木の船と鉄の男たちだぞ
アバロン・ヒルの古典的ウォーゲームに、『帆船の戦い(Wooden Ships and Iron Men)』というものがあるのをご存知だろうか?
直訳すれば「木の船と鉄の男たち」。大航海時代の帆船同士の海上戦闘を題材にしたゲームで、何種類もある砲弾(単なる鉄の砲弾だけでなく、鎖につながれた2つの球を飛ばして、鎖で引っ掛けて相手のマストをへし折って航行不能にするなんて言う特殊弾まである)を打ち合うことに始まり、近接戦。攻め手が、縄鉤の手や鉤付きの棒で相手の船を引き寄せて接舷し、切り込み隊を送り込んでの肉弾戦。海賊映画や帆船小説の世界が、そこに展開している。「Wooden Ships and Iron Men」は、その世界観を見事に一言で表したタイトルとして、古いウォーゲーム・プレイヤーに良く知られる。
さて、ということで、時事通信社の2008年4月11日のニュースである。『人質約30人を解放=仏帆船乗っ取り』………………えっ!?
【パリ11日時事】アフリカ北東部沖でフランスの豪華帆船「ポナン」号(850トン)が海賊に乗っ取られた事件で、仏大統領府は11日、声明を発表し、人質となっていた帆船の乗員約30人がソマリア北部の沖合で無事解放されたことを明らかにした。事件は4日の発生から1週間ぶりに解決した。
声明によると、乗員のうち22人はフランス人。AFP通信によれば、解放は実力行使ではなく交渉の末に実現したとされるが、身代金が支払われたかどうかなど、詳細は不明。
ち、ちょっと待って下さいよ。そんな事件が起こってたんですか?
グーグルニュースで調べたら、一番古いのは、4月5日に徳島新聞が報じた『フランス船乗っ取り』だった。
ソマリア沖でフランスの大型帆船(乗員約30人)が何者かに乗っ取られた。フランス公共ラジオ。
うーむ。たった1行の速報ゆえに、緊迫感が伝わって来る。この後に同日のTBSのニュースが続いているのだが、ここは消えるのが早いのでもうどんな情報があったかはよく解らない。
これが、6日になると、AFP BB NEWS に『ソマリア沖で仏帆船乗っ取り、乗員30人が人質に』という詳報が載った。
【4月6日 AFP】インド洋のソマリアとイエメンの国境付近でフランスの豪華帆船が4日、アデン湾(Gulf of Aden)で海賊に乗っ取られ、乗組員30人が人質になった。海賊は5日現在、ソマリア北東部プントランド(Puntland)沖の拠点に向かっているとみられる。地元当局が明らかにした。
乗っ取られたのは仏マルセイユ(Marseille)を拠点にする海上輸送グループが所有する帆船「ポナン(Ponant)」号(850トン)。身代金などの要求はまだなく、フランス政府は犯人側からの連絡を待つと同時に対海賊緊急作戦の準備を進めている。
プントランド政府高官によると、海賊は「プントランド沿岸エイル(Eyl)に向かっているが、アクセスが困難なため船の追跡はできない」としている。
ポナン号は高度の監視能力を備えており、船の上空にヘリコプターも飛んでいたにもかかわらず乗っ取られた。ポナン号からの通信は途絶えている。
エルベ・モラン(Herve Morin)国防相は海賊は約10人で、一方の乗組員は20人ほどがフランス国籍で残り約10人はウクライナ国籍だとした。乗客はいなかった。
仏軍基地はジブチ周辺の外国軍基地としては最大で、米国主導の多国籍軍CTF150とともに高度な監視が可能。仏軍広報によると両部隊が事態の展開を追っているという。
ポナン号は今月21、22日にエジプト・アレクサンドリア(Alexandria)-マルタのバレッタ(Valletta)間のクルーズを予定していた。3本のマストを備えた同船には船室34室、4つのデッキとラウンジ、バー、レストランがある。(c)AFP
なかなか詳しい。そして生々しい。回航中の豪華帆船を襲った海賊。なんとも、謎めいた事件。恐れおののいて宝飾品を差し出す上流階級の乗客はいないが、逆に、そういう層を人質に取ったら、客筋に寄っては要人及びその家族が含まれていて、一瞬でフランスの特殊コマンドが飛んで来そうな気もする。
だから、わざと回航時を選んだ可能性もある。
ちなみに、この記事に載っている写真を見ると、この豪華帆船。いわゆる豪華客船にマストを付けて、帆走可能にしたという超豪華な現代型帆船であり、どうみても「木の船」ではない。
4月7日にAFPの報道では『ソマリア沖での仏帆船乗っ取り、仏政府が海賊側と接触』となり、解決策に向け、フランス政府が勢力的にネゴシエートしていることが読み取れる。
【4月7日 AFP】(写真追加)フランスの豪華帆船「ポナン(Ponant)」号(850トン)が4日、ソマリア沖で海賊に乗っ取られ乗組員約30人が人質になっている事件で、フランスのベルナール・クシュネル(Bernard Kouchner)外相は6日、海賊側と接触したことを明らかにした。ポナン号は同日午後の時点で、停泊しているという。
クシュネル外相は、仏ラジオ局フランス・アンテル(France Inter)に対し「海賊側と接触した。事態は長期化する可能性がある」と述べ、「接触できたことを有効的に活用し、流血の事態は避けなければいけない」と強調した。
また、同外相は、仏人22人とウクライナ人約10人の乗組員解放のための身代金支払いについては否定しなかった。
仏軍関係者によると、ポナン号は5日午後現在、ソマリア北東部のプントランド(Puntland)沖に停泊しているという。しかし、海賊の勢力圏に停泊しているのか再び出航しようとしているのかははっきりしないという。また、海賊側との接触についても、詳細の言及を避けた。
フランスのエルベ・モラン(Herve Morin)国防相は外相の発言に先立ち、乗組員の安全が保証されるまで、軍事作戦は行わない方針を明らかにしている。(c)AFP
海賊の勢力圏なんていうトンでもない言葉が書いてありますよ。これ。いや、20世紀末から海賊が勢力を増して、東南アジアやアフリカ近海などでは海賊被害がかなり増えているとは聞いていたが、危ない海域・出没海域ではなく、勢力圏ですかぁ?
ちなみに、神北が気がついたニュースの続詳報が、AFPの2008年4月12日の記事『仏帆船乗っ取り事件、仏軍の攻撃で死者3人』。人質解放の後で攻撃が行われたのだな。。
【4月12日 AFP】フランスの豪華帆船「ポナン(Ponant)」号(850トン)がソマリア沖で海賊に乗っ取られ乗組員約30人が人質になっていた事件で11日、ソマリア北東部でフランス軍のヘリコプターによる攻撃があり、3人が死亡した。Mudugの知事が明らかにした。
知事は「3人の遺体が回収され、8人が負傷した。さらに8人がフランス側に拘束された」と語った。ヘリコプターが攻撃したのは、乗っ取られたポナン号が停泊していたGaraad村落から約25キロメートルのJariban村。帆船が解放された直後に攻撃したという。
一方パリ(Paris)では仏軍が帆船の乗員30人が解放された後海賊6人を拘束したと発表した。
乗員の救出のため身代金を支払ったかについて仏軍は、「公費」は用いられていないとしている。(c)AFP
なんとか収まりがついたみたいだが、10人の海賊のうち8人が拘束され、戦闘で3人が死亡、8人が負傷……って、攻撃側にも死亡者が出たってことですか? (パリの発表では拘束された海賊は6人なので、攻撃側は全員生還した可能性もあるわけですが……)
フランス人って、こういう時に苛烈だからなぁ。
ま、もちろんこういう時に、寛大で正直なつもりで大甘な態度を取り、世界からチキン扱いされた上に同様の事件の更なる火種にまでなってしまった日本政府のような愚は、ヤツ等は冒さないだろうなぁ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント