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2009/04/22

彼女が掘るぞ

「パンティ(Schlüpfer)——っ!?」(アドルフ・ヒットラー)

『タイム・スコップ』 菅沼誠也(イラスト:玉岡かがり)一迅社文庫 619円(税別)

 空堀すずめはタイムトラベラーである。とはいえ彼女はタイム・マシンを操る時空旅行者ではない。彼女が持つのは、時空の重なりと歪みを正確に読み解く眼。そして、スコップ。
 そう、彼女こそ、パイ皮のように層をなして重なった時と世界の狭間にスコップを突き立てて正確に彫り貫き、求める時空への通路を開く、(たぶん)世界にたった一人だけのガテン系タイムトラベラーだった。
 で、上のセリフである。偶然、1944年某月某日、ベルクホーフ山荘のベランダにお尻から現れたすずめを目撃し、そのぶつかった勢いで手すりの向こう側に弾き飛ばされ、墜落してたヒトラーの「末期の一言」である。しかしそれはあまりにも死者の尊厳を冒涜し、しかも、現れた少女が直後に再び空中にスコップを突き立てて潜り込んで消えたため、その時傍にいたもの全てが、口を閉ざして歴史の闇に葬った言葉でもあった。

 なんといえば良いのだろう。物凄くおバカな着想とSFとしてのアプローチをきれいに持ち込んだ、清涼感あふれる作品が登場した。……っていうと、それっぽいですか?
 気持ちの良いスピード感のある展開で進むお話は、この事件から逃げ帰ったすずめが、幼馴染みのロリコンゲーム大好き少年石垣島わたるに、「チョビヒゲおじさんにヒップアタックをかました」顛末を語り、わたるが、それによって世界がどう変わったのかを語るところから話が始まる。わたるは、すずめが時空を掘りぬく能力を得た時に共に居て、同じ時間の歪みに巻き込まれているらしく、すずめの起こした時間改変に影響を受けずに「前の歴史」を憶えている、一種の特異点となっていた。このガテン娘とロリコン少年のコンビは、少しずつ時間を掘っては歴史の捻れを解き、自分たちの巻き込まれた時間の渦から脱出しようとしていたのだ。じゃじゃ〜〜ん!
 そして、すずめは言うのである。「いくら相手が悪の独裁チョビーでも、人殺しって寝覚めが悪い……」
 かくして、すずめとわたるの、ヒトラー救命作戦が始まるのであった。しかし、チョビーって……。 (^_^;)
 ヒトラー総統の次は、話がちょっと変わってもう少し古い時代。ソフトボールの授業中、デッドボールを受けたはずみで時間を跳んだすずめは、夜の墓地で死体を漁るフランケンシュタイン博士と遭遇、襲いかかってくる彼を撃退して、墓掘り用スコップを強奪、命からがら現代に逃げ帰って来た。なんともいろいろとエラい事件の現場に出会わす主人公だが、そのお話しが、シェリー夫人の小説の中の世界であることに気付く。気付きつつも、割とあっさりと「僕たちの世界では、シェリー夫人の小説の結末がちょっと変わるだけかもしれないが、この世界の人達にとって彼の研究は医学として役に立つ」とヴィクター・フランケンシュタインと共に人造人間の研究を決意するわたる。なんっちゅうか、やはり現代の日本人にとって手変え品を変えの時間コメディものの基本と言えば、タイムボカン・シリーズなのであろうか、このコンセプトは面白い。ヲタク少年石垣島わたるの影響を受けまくったヴィクター・フランケンシュタインが作る人造人間とは!?
 残念なことを言うと、この文庫、ちと誤植が多いこと。特に巻頭1ページ目で「肋骨」にわざわざ「じょこつ」とフリガナが振ってあったのは、スゴい。一見の価値がある。

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