナム戦争があって、アメリカが世界で急激にマーケットをなくしていったときに、初めてアメリカ政府は映画に直接手を出しました。AFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート)という半官半民の組織をつくって三つの目標を立てました。官だけしかできないことをやろうということで、一つは人材育成。二つ目がアーカイブ。エンターテインメントの企業は浮き沈みが激しいので、せっかくつくった作品が売り払われて、きちっと残らない。そこで、アーカイブをきちっとつくろうということ。
 私は三つ目が一番大事だと思っています。何かというと、英語でリコグニションという目的を立てました。社会的評価を高めることです。エンターテインメントというのは添え物でも何でもなくて、われわれが誇りにする非常に大事なものだという社会的評価をきちっと作り上げることこそがAFIの最後の目的だと。このリコグニションというのはすごく大事なことで、役所がきちっとそれを見て、産業であるとか、文化であるという対応をとると。日本にはそれがなかった。

 今こそ、このリコグニション、社会的評価を高めるという事が、アニメ産業全体にとって、ひいては、そのコンテンツ産業を一つの輸出の柱にしようと考えている日本経済にとって、一番重要なのではなかろうか。

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コメント

>神北さま

 全く同感です。真剣に本気で対応しないと日本はせっかく自国が持っている素晴らしいものを自ら消費しつくして、潰してしまうことになりかねません。そしてその対策は今必要なのだと思います。

投稿: おでっさ | 2007/03/14 13:04

おでっさ さま

 10年程前、『もののけ姫』の大盛り上がりの中で、大手広告代理店の方から「『もののけ姫』みたいなアニメをやりたいんだよ……」と言われた事があります。なんか、アニメというのは、とにかく作って大手代理店が全力で売れば、みんな「もののけ」クラスに売れると思われていたみたいです。

投稿: 神北恵太 | 2007/03/14 18:32

せっかくネットがあるのですから、資金調達から宣伝、スタッフ募集、実制作、あと映像配信まで一社で出来る世の中(配信じゃなくて、アマゾンでDVD通販って手も)ですから、資金、スタッフの給料も工夫次第でなんとかなりそうな。録音も自社スタジオもてば。
TV、映画は、あくまで付随的な、イベント的なものと考えて。
経済的に自立できれば、いろいろ自由な試みをするとこも現れて、活性化するかも。無理ですかねえ。

投稿: N | 2007/03/16 00:05

N さま

 ソフトウェア会社とかゲーム会社とかには、すでにそれを実行に移しているところが幾つかありますよね。
 アニメ産業でも、たとえば東京に主導部をおき、作業パートを各地方都市に分散させるようなシステムを取るのは、雇用環境改善に大きな影響があると思うんですが、最初にまず環境を整える資金が無いと、なかなかそういう思い切った動きが出来ないんでょうかね。

投稿: 神北恵太 | 2007/03/16 01:55

そういうところにこそ、これから必要になってくるのが政府によるエンタ産業推進融資枠ですよ。
軌道にさえ乗れば、作品売り上げ以外にも、グッズのロイアリティもあるし、実現性ありそうな気がします。英語版もつくれば、海外からの売り上げ、投資も期待できるし。

投稿: N | 2007/03/17 00:19

アニメといえば、大変申し訳ないのですが、私が以前「アメリカ100人の著名人」のところで書き込ませていただいた内容なんですが、大変な勘違いをしておりまして。長い話になるので詳しくはこちらに
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=14036904&comm_id=65535
ちなみに、まだその疑問は解決しておりません。

投稿: N | 2007/03/17 00:26

N さま

 その、まず「経済的に回るか」というところで、いろいろと難しい気がしますねぇ。
 グッズのロイアリティをとるためには、自社管理なんてして居らずに広告代理店を通すべきですし、英語版を作るためにはちゃんとした翻訳チームを抱える商社と組まなくては無理です。配信の数を上げるためにも、独自配信法より、他の作品と相乗りするポータルサイトの協力を得る方が重要です。しかも、今一番大きな問題になっている海賊版対策までとなると、小さなスタジオが独自にどうにか出来る問題ではありません。
 あと、やはり自分をビビッドに鍛え上げて、感性を磨く事を要求されるアニメーターなどの商売にとって、いくら生活費が安価に済むからと云って、東京から、映画館すらほとんど無いような田舎に引っ込む事に納得出来るかという問題は、大きく残る気がします。
 プログラマと同じに考えてはいかんのではないでしょうか。

 なお、Mixi内への誘導は、参加しておられない方には読めませんので、ご遠慮下さい。m(._.)m ペコリ
 

投稿: 神北恵太 | 2007/03/17 10:47

大変申し訳ありませんでした。
リンク先にはこれから注意いたします。


グッズのロイアリティの問題と英語版制作の手間ひまの問題は、確かにいままでのやり方では問題が多いですね。映像のコピー問題もやっかいです。
何かうまいやり方があれば。

投稿: N | 2007/03/17 19:23

N さまと、映像コピーの問題とか話していたら、SeeSaaブログに作られたばかりの、頭の悪そうなYouTube紹介ブログの無差別トラバを受けました。アニメの話をしているこのエントリを残して、もう1つ関係ないトコは削りましたが……。

投稿: 神北恵太 | 2007/03/18 04:00

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