東京都が大変だぞ
東京都が、狂いかけている。
政治の歯車が今、おかしな方向に歪み、不要にして有害な回転を加えようとしている。この日記はちょっと長いが、日本で暮らす誰にとってもたいへん重要なことなので、是非最後まで読んでみていただきたい。
ことは、平成二十二年、つまり今年2010年の年2月24日に提出された、第三十号議案「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」に始まった。この全文は、ここにある。(読みづらいのは勘弁していただきたい。本来これは、提出者や都議会が奇麗に整形して都民に広報すべき議案詳細ではないかと思うのだが、そういう場ではなく、読みに行って複写し、テキストに落とした方がおられて、初めて我々が見ることが出来た文面なのだ。)
『無名の一知 財政策ウォッチャーの独言』さんが、2010年02月27日のエントリー「番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載」で、既存の条例文に改正案を組み込み、(比較的)見やすいものを作られたので、これもご参照いただくと少しは判りやすいかもしれない。
まずは、以下をお読みいただきたい
ハニーさんのMixi日記「【重要】都条例「非実在青少年」の規制について」2010年03月07日14:38
すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、2月24日に、東京都青少年健全育成条例の改正案が出され、その中に、「非実在青少年」(つまり実写でな く、マンガ・アニメ・ゲームに出てくる青少年)への規制が盛り込まれています。
これは、 「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると 認識されるもの」と規定されており、つまり設定が18才以上になっていても、「18歳以下に見えれば」ダメ、ということです。
つまり、国の方で何度も改正(改悪)が話題に上りながらも、反対が多く先に進まないでいる「児童ポルノ法」における、「単純所持規制」(=とく に売買する意思を持っていなくとも、「児童ポルノにあたるもの」を単純に「持っている」だけで逮捕)、「マンガ・アニメ・ゲームその他、画像として描かれ る青少年の姿にも児童ポルノ法を適用する」というもくろみを、都の条例で先に決め、規制してしまおうという法律です。
なので、今のところ罰則はありませんが、「単純所持」も禁止されています。
おまけに、上記に規定された意味での「児童ポルノ」(つまり非実在青少年を含む)の根絶に向けて努力し、都に協力するのが「都民の義務」と規定 されています。第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全 な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。これだけ読むと、青少年が読まないよう留意すればいいのかと思うかもしれませんが、成人が読むものもすべて、規制の対象になります。
都条例の改正案の全文は以下で読めます。
このうち、後半の、とくに赤で反転してあるところが重要な部分です。
http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-cbc1.htmlまた、今日、いままさに行われている緊急集会のお知らせ
http://icc-japan.blogspot.com/2010/02/blog-post_27.html
も含め、この問題に関する基本情報をまとめたサイトは以下です。
http://mitb.bufsiz.jp/「18歳以下に見える」とか、「不健全」とか、いくらでも恣意的に解釈できる条文の上に、これらの規制を推進しようとする都に対し、全面的に協力 するのが「都民の義務」とするなど、これは戦前戦中のファシズムか? 「非国民」!とどこが違うの? と言いたくなるくらい問題のある法律なのですが、問 題は、
今の状況だとほぼ間違いなく、この法律は通ってしまう!
ということです。
そして、出版社のほとんどすべてが東京に集中している中で、この法律が通ることは、国の法律ができたのと同じ効果を持ちます。
にもかかわらず、不思議なことに、ネットでも、マイミクさんの日記やMLでも、この問題はほとんどまともには話題になっていません。おそらく、 あまりにもばかばかしい規定ゆえに「半笑い」的なコメントが多く、みんな「こんなばかばかしい規定、通るはずない、と思っているのだと思います。なぜか ネットでも、個人のブログや痛いニュース以外に、信頼できるとされる一般メディア(新聞系のニュースなど)でこれを取り上げているところはないし、新聞で も報道されていないので、みんな冗談だと思っているのだと思います。
けれど、繰り返しますが、今の状況だとほぼ間違いなく、この法律は通ってしまう!
2月24日に案が発表されて、都民が意見が言えるのは25日まで(つまり1日だけ)。
議会での質問が許されるのは3月4日(代表質問)・5日(一般質問)だけで、これも数日前には質問を提出していなければならない。(つまり議員 でさえ、検討できるのは3日程度)
で、18日の13:00の付託議案審査がもっとも重要で、今月末には投票、決定、ということになります。現在、都議会の会派は石原都政与党(自民、公明、平成維新の会)が62議席、石原都政野党(民主、生活者ネットワーク、共産、自治市民)が65 議席という構成です。
野党が全員反対にまわれば、否決できるのですが、今のところ、民主党内ですら、意見統一がとれていない。知人によれば、①都議では野党の民主議員が全部法案可決に反対しても過半数に満たず、
民主自体もきれいに可決反対で意見がまとまっているわけではない。
②今回はこの法案はケイタイ・ネットに関する法案とセットで提出されており、
このケイタイ・ネット関係の法案はちょっと現段階ではあまりに穴がありすぎ、ほぼ通らない
ということになっていて、それが災いする可能性も高い。つまり二つあげたもののうち二つともが
否決されることは珍しく、ひとつを通さない代わりにひとつを通すということは議会ではよくある。
こうしたことから、この法案は何もしないでいると通る可能性が高いだろう」ということです。
けれど、先日、もう賛成を決めているからダメだろう…と言われていた、「生活者ネットワーク」の議員さんにヤマダさんたちと一緒にお話をしに 行ってきたら、ちゃんと聞いてもらえた、という感触を持ちました。そして、この法案の危険性を訴えたのが、ほぼ私たちが初めてのようだったのが印象的でし た。
都議の方たちも、あまりにも現場から何も反対の声が上がってこないので、不思議に思う状況のようです。現場から反対の声があがらないとどうしよ うもない、との声も聞かれました。
私もあまりにみんな騒いでいないので、半信半疑だったのですが、各方面に確かめても、「このままだと通る」ことは確実です。
まだ間に合うかもしれません。広報の手段を持っている方は、この法案の危険性を、早く、広く、伝えていただければと思います。また、今いちばん効果があるのは、議員さんへの直接の働きかけです。
次の日記に方法と気をつける点がまとめてありますのでご参照ください。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1433129260&owner_id=160185
これなどは、かなりあちこちに転載されたので、どちらかで目にして状況をつかんでおられる方も多いと思うが、東京都議会で現在検討されている——というと語弊がある。提出され、決議を待っているが、ほとんど何の検討も、検証も、討議もなされないまま、採決されそうな状態の——きわめて融通無碍に運用が可能で、悪用しようとすれば、何一つ基準が明確でないことを利用して何でも出来てしまいそうな都条例に注目が集まっている。
これに対し、『ハリスの旋風』『あしたのジョー』等で知られる日本のマンガ創世記から活動を続けてこられた漫画家のちばてつやさんが、「とても心配」という日記を書かれている。また、ちばさんは、「——と、ぼくは思います!!」と題した、表現の自由に関して考察した短編マンガを提示されている。きわめてニュートラルなご意見なので、一読をお勧めする。
かくして、昨日2010年03月15日、都庁でマンガ家の皆さんを中心に多くの危機感を抱く方が集まり、この無謀な都条例を止めようという集会が開かれた。ちばさんは、「非実存青少年都条例」というタイトルでこれについても書いておられる。
確かに、東京都青少年保護条例の制定された1964年に全く考えられなかったこととして、社会構造の変化(少子高齢化や近所付き合いの減少)や商業構造の変化(本屋・古本屋を家業とする地域密着店の減少と大手流通業(スーパーやコンビニ)の書籍取扱い)が上げられる。近所の知人や顔見知りの店が減り、さらに客が何を立ち読みし何を買って行くかに無関心な店舗が増えた。インターネットの普及によって、もっと日本より規制の少ないアメリカのサイトに直接つなげられるようになり、事実上日本のポルノ規制が無効化したことも大きい。
これに対し、近年言われてきたことが、ゾーニングである。これは英語で「区分する・区分制度の」と言う意味。ここでは「年齢により購入や閲覧などできるものを制限して年令別に分ける事」として使われている。つまり、性風俗的な書籍やサービスの購入や閲覧や体験を、18歳未満の低年齢層とそれ以上の年齢層で大きく分けることにより、「未成熟な青少年にとって有害なもの」が子供の手の触れない(少なくとも触れ辛い)環境を作ろうという考え方だ。自宅のコンピューターやケータイから子供がネット接続をする際に安全なサイトしか行けないように制限するペアレントコントロールソフトなども、一種のゾーニングだ。
このゾーニングの明確化や厳格な適用を以て、青少年の目が触れ難い所に、有害図書を分けてしまいましょうというのが現在の流れだ。ビデオ屋や古本屋で、アダルトコーナーが分けてあるアレが、ゾーニングである。
しかし、こうした動きでは生温い、そもそも有害図書を駆逐すればよいのだという性急で稚拙な暴論のもとにこの条例改正案は成り立っている。しかも、アウト・セーフの線引きや、誰が判定するか等ということは後回し。適応範囲すら、何も書かれていない。何でもいいからとにかく条例だけ通してしまえばよいという、全く検討する時間を作らない無理矢理の強行動議強行採決だ。動き出した条例を見るまでもなく、その採決に向けた無茶苦茶な動きを見るだけで、ちばてつやさんの仰る「いろいろな表現媒体が規制で縛られ、元気がなくなり、世の中が狭く、息苦しくなってしまう」状況が見て取れる。
むろんこれは東京都のことで、東京の外で暮らす神北は、都議の選挙権も無いわけだ。言ってしまえば見守るしか出来ない。しかし、大多数の出版社・アニメ制作会社・放送キー局が集まる東京でこれが動き出せば、それだけで日本全国の首が絞まったも同じなのだ。
だから、東京の外から、声を大にして叫ぶ。この条例改正案に反対する。いったん白紙に戻し、細部まで熟考をすべき、あまりにもデリケートな問題を含んでいる。
ちなみに、この集会の記者会見における発言は、ここに記録されている。そして映像は、ここに残されている。また朝日新聞によるネット記事はここにある。
この条例は、明後日(2010年3月18日)に、採決される。都議等に、無茶な今期採決を止め、ちゃんと時間を取って細部まで協議し、納得のゆく法律になるように議論することをお願いする行動のできる方は、今すぐ行動を起こしていただきたい。
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