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2008/11/07

これじゃボンナイフだぞ

 ポメラという電子メモ帳がある。概要は、ITmedia News「デジタルメモ帳「ポメラ」——文庫本サイズのテキストエディタ登場」に詳しいが、つい半月ばかり前にキングジムが発表し、キーボードが大きく、モノクロ表示で漢字も第二水準止まり、作れるものもテキスト・ファイルのみという割り切りで、軽快さを身上とした文房具である。
 その割り切りの良さ、もしくは良すぎることに、「そこにシビレるあこがれるゥ」だの「問題外の外」だのと、発売以前からネットでの毀誉褒貶喧しい。

 神北としては、電池駆動20時間&スイッチオン2秒で立ち上がるというのは魅力的なのだが、「EeePC等ザウルスと較べても、テンで役に立たない」という意見。理由はいくつかあるので、羅列してみたい。

  1. 漢字で8000文字程度を1ファイルと言う非常に小さなデータしか扱えないこと。
  2. わずか100単語までしか辞書登録が出来ないこと。
  3. ファイル管理機能が貧弱なこと。

 一つ目は、8000文字、原稿用紙にして20~30枚分しか書けないこと。これはメモとしては問題ないのかもしれないが、ちょっとした文章仕事の容量としては、あまりにも貧弱すぎること。
 また、直接のメモ作業ではないが、地図屋である神北がしょっちゅう電子デバイスを持ち歩く用途のうち、かなり大きな面を占める、「原稿読み」には、全く使えない。地図屋として小説挿絵の地図を書くにあたり、多くの場合本文原稿を読ませて頂くのだが、たとえば、神北が地図を担当したある架空戦記では、本文とその後につく艦隊編制表で約12万文字あった。これを1ファイル8000文字しか保持できないポメラに詰め込もうとすると、約15ファイル。とはいえこれではぶつ切りなので、章単位に文章を区切るとかの意味のある区切り方をしたら都合で20ファイル近くに分けざるを得ない。
 次に、100語しか単語登録が出来ないという貧弱な辞書仕様が大きな問題だ。マシンを移る度、IM(インプット・メソッド)を替える度に若干の調整を加えているが、神北の辞書には「光瀬龍」とか「今日泊亜欄」といった人名が登録されていることもあるし、「がんだむ」で変換すると「機動戦士ガンダム」「『機動戦士ガンダム』」「『機動戦士ガンダム』('79)」「玩駄無」「高達」……といったいろんな単語が登録してあることもあった。これ等はいずれも、その時々の仕事等でよく使うから入れてある言葉だ。どうしても「しゃあ・あずなぶる」「シャア・アズナブル」と一発変換できないと、手が停まってしまう。
 こんな作品ごとの用語やスタッフ・キャストの人名を入れていたら、500語や1000語は一瞬にして埋まってしまう。そもそも、扱う作品ごとにユーザ辞書を入れ替えるという方法を取ろうにも、そういった機能には対応していないらしい。
 三つ目のファイル管理機能が貧弱というのは、複数ファイル同時展開が出来ないらしいこと(原文を読みながら別ファイルでメモを取る、資料をファイルを脇に置いて書き物をする……ということが出来ない。)、ディレクトリ管理が不可能(巨大なマイクロSDファイルのディレクトリ分けが出来ないので、最大8000文字単位のデータが多量に並び、さらに修正時間順にしか並ばないそうな。)らしいことの2点である。

 これは、キツい。
 また、持ち歩く環境には制限があるとしても、少なくとも、小説家でもライターでも本職として書く人間は、パソコンの中か外かは別として、様々なものを参照している。辞書、文章資料、図表、理科年表、地図、計算機、オーディオ・ビジュアル再生機……。また、最近ではネット内の情報やサービスからデータを得るためのWEBブラウザも、執筆者に取っては必須の執筆環境の一つとなっている。
 さらに、ポメラは本一冊分のデータをパラパラと眺めることも出来ず、ちょっと専門的な文章を書こうと思っても、テクニカルタームを十全に覚えさせることは出来ない。
 ただ単に、会議でメモを取ることに関して、そんなにテクニカルタームが頻出しないという前提で、何とかなる程度。また、電車の中など机の望めない出先で打つには、このバタフライ式の広いキーボードが膝上では逆に不安定で、ちょっと打てる状態ではない。
 通信なんて電力を食う仕事は接続した携帯電話にでも任せておけば良いから、ポメラ本体には是非、電子辞書搭載や、メール機能・一歩譲ってGmailの使えるテキストブラウザ程度の搭載は、後継機でぜひとも達成して欲しいものだ。

 

ITmedia Biz.ID の2008年11月6日の記事『仕事耕具:前編 写真と動画で“見る”「ポメラ」の開発秘話』で、キングジム開発本部電子文具開発部開発課の立石幸士さんが「携帯電話は十徳ナイフ」とした上で、「本当に料理する人は包丁を使いますし、本格的に写真を撮りたい人は一眼レフを使います」と仰っている。
 記事の結びは「文章だけを本格的に書きたい人であればテキスト入力専門機を使うはず、という自信に裏打ちされたコンセプトなのだった。」と言う言葉だが、本当にそうなのか?
 文章を快適に執筆するためにテキスト入力専用機というのは間違いではないだろうが、一緒に資料閲覧専用機とか電子辞書とかを持ち歩くのでは、結局、重たくて話にならない。
 この、現状のポメラは、包丁でも一眼レフでもなく、ボンナイフや廉価なトイカメラなのではないか? 単能機だからといって、メモ帳に出来ることはメモであり、原稿用紙の代わりは務まらないのだ。そこのところを履違えてもらっては困るなぁ。

 本当に料理をする人は、ボンナイフで食材を切らないのである。

 なお、本記事のボンナイフの所でリンクさせて頂いたのは、『まぼろしチャンネル』『チビッコ三面記事』『第12回「子供に刃物は持たせるな」の巻』である。

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コメント

ボンナイフにしちゃ高すぎますなあ。
これで9800円ならともかく。

投稿: 笹本祐一 | 2008/11/07 22:16

あたしは、出先で入力するなんてことは今やあり得ないと見切っておりますが、ある程度の量のデータを持って歩いて、出先でパッと参照できるといったことはやってみたいわけです。

それに向いているのがこれではないのか?と思っています。
http://www.sonystyle.com/webapp/wcs/stores/servlet/CategoryDisplay?catalogId=10551&storeId=10151&langId=-1&categoryId=8198552921644523779

モノクロではありますが、eインクだから電力消費は問題にならないし、電子ブックの機能として立ち上がりも早いでしょう。
pdfで記録しておけば、いつでもパッと出る、と思われるのです。

しかしながら、日本では電子ブック自体が壊滅してしまったので、輸入するしか手がないわけなのです。

投稿: 酔うぞ | 2008/11/07 22:18

笹本祐一 さま
 実売、19000円。現状、ちょっと手を出しにくい値段ですね。
 やはり、この単機能さは、会社勤めで、社内で会議室程度までしか出歩かない開発者と重役が決定権を握った所為なんじゃないかと思います。営業担当者に聞いていたら、全く別のものになったでしょう。
 初期ザウルスが、手書きメモ用紙に近い「インクワープロ」を搭載していた理由を、もう一度よく考えてみてもらいたいなと思いました。

酔うぞ さま
 この電子ブックの閲覧能力に、簡易なもので良いからメモ能力がつけば、まだ少しは便利なんですがねぇ。私の用途だと、完全に読むだけでもないんですよね。

投稿: 神北恵太 | 2008/11/07 22:42

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