人は皆遠ざかったぞ
2年程前に出た、少々古い本の紹介する。
『廃墟本 THE RUINS BOOK』中田香・中筋純(ミリオン出版 ¥1800+税)
写真集と言って良いかもしれない。30件の廃墟物件の写真レポート本である。
廃墟、なんと想像力をかき立てる言葉か。そして、今、地方の過疎化とともに日本の人口が減りかかっている現状を考えると、一部の大都会以外のあらゆる場所で、役割を終えたまま建て替えられず廃墟となってしまう建築物は、徐々に増える筈である。
この本は、その中でも様々な意味で美しい「枯れ方」をした物件を、ライターとカメラマンの二人組が歩いた記録である。
まず、表紙に打ちのめされる。
この本を手に取る機会があったら、どうか、カバーを外し、拡げて眺めてみて欲しい。
美しい金箔張りの大広間、豪奢壁面、壮麗な格天井(ごうてんじょう)、花鳥風月の描かれた一枚五尺幅はあろうかという幅広の襖の列。しかし、畳の上には、在りし日の宴会を終えた姿のまま散らかされた大きな和膳や、個人鍋を温める鋳物の小さな固形燃料コンロが転がる。そして、なぜか消火器がドンと置かれ、部屋の隅には束ねて縛ってある座布団が一塊。
栄耀栄華のよすがを残し、宴席のざわめきと華やかさだけが、どこかへ抜け落ちてしまった。
神北は、この場所を熟知している。かつて伴淳三郎&花菱アチャコの映画『二等兵物語』シリーズのロケでも使われたことがあったという純和風の大広間。この奥に見える床の間は、スイッチ一つで壁面全部が床下へと沈下し、隣室とひと続きの巨大な大広間に出来る。時代が昭和から平成に移った1989年の夏、1600人の参加者が集まったこの場で、第28回日本SF大会の開会を宣言したのだ。
「ホテルふきぬき」(愛知県蒲郡市)。大会の2年後の1991年に名を変えて「ふきぬき観光ホテル」となり、その6年後の1997年に長い歴史の幕を閉じた。
平成となってからこちら、バブルの崩壊や個人主義の台頭に因る社員旅行の減少など、逆風の嵐の中で沈んでいった大きな温泉ホテルは多い。
ふきぬきも、かなり大変だとは聞いていたし、閉鎖されたと云うことも聞き及んでいた、その後、心霊スポットとして名を馳せ、最終的にある宗教団体が買い取って研修施設として整備していると聞いている。なにより一昨年末、隣接する松風園に訪れた時、改修のため名物だった「水車風呂」を取り壊す様子を眺めたので、現在だいたいどういう状態かも知っては居る。しかし、あの大広間の最後の姿を写真で見せられると、ちょっとたまらない。
この本、他にも、御殿場を通る度に見上げていたが閉鎖されていたとは知らなかった「風車レストラン」(静岡県御殿場市)や、テレビCMで名前を良く聞いた「ひるがの高原 ひるがのハイツホテル」(岐阜県郡上市)など、見たり聞いたり知っている場所も多い。そして、知らない廃墟も綺麗だ。
特に、「小関小学校折八分校」(山梨県南巨摩郡)と、既に取材後取り壊されたそうだが、「旅荘・亀喜荘」(和歌山県東牟婁郡)の二つが美しい。木造建築の綺麗に残った廃墟は、なにか毅然とした品格を持っている。これと較べると、コンクリートの廃墟は、侵入し易いのか、ゾクのペイントが多くて、ちょっとね。
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コメント
えーっ!
と思って検索したら、
http://f21.aaa.livedoor.jp/~lexus/hukinuki.htm
これか。
地元なんだよなあ。
SF大会の施設案内図を作ろうと36枚撮りを10本くらい使って撮りまくった写真がどこかにあるはず。
投稿: yoshii | 2007/05/27 00:49
三ヶ根山スカイラインの回転展望レストランも数年前に廃業撤去されましたね。
ってか、スカイライン自体が採算割れが激しいので、無料開放しようかという豪快な話が出てるそうで。
ん~ おごってもらった車エビが旨かったことは記憶にあるんだがなあ。
投稿: 大外郎 | 2007/05/27 00:59
お、ダイナ★コンEXファミリー、反応良いですな。(^_^;)
Yoshii さま
あれから、幾つもの大会でスタッフをしましたが、やはり思い出深いです。
2年前の本ですが、4月に再版されてますので、結構大きめの本屋だとあると思います。一度、ペラペラっとめくって見て下さい。
大外郎 さま
あー、ここは万宝が頑張ってくれたディーラーズルーム、とか、廃墟写真を見ながらなんか泣けます。
この本に拠ると、SF大会が、ホテルの絶頂期と重なるんですねぇ。
投稿: 神北恵太 | 2007/05/27 01:41