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2008/02/13

エンタメ大賞3連発だぞ

 ライトノベルはジャケ買いを持ってよしとするジャンルである。ということで、ファースト・インプレッション勝負で、表紙や惹句が気に入ったものを 適当に読んでみたりしているのだが、今月は、ファミ通文庫にエンタメ大賞作品がずらりと並んだが、その中から3冊ほど読んでみた。

  • 『サージャント・グリズリー』第9回特別賞受賞作
  • 『千の剣【つるぎ】の舞う空に』第9回優秀賞受賞作
  • 『雅先生の地球侵略日誌』第8回東放学園特別賞受賞作


『サージャント・グリズリー』彩峰 優、イラスト:bomi(ファミ通文庫 609円)

 親から離れ、一人暮らしをする玖流玖 準(くるく じゅん)は、誰もが皆いつの間にか「クルックー」という渾名で呼んでしまう、鳩のような苛められっ子。しかし、突然彼に味方が現れた。それは、姓をグリズ リー、名を軍曹という遠い国からの転校生。名前の通り、ハイイログマ(のヌイグルミ)の頭をした謎の美少女……。いや、何故か準にはハイイログマの頭と、 割とがっしりした兵士の体つきに見えるのだが、彼以外のクラスメイトの目には、プラチナブロンドの超クール美少女に見えているらしい。転校初日、準をパシ リにしてたかっていた不良どもを完膚無きまでにぶちのめした軍曹は、怯える準と(一方的に)友誼を結び、いつの間にか準の生活に深く関わって来た。家庭の 市場で父と母の道場を継ぐ宿命を背負わされた赤井空・青井美月の双子の武道美少女姉妹や、軍曹の妹グリズリー少佐、母親のグリズリー大佐など、さまざまな 人々と準が巻き込まれた騒動とは?

『千の剣【つるぎ】の舞う空に』岡本タクヤ、イラスト:柏餅よもぎ(ファミ通文庫 588円)

 幼少期から世界一に憧れ、学校で友達も作らずに日々空手修行に明け暮れていた速見真一だが、中学に入った年 に交通事故に遭い、その夢は潰えてしまった。三年経った今も真一は無気力に高校に通い、友達ひとつ作らない。群れない彼のスタイルを自身では崩せなくなっ ていたのだ。しかし、ポスターの「世界一」という惹句に引かれて始めた「サウザンド・ソード」と呼ばれるネットゲームで赤衣の侍タカヒロとして闘い続ける 彼は、人生で初めて一人の親友を得た。アスミという名の白装束の女剣士。春先に知り合い、夏休みが終わるまで半年近く、二人は毎日共に「サウザンド・ソー ド」の世界を歩き、互いに相手の性別年齢所在地といったリアルワールドでの姿を全く知らぬまま、友情を育て、力を付けていった。しかし、二学期の始まった ある日、真一は知る、アスミが彼のクラスのマドンナ真山明日美だということを。そして、二学期が始まった頃、二人はクラスの文化祭委員として行動を共にす ることになった。

『雅先生の地球侵略日誌』直月秋政、イラスト:昼間行燈(ファミ通文庫 定価588円)

 東京都立善正高校の源雅(みなもとみやび)先生は侵略者である。銀河に繁栄を極めるクァークゴ帝国の地球遠 征軍総司令官首席補佐官券幕僚総監という身分を隠して敵情視察のため潜入した彼女の悩みは、自分の担任クラスの問題児五人が彼女たち侵略軍の宿敵、人類戦 隊アースファイブであること。なんでもこの銀河辺境の惑星「地球」には、数十年に渡り惑星征服を目指す多くの悪の組織が襲いかかり、ことごとくナントカ戦 隊とかいう奴らが迎え撃ち、侵略者を退けて来たという歴史があるらしい。彼らアースファイブ(リーダーは当然「アースレッド」だ)は、その系譜に連なる最 も新しい正義の戦士らしい。この頭の痛いシチュエーションと、毎回ユニークな作戦でアースファイブを追いつめながらも闘えば必ず負ける自軍怪人のふがいな さに心を痛める雅先生の心の平穏は、養護教師の一橋渚や、2歳年上28歳のロリ顔美少女教師の甘井蜜と過ごす、女同士の付き合いの中にしかなかった。しか し渚先生は実は、アースファイブを擁する地球防衛組織EDCの副司令官だったのだ。

 

■■■■ ネタバレしまっせ! 10行後 ■■■■










  『サージャント・グリズリー』は、現代的不思議キャラの基本(?)、「軍曹」である。が、かの人気アニメーションの如き日常ドラマではない。じつは、玖流 玖準は大富豪玖流玖家の跡継ぎ養子で、それを狙いとある闇社会組織の魔の手が伸びてくる……というお話で、準の実家の玖流玖家を闇組織が乗っ取ろうとした話を 含めて、なにやら「大きなお話」が動いているようだ。
 しかし、この実家と両親について、準の言動があまりにも一致しておらず、書割り感が否めな い。富豪一家の中での暮らしがいやで逃げ出したが母親には会いたいと思っている……筈が、最後の土壇場で、父母と実家を捨てても軍曹たち仲間を護る。以降 も父母、特に母のことを振り返りもせずに日常に埋没して行く。
 ちょっと、これ「俺世界」の構築の仕方が鼻につくなぁ。いや、「俺世界」、「俺パ ラダイス」でいいのだ。こういう願望充足型のエンターテイメントは。彼女(未満?)の軍曹。その妹でドSの妹、グリズリー少佐。姉妹の母のグリズリー大 佐。が準を護るためにアパートに住み着き、軍曹の幼馴染みである事件から縁を切っていたサーモン閣下とその部下のブルドッグ警部の二人が、転がり込み。更 に隣の部屋に住む謎の武道家少女の赤井空と、その双子の妹で離婚で姓の違う武道家少女、青井美月の姉妹。という、大勢が何かというと準の狭いアパートに集 まってくるこの構造は、なかなか面白い作りなのだが、エピソードがどれも荒っぽすぎて興が冷めてしまう。丁寧に丁寧に書くだけが小説ではないが、セリフをつないで、状況説明不足のままコロコロとシーンが変わるのは勘弁してほしいなぁ。これではあまり面白がれない。
 コンテストの応募作として、この設定着想の面白さはすばらしいと思うが、スピード感を採るためにストーリーの荒れ方に目をつぶるのは如何なものか。本来、文章指導すべき編集がちゃんと仕事をしていないという気がする。大丈夫かこのエンタメ大賞。


 『千の剣【つるぎ】の舞う空に』は、偶然『サージャント・グリズリー』と同じ、クラス内で孤立している高校生の少年を主人公に据えている が、その在り様は全く違う。主人公はクラス内に友達を一人も作っていないが、別に虐められていたりはしない。しかし、友達というものに憧れないものでもな い。ただ、子供の頃から友達を作ったことが無いために、どう付き合いをして行けば良いのか、間合いが取れていない。自己は確立しているが明朗快活なスポー ツマンではないという、弱さを抱えた現代的な人物像。対するヒロインの真山明日美も委員長タイプだが、昭和40年代青春ドラマ風の慶明闊達娘ではない。彼 女も自らの中に深い闇を抱えていて、その秘密に今も怯えるという今日的なヒロイン。
 最初の出会いはネットの中でアスミの掛けた「よかったら、私 と闘ってくれませんか」という言葉。オンラインの出会いってこうだよなぁと、しみじみ思う。その後、二人はオンラインで長い時を過ごし、たくさんの経験を 共にして、分かち難い絆を紡ぐ。そしてその後になって、改めてネットの外で出会い、すれ違い、最後に友誼を結ぶ。
 なんとも、良質の恋愛小説。コ ンテストの応募時のタイトル『ボーイ・ミーツ・ガール・オンライン』の方が、ストレートで良かったんじゃないかという気もするが、まあ、こういうタイトル の方がただの高校生同士の恋愛小説ならスルーしちゃう層にも訴求力が出るから良いのか。こういう小説を読むのは、『侵略する少女と嘘の庭』以来かな。
 しかし、これだけきっちりとした小説が書けるのだから、次は是非、SFに走ってもらいたいものだ。今後が間違いなく愉しみな作家。


 『雅先生の地球侵略日誌』は、この3作品の中で一番の気に入り。一番文章も上手く、一番SF的なガジェットやギミックを満載し、一番オタクな訴求力を持つ作品。
 東映特撮、特に戦隊ものに対する深い愛が滲むお話。簡単にいうと、戦隊シリーズの世界観の中で、宇宙人側からのみ語られる『エリアル』
といった感じ。『エリアル』でいえばシモーヌにあたる女副司令が、戦隊もののお約束に一つ一つツッコミを入れて行く語り口が楽しい。
 曰く、なんでウチの怪人や戦闘員は、奴らの変身や名乗りや手間のかかる必殺技シチュエーションをボケっとして眺めているんだ? 普通絶好の攻撃チャンス だろうが! 曰く、なんで世界中の観光名所からお前たちのメカは出てくるんだ? 遺跡のレンガ積みとかガラガラ崩して、地元の観光協会は怒り出さないのか? 曰く、そもそも、そんな遠くで発進して 一瞬で東京に現れたりする技術力って、どーなってんだ? だいたいお前たち自身もなんでジャンプ一つで都心から郊外の石切り場まで飛べたりするんだ?  ……彼女の怒りはもっともである。そしてこのもっともな怒りは味方にも波及する。 どうして、一斉攻撃をかけず、一回の出撃は怪人一人と戦闘員20〜 30名と決めてかかっているんだ? は? 様式美、歴代の組織もそうしていたから? そんな事で侵略が出来たら苦労は要らんわい。そもそも侵略できねーから 248戦248敗と、苦労を重ねてるんだろう……。
 地球のサブカルチャー好きの変態皇子司令官と天才博士、宗教に目覚め慈悲の心に満たされた英雄軍人の成れの果て指揮官。温厚な経済官吏たちに囲まれ、いつまでも進まない侵攻に心を砕く源雅(仮名)の明日はどっちだ。
 日曜の朝、早起きしたくなる事請け合いの名作である。

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