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2011/07/27

『帝国亜細亜大戦』だぞ

「タイは失われた領土を回復したい。我々はその領土を通る援蒋ルートを切断したい。つまり利害は一致しているわけだ」参謀本部第八課謀略班班長 門松正一中佐

『帝国亜細亜大戦 紛争勃発!』高貫布士・高嶋規之(経済界リュウノベルズ 933円+税)

 1940年夏。バリでヒトラーが暗殺された世界が舞台。日独の軍事同盟は成立せず、日本は英国との同盟を維持したものの、ドイツを介しヴィシー政権と交渉して仏領インドシナに軍隊を派遣し、中国国民党軍の命脈「援蒋ルート」を絶つ作戦は頓挫してしまう。このまま泥沼のような中国戦線に戦力を取られて行くわけにはいかない軍部は、亜細亜でまったく新しい作戦を展開する。しかしそれは、日本軍を直接動かすものでもなければ、日本の戦争でもなかった。

 ビルマ・タイ・カンボジア・ラオス・ベトナムと言った国々が並ぶ東南アジア、インドシナ半島。そこは長い歴史の中で、土地を取ったり取られたりして来た過去を持つ国々がひしめき合っていてる。物語内の1940年代、最近シャムからタイへと名前を変えたばかりの旧い王国は過去、現在はフランス領となっているラオスに土地を掠め取られたことをいまだに遺恨に思っており、強大な軍事力を持つフランスを恐れつつも、常に失地回復の機会をうかがっていた。このタイに対して、日本から、義勇兵が集まった。実際には退役した軍隊経験者有志による自主的な志願ではなく、私企業を装った国家組織がお膳立てをして、各地から引き抜いた兵力を配置換えのように退役・志願させた、軍の新設部隊のようなものだった。
 本来ならこれが、アジア市場を食い合う仇敵と日本を敵視するアメリカに知られたら、日本の形を変えた侵略行為だと外交の場で面罵されかねないところだが、その危険だけはなかった。なぜならば、アメリカは既にまったく同じ手法でフライング・タイガーという最新鋭機を揃えた義勇航空部隊を、充分な航空兵力を持たない国民党軍陣営に派遣し、日本軍の航空兵力に対抗させていたからだ。
 かくして、日本軍ではない、日本人による戦いが、東南アジアのジャングルの中で始まった。最初は、装備に劣るタイ軍の侵攻作戦として、現地軍で対応にあたろうとしたハノイの植民地政府だったが、次第にそれが容易ならざる難敵、タイ国旗を身につけた最新装備に近い日本陸軍であることを思い知る。
 その仏領インドシナの窮地に手を差し伸べたのは、全土を占領された余波で身動きの取れないフランス本国ではなく、太平洋を挿んだ向こうの国、アメリカ合衆国であった。植民地と周辺国との国境紛争出会った筈のインドシナの戦争は、やがて、看板はそのままに、日米の代理戦争の様を呈して来る。

 「ごっつい兵器とすんごい作戦で、襲い来る敵をを丁々発止と受け流し、ばったばったと切結ぶ……」というよりは、どちらかと云うと「諜報戦・特殊工作・国際交渉で、敵の動きを限定し、急所一点を打ち抜く」と云ったからめ手を得意とする二人の作家、高貫布士高嶋規之が、がっちり手を結んだ初の作品。上のような仕儀でハナっから主人公は日本軍ではない。日本人ではあるのだが、現在は形式上、タイ軍の一部として、タイ政府の指揮下に入っている。もちろんそれは形の上の話であり、作戦立案から補給まで、全てを握っているのは、義勇軍の司令部だった。目的は、タイ軍の失地回復作戦とともに、目下日本軍最大の憂慮事項である、蒋介石への援助物資輸送ルートの根絶。
 しかし、戦争というのは、狙い定めて始めるのは容易だが、規模をコントロールするのはとても難しく、ましてや終らせるのは至難の業だ。物量に優る米軍相手に日本軍は、如何に目的を果たすのか!! インドシナ半島を舞台に、日米の対決を描く新シリーズの開幕である。

 ちなみに、この作品。巻頭地図を神北が担当させてもらっている。本文中に現れるほぼ全ての地名を納めたインドシナ半島要部の地図だ。こちらも合わせてお楽しみ頂きたい。

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