« 書評 『うちのメイドは不定形』だぞ | トップページ | 息子達の物語だぞ »

2011/02/19

書評『コップクラフト』だぞ

「ファルバーニ王国とユナイテッド・ネーション国の協約に基づき、ミルヴォア騎士および準騎士はドリーニ世界での正義の執行を保証されている。いと高きフィエルを保護するため。貴君らには私の探索を手伝っていただきたい。ファルバーニ王の名のもとにこれを要求する」ティラナ・バルシュ・ミルヴォイ・ラータ=イムセダーリャ・イェ・テベレーナ・デヴォル=ネラーノ・セーヤ・ネル・エクセディリカ

『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2009年11月23日発行 600円+税)
『コップクラフト2 DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2010年06月23日発行 590円+税)
『コップクラフト3 DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2011年01月23日発行 571円+税)

 15年前、太平洋上に突然現れた超空間ゲートによって地球は、別の世界と繋がった。『レト・セマーニ』。中世期のような封建社会を持ち、魔術が存在し、人間の他に妖精などが棲む、天動説的な平らな世界。そう惑星ですらなかった。空を巡る陽や月や星はあるが、我々が知る衛星や恒星ではない別の物らしい。セマーニは人類の科学や論理が全く通用しない世界だったのだ。
 ゲートから僅か60マイル程の太平洋上に突然誕生したカリアエナ島は、かつてはセマーニ世界のファルバーニ王国南部のカリアエナ半島だった物が、ゲートを超えた地滑りをし、地球側へ出てきた物だ。
 この島に作られたサンテレサ市は、両世界からの移民200万人で成り立つ国境都市である。
 しかし両世界が繋がることによって、セマーニからは魔術の産物を、「レト・ドリーニ(蛮人の地)」と彼らが呼ぶ地球からは化学薬品やハイテク機械を、こっそり運んで儲けようと言う密輸業者が後を絶たない。
 さらにタチの悪い国連安保理によるセマーニ国家間の争いに対するPKF派兵により、ゲートを超えて逃げ出してきたセマーニ人難民(あまりの異質さに「宇宙人」という侮蔑のスラングが生まれた)が発生した。

 富む者、全てを無くす者、何も持たずに逃げ出して来た者。200万の希望と絶望と野心と諦観が渦巻くこの都市には、他のどこにも無い異世界同士の文明摩擦、軋轢の歪みが日々生まれ、犯罪へと繋がっている。
 サンテレサ市警特別風紀班は身体を張った潜入捜査で、そうした両世界絡みの特殊事案を主に扱う、治安の最前線であった。
 特別風紀班のケイ・マトバ(的場圭)巡査部長は、相棒(バディ)のリック・フューリーを銃撃戦で亡くした翌日、相棒の仇を追うことすら許されず、セマー ニから来る要人を迎えに行かされて腹を立てていた。しかもその要人というのがやたら傲慢で地球の常識に合わせることも知らぬ歳若い少女ティラナ・エクセ ディリカであったことが、彼の怒りを煽り続けていた。
 しかし、リックを殺した犯人こそがティラナの追って来た事件の犯人と同じであると知り、渋々ながら史上初の両世界合同捜査を承諾。かくして、「常識すら持たぬ宇宙人」と「礼儀を知らぬ野蛮人」の異色の刑事コンビが誕生する。

 『蓬莱学園』の書き手の一人であり、『フルメタル・パニック!』を世に送り出した賀東招二による、異色の刑事ドラマ。二つの世界のエージェントがバディ を組むと言うと菊池秀之の闇ガード・シリーズ(『妖獣都市』)を思い浮かべるが、こちらは何千年も前から相手側があることを知っていた闇ガードの二人と違 い、互いの世界が繋がって僅か15年と言うお互いのことをまだちゃんと知る間も得られてないコンビ故に、なかなかスマートな共闘とは行かない。
 もちろんそれは、1980年代伝奇小説ブームのただ中の作品と、2000年代のライトノベルの形式的な違いもあるだろうが、20年の時代差というだけで はなく、基にしたものが「世界最高のスパイ、ジェームズ・ボンドとその対立組織の女スパイの共闘」的なハリウッド超大作アクション映画か、「あなたの隣に 住んでいそうな、ただちょっとだけがんばることを求められている部署にいたばかりに苦労を背負い込むフツーのおじさん達」を描くアメリカ製TVドラマかと いう違いなのだと思う。「かみ合うシーン」を描くだけで時間枠いっぱいまで使ってしまう映画と、「上手くかみ合うまでをうまく挿んで行くことで厚みを増 す、正味45分×26話のテレビドラマの、量的な違いなんだと思う。

 最新刊の3巻までで一番のお気に入りエピソードは、2巻前半の「ep.02 First Night 忙しい夜」だ。既にセマーニでも滅びた筈だった吸血鬼の生き残りが、こっそりと眠りに着いていた棺ごと運び込まれた。密輸の証拠品の一つとし て回収された「彼女」は深夜の検死局で息を吹き返し、検死官の解剖助手達を襲い、餌食として、往年の力を取り戻そうとする。ケイとティラナの追撃を何度と なく寸でのところで躱しながら、彼女は逃げる。200万の餌食が待つ、都市の暗闇のなかへ。これはかなり燃える。

 ちなみに、竹書房版(現行1〜2巻にあたる)もまだ手に入るようだ。

|

« 書評 『うちのメイドは不定形』だぞ | トップページ | 息子達の物語だぞ »

コメント

もう見ました、とても好きです

投稿: 武装錬金同人誌 | 2011/03/30 15:20

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 書評『コップクラフト』だぞ:

« 書評 『うちのメイドは不定形』だぞ | トップページ | 息子達の物語だぞ »