『１５×２４』だぞ

「……ええ、午後にはなんとか。はい、ＴＸに乗りますから。トクナガのやつ、もう捕まりました？　あ、そうですか。いえ、もしもですね、私が到着する前に捕まえたんなら、そのまましばらく逃がさないでおいてほしいんですけど。ええ。ええ、そうです、ええ——二、三回、私の愛車で轢いてやろうかなって思いまして」西 満里衣（にしまりえ）

『１５×２４　Link one せめて明日まで、と彼女は言った ／ Link two 大人はわかっちゃくれない』新城カズマ（集英社スーパーダッシュ文庫　￥638 ／ ￥667　各税別）

　2005年12月31日、朝9時。都内の高校生男女のもとに、奇妙な途中で途切れたメールが届いた。受け取ったのは、笹浦耕（ささうらこう）・在所 惟信（ざいしょよしのぶ）・伊隅 賢治（いすみけんじ）・温井川 聖美（ぬくいがわさとみ）の４人。
　送り主は、この４人と同じ、私立成風館高校美術部に所属する少年、徳永 準（とくながじゅん）。そのメールは、こんな内容だった。

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みんな
これまでありがとう
永遠にさようなら
今日でおわかれです
ぼくはこ
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　メールを受け取った時にはまだ熟睡していた者。友人の危機につい助け舟を出そうとする善人。家庭の事情で動くことができない者。そして、全てを操ろうと動く者。様々な思惑が、年末の町へと若者たちを走らせる。

　新城カズマ氏の新作は、原稿用紙にして実に3000枚に及ぶ長編『１５×２４』（イチゴー・ニイヨン）だ。9月は、開幕編1〜2巻同時発売。引き続き10〜12月にかけて、残りも全て連続刊行される予定だ。
　さて、タイトルの「イチゴー・ニイヨン」とは何か？　それは、自殺志願者からの書きかけメールに端を発した、15人の若者の2005年大晦日から元旦に掛けての、24時間の行動の記録……というようなことらしい。15人がそれぞれ一人称で語った、その時の行動・思考・感情・感想を、小エピソード単位に細かく視点を切り替えて、語っている。だから、同じ事態を何人かの目から描き、感じ方の違いや、行き違いを明らかにするなど、なかなか多角的な楽しみ方が出来る。
　15本の一人称小説が合体したと思っても良いし、15人の視線・思考・心情を交錯させて見ることで、当事者たち以上に事態に精通した観察者に仕立てる複眼視線を読者に与える技法と思っても良いだろう。その時々のお気に入りを置いて。その人物を中心に、他の人の部分をお膳立ての背景説明として読んで行く小説としても、楽しい。
　ひとつに連携した群像劇でありながらも、個々の登場人物を丁寧に描いているため、朝9時に事件が発生して、2巻目のおわりで時刻はまだ夕方の4時台だ。しかし、ここに至るまでに、新宿の七生報国な私的自警団やら、吉祥寺方面のヤクザやら、謎のホームレスじいさんやら、怪しげな人々が大勢現れては15人を翻弄する。
　在所惟信が相談した中学時代の友人、左右田正義が、この短いメールの体裁を整えた上で「捜索隊を組織して自殺を未然に防ごう」と檄を飛ばした。それぞれが随意に、高校の同級生や中学の頃の仲間に次々とメールを流したため、この捜索隊は全くの臨時編制で、互いの顔も知らない少年少女の集まりに膨れ上がった。都内に留まらず、近県からも手伝いに人がやって来る。さらに、15人のキーマンを通して、15人以外にも色々な人が事件に絡んで来る。大晦日で暇している人が多かったせいか、インターネットテレビを通じて情報が一気に広がったため、冷やかしの野次馬を山のように引きつけてしまう。その大騒ぎの中、まさか自分が話題の中心にいるとは知らない徳永準は、一緒に死ぬ約束をした自殺サイトの常連のハンドル名「＜17＞（イチナナ）」と邂逅するため、都内を移動している。
　自殺志願者1人を含む15人の少年少女は、どこに向かって走って行くのか!?　『15×24』堂々の開幕。

　ほんの何ヶ月か先に完結する予定だが、昨今の書籍流通システムでは書店に並ぶ期間は極めて短い。書店によっては、棚数の決まった文庫では下手をすると1週間か10日ほどで他社の新刊と入れ替えに返本されてしまうケースも多いと聞く。「『１５×２４』を読むのは完結してからでもいいですが、買うのはとにかく発売時にね！」というのは、冗談ではない。さあ、急いで手に入れるべし。

　ちなみに、新城カズマ・堺三保ご両人による『１５×２４』刊行記念の世界初（たぶん）のTwitter上対談。基本ネタバレなしの未読者にも優しい企画が、10月2日3日、つまり、昨日今日と、夜22時〜24時ぐらいの予定で、開催されている。ここを参照の上、是非、覗いてみられることを神北からも、お勧めしておく。