「あの、売られたケンカって、絶対に買わなくちゃいけないんですか?」 天山龍也(あまやまたつや)
『小さな国の救世主 4 シャカリキ勇者の巻』鷹見一幸(メディアワークス電撃文庫 ¥590+税)を紹介したい。『小さな国の救世主』シリーズの4巻目、現状、最新刊である。
センドルク大統領が失脚し、新生セリカスタンがキシトン大統領
のもと動き出したのを見届け帰国して以来、一年ぶりにセリカスタンに戻った天山龍也は、再び部族間闘争に巻き込まれる。中国から密かにセリカスタン入りし
た潜入工作員の甘言に煽られたナガス族長老はナガス民族解放戦線を謳い、政府に反旗を翻す。
しかしそれは、自国がキャスティングボードを握って
いる地下資源市場に、セリカスタンの資源が出て来ることを嫌った中国政府による「作られた民族紛争」だった。彼等の目的は、セリカスタン内で混乱が続き資
源採掘や出荷を何年か遅らせることで、今しばらく独占状態の荒稼ぎを続けるというものだった。
ロシアとしては、元ソ連邦で今もロシアと安全保障条約を結ぶ自国とつながりの深いセリカスタンに中国が直接領土的野心を持つとしたら、通常見過ごす訳にはいかない。
しかし、現状何の経済的価値も戦略的価値もない中央アジアの小国が内紛で何年間か経済発展が停まるとしても、その程度のことなら、もっと直接的な見返り
——たとえば今も中国と交渉しているシベリアの天然ガスや原油の価格を、もう少しロシア側に好条件に見積もり直す等——があるのならば、「内戦」というこ
とで出動をしばらく見合わせることは、ロシアとして呑めない話ではない。
「中国から出稼ぎに来た治水工事の労働者が、ナガス族独立の悲願に感銘
し、義勇兵として立ち上がった」というストーリーが用意され、中国政府による侵略ではないと云うポーズが取れさえすれば、居住地が中国と国境を接する地区
に住むナガス族に対し、中国軍が密かに軍事支援を行なうことも容易だ。工事車両に偽装された戦闘車両が列車に乗せられ密かに国境を越えて、土木作業員と云
う触れ込みの特殊部隊要員とともにナガス族の住む地域に運び込まれた。
「小さな国の救世主」というタイトルに、西欧的なドレスではないものの、和装でも中華系でもアラビアンでもない、しかしちょっと東洋掛かった不思議な衣装をまとった女の子の表紙。
この表紙で、あなたは、どんな内容を想像されるだろうか?
やっぱり、日本人の少年がどこか異世界に行って活躍するファンタジーだろう? うむむ。まあ、そう思うのが当然かもしれない。
しかし、これはそういうファンタジーではない。ポリティカルフィクションの傑作である。
しかし、日本人にとってそこは一種の異世界であるという見方も出来る。日本の暮らしの延長でもなく、映画やテレビでよく見る欧米の暮らしとも地続きでない、全く違う価値観と世界観を持つ人々の中に、主人公は放り込まれてしまうのだ。
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