2013/07/24

日本SF大会、シール屋さんの2日目だぞ

 1日目を終えた我々だが、帰るにあたり、自分のパソコンは各自ホテルに持って帰るが、その他の機材までは持ち歩けない。人のいなくなったブースからとはいえ、プリンタやネットワーク配線までは簡単にササッと持ち歩けないので、半分覚悟の上で置いてゆく。だが、軽いノートパソコンなら、タチの悪い輩が大きめのバッグにヒョイと詰めたら、持ち帰られないとも限らない。
 そのため、こちらの都合のいい時間に自由に施錠・解錠できる部屋をお願いしてあったのだが、通りがかったスタッフを通して市民ギャラリーを取り仕切っているスタッフに聞いてみると「そんなものはない」との答え。こりゃここでは話にならんなと4階のスタッフルームまで出向く。
 ここでも「夜間は21時に施錠するから大丈夫」なんていうノホホンとした答えが返ってくる。

 シール企画では近年のある大会で、裏の搬入口と繋がった廊下にある控え室で鞄の中から現金数万を抜かれた経験がある。まあ、こちらが気をぬいて、控え室を施錠せず無人にしたので、これは悔しいが諦めるしかない。だがこの事件以来、いくらSFファンが善男善女の集まりだといっても、公共施設で一般人が入る機会も多い場所というのは、掏摸・置引など窃盗のプロが潜り込みかねない場だという認識は持っている。
 「じゃ、今19時頃で、僕らが帰った後21時まで約2時間、無人のブースに実行委員会で借りて貰ったレンタルPCが4台、置きっ放しになるが構わないか? 実行委員会がそれで良いなら我々は帰る。拙いと思うなら保管場所を用意してくれ。 僕らはどちらの判断でもいい」と状況を説明して判断を願ったところ、「置きっ放しでいい」という判断が出たので、帰ることにした。
 さすがに、2日間ヘロヘロになるまで使った身体は悲鳴を上げており、昨年視察した時に宮崎実行委員長に教えてもらった「へんくつ屋」でお好み焼きを食い、ホテルに戻って汗を流したら、もうバタンキューだった。

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日本SF大会、シール屋さんの前日と1日目だぞ

 2013年7月20日(土)〜21日(日)の二日間、広島県広島市で、第五十二回日本SF大会 こいこん が開催された。

 1962年の第一回大会から、51年目の52回大会。いま、来年のつくば市をはじめ、2年後、そして仮の立候補だが3年後が姿を現しつつあるから、順調に行って4年後に(まだ噂すらない)第56回大会が開かれれば、神北が実行委員長を勤めた第28回大会ダイナ★コンEXが、ついに「半分より前」になってしまう。
 ともあれ、まずは今年の大会の話。

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2013/02/12

大阪強襲だぞ

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 2013年2月10日〜11日に大阪で開催された日本SFファングループ連合会議の親睦会に、熊倉くんの車で、本人と神北・塩坂くん・牛丼仮面に、名古屋から岡田(px店長)くんというメンバーで東名・名阪を激走。うまいものを食い歩く旅をした。

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2012/04/14

銀河の歴史がまた一幕だぞ

 本日、2012年4月14日(土)から22日(日)まで、舞台『銀河英雄伝説 第二章 自由惑星同盟篇』の東京公演が開催される。(大阪公演は4月28(土)・29(日)の二日。)
 その前日の2012年4月13日(金)、公演初日の前日、東京国際フォーラム ホールCにおいて、公開舞台稽古(ゲネプロ)が行われた。

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 今回は、ゲネプロの前に、ロビーでのフォトセッションと囲み取材の時間が設けられていて、そちらにも参加させて頂くことが出来た。 フォトセッションおよび囲み取材に応じて頂いたのは、河村隆一さん(ヤン・ウェンリー)・馬渕英俚可さん(ジェシカ・エドワーズ)・野久保直樹さん(ジャン・ロベール・ラップ)・大澄賢也さん(ムライ)・雨宮良さん(アレックス・キャゼルヌ)・中川晃教さん(オリビエ・ポプラン)・松井誠さん(ワルター・フォン・シェーンコップ)・西岡徳馬さん(シドニー・シトレ)の8人。
 あまり芝居やドラマ、歌謡界に明るくない神北でも名前を知っている人が多いのに、ちょっと驚いた。というか、尾張大納言徳川宗睦(『殿さま風来坊隠れ旅』)の西岡徳馬さんだよ! ちょいと奥さん!!

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 囲み取材の様子は、多分、土日の情報番組(もしくは月曜朝のモーニングショー)に出ることと思うが、やはり、LUNA SEAのボーカルRYUICHIこと河村隆一さんが主人公ヤン・ウェンリーということで、とんでもない数のマスコミが集まった。河村さんは、以前からの銀英伝のファンだそうで、そうとう前に河村さん自らが是非とも演りたいと名乗り出たのだと言う。もうヤンをどうしても演じたかった人だけあって、先日、原作者の田中芳樹さんと対談したときも、その知識と深い読み込みに田中さんが舌をまくほどのファンぶりだったと言う。

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2011/10/03

ヒーロー中のヒーローだぞ

「あの中には、まだ彼の一部が、彼のエッセンスが、囚われているんだ。連中が彼から作り出したあの男の中に、バッキー・バーンズの人間性の欠片が残ってるんだよ」スティーブ・グラント・ロジャース(キャプテン・アメリカ)

『キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー』エド・プルベイカー/スティーブ・エプティング 翻訳:堺三保(小学館集英社プロダクション 2600円+税)

 畏友堺三保くんより、献本を頂戴した。休眠を挿みながら70年近く続くアメリカン・コミックの中核的ヒーロー『キャプテン・アメリカ』の最新翻訳版だ。献本に感謝しつつ、むさぼるように読ませて頂いた。

 第二次大戦中からのキャプテン・アメリカの宿敵であり、元ナチスのエージェントだった、レッド・スカルがニューヨークで射殺された。彼は既に自らの肉体を捨て、キャプテン・アメリカことスティープ・ロジャースの細胞から作ったクローン体に自らの意思を転写して生き延びていたのだが、兇弾はその不可侵の肉体を易々と貫き、レッド・スカルの息の根を止めていた。
 S.H.I.E.L.D.の司令官ニック・フューリーは、それをソ連時代から噂されていた絶対証拠を残さない幻の暗殺者「ウィンター・ソルジャー」の仕業と断定。しかも、複数の目撃情報・古い捜査資料の中に眠っていた監視カメラ情報まで、S.H.I.E.L.D.の持つ膨大な資料を徹底的に再検索した結果、「ウィンター・ソルジャー」は、第二次大戦末に死に別れた筈のキャプテン・アメリカの相棒、バッキーことジェームス・ブキャナン・バーンズである疑いが濃厚になって来た。
 

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2011/02/19

書評『コップクラフト』だぞ

「ファルバーニ王国とユナイテッド・ネーション国の協約に基づき、ミルヴォア騎士および準騎士はドリーニ世界での正義の執行を保証されている。いと高きフィエルを保護するため。貴君らには私の探索を手伝っていただきたい。ファルバーニ王の名のもとにこれを要求する」ティラナ・バルシュ・ミルヴォイ・ラータ=イムセダーリャ・イェ・テベレーナ・デヴォル=ネラーノ・セーヤ・ネル・エクセディリカ

『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2009年11月23日発行 600円+税)
『コップクラフト2 DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2010年06月23日発行 590円+税)
『コップクラフト3 DRAGNET MIRAGE RELOADED』賀東招二(小学館 ガガガ文庫2011年01月23日発行 571円+税)

 15年前、太平洋上に突然現れた超空間ゲートによって地球は、別の世界と繋がった。『レト・セマーニ』。中世期のような封建社会を持ち、魔術が存在し、人間の他に妖精などが棲む、天動説的な平らな世界。そう惑星ですらなかった。空を巡る陽や月や星はあるが、我々が知る衛星や恒星ではない別の物らしい。セマーニは人類の科学や論理が全く通用しない世界だったのだ。
 ゲートから僅か60マイル程の太平洋上に突然誕生したカリアエナ島は、かつてはセマーニ世界のファルバーニ王国南部のカリアエナ半島だった物が、ゲートを超えた地滑りをし、地球側へ出てきた物だ。
 この島に作られたサンテレサ市は、両世界からの移民200万人で成り立つ国境都市である。
 しかし両世界が繋がることによって、セマーニからは魔術の産物を、「レト・ドリーニ(蛮人の地)」と彼らが呼ぶ地球からは化学薬品やハイテク機械を、こっそり運んで儲けようと言う密輸業者が後を絶たない。
 さらにタチの悪い国連安保理によるセマーニ国家間の争いに対するPKF派兵により、ゲートを超えて逃げ出してきたセマーニ人難民(あまりの異質さに「宇宙人」という侮蔑のスラングが生まれた)が発生した。

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書評 『うちのメイドは不定形』だぞ

「あなたにお会いするために、あなたのためだけに永久凍土の下からはせ参じました! どうか末永くおそばに置いてください!」テケリ・リ・テケ・テケ・リ・ル・テケリ・テケ・リ・ラ・ル・ラ・テケリ・テケ・テケリ・リ・ル・ラ・リ・テケリ・リ

『うちのメイドは不定形』静川龍宗 原案:森瀬繚(PHP研究所 スマッシュ文庫2010年06月23日発行 514円+税)

 新井沢トオルのもとに、南極に調査に行っている父から突然送られて来た荷物には「荷物の中身をお湯につけて三分間待つこと」と書かれていた。その通りにすると、お湯の中からエメラルド・グリーンの瞳、緑色の髪の美少女メイドさんが現れた。
 テケリさんは、生まれながらの奉仕種族で、家事手伝いの天才。分身したり手を増やしたり、必要に応じて姿を変えて、おそるべき家事能力を発揮する。とりあえずテケリさんと共に暮らすことになったトオルだったが、それを敏感に感じ取ったものがいた。
 同じクラスの帰国子女あさひ・ビーバディ。彼女はトオルの家のメイドさんが人外のものであることに気付き、密かに行動を開始する。

 大変だった。6月に刊行されたものだが、PHPのスマッシュ文庫を置いている店になかなか行き当たらず、手に入ったのはヨドバシ秋葉原の有隣堂で行われていた「逢空万太の本棚」という企画のおかげである。
 クロノスケープの森瀬繚さんが原案を練り、静川龍宗(しずかわたっそう)さんが書いた、なんというか、ヨモスエな邪神系ラブコメである。今回登場した女の子は二人。タイトルにもなっている1億5千5百万年の眠りから覚めた不定型奉仕種族ショゴスのメイド、テケリさん。そして、ハーフの帰国子女で、大達人位階(アデプタス・メジャー・クラス)の魔術師(マギ)にして魔女(ウィッチ)、大導師に背き、結社(オーダー)と戦い、追われる身となった叛逆者(トリーズナー)、あさひ・ピーバディ。
 トロロン(ダブル・ミーニング)としたのメイド、テケリさん。思い込んだら命がけの直情径行金髪魔導士の二人に、トオルの日常はどんどん浸食されて行く。
 ちなみに、朝日の髪型はツインテール。テケリさんの髪は、不定型で必要に応じて手になったり自由に動く「ウィアードテール(ズ)」(黒書刊行会 みづせゆう氏の命名)であることを付記しておく。

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書評 『這いよれ!ニャル子さん6』だぞ

「……分かんないんだよ、自分でも。お前が好きかどうかなんて。まだ会って二週間くらいしか経ってないし。でも嫌いじゃ、ない、と思う。何だかんだで、僕を守ってくれてるし」八坂真尋

『這いよれ!ニャル子さん6』逢空万太(ソフトバンククリエイティブ GA文庫2010年12月31日発行 600円+税)

 ニャル子さんもついに6巻目。驚くべきことに今回、騒ぎの張本人に、今まで出て来なかった邪神やら何やらの新種族キャラが登場しない。そのかわり、クー子の従姉のクー音が八坂家にやって来る。クー音はさすがクー子の従姉だけあって、強烈なストーカー体質、加えて『紅蓮朱雀』『鳳凰天昇』『紺碧の猛禽』『惑星保護機構の赤い悪魔』『ヒートの女』『朱より紅し(シンクレッダー)』などと様々な二つ名で呼ばれ、『クー音がいないいところに煙は立たない』と言われた宇宙で最もクトグァな人。『僕らの火の七日間戦争』というタイトルで武勇伝が映画化されたこともあると言う。このクー音が来襲。ここに至りクー子は、「——わたしは、少年と婚約したから」と宣言。ここに、八坂家(未登場の父を除く)総員および居着いた邪神たち総出の偽装工作が始まる。

 ニャル子さんもついに6巻目。相も変わらず平和な日々を過ごす、八坂家に居着いた邪神(宇宙人)達。今回はついに4次元空間に一つずつ個室を貰い、ますます長期戦の構え。とはいえ、最初にニャル子がやって来てからまだ僅か半月かそこらというから、あれだけ色々な事件が起こりつつも、各巻3日ずつしか日を掛けてない換算かよ!それだけの間に八坂ニャル子、クー子、ハス太が次々と転校して来たんだから、そりゃクラスメート達から不審がられる筈だ。
 という訳で、わりとツナギ的中弛みの回ではあるのだが、別に前の5作が弛んでないという訳でもないしこのユルユル感こそがニャル子さんの面目躍如なので、それで構わない。逆に、抗し難い敵がある訳ではなくクー音のためにユルユルな日常がかき乱される程度で済んでいる中で、真尋から冒頭のセリフが出るなど、ミョーなフラグが立ったり折れたりするユルユルな中にも出会って2週間の進展が見られてなかなか楽しい。
 2009年04月に1巻目が出てから、1年8ヶ月で6巻目。平均して4ヶ月に1冊ペースを維持。快調に続いているシリーズだ。次巻も楽しみである。

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書評『博物戦艦アンヴェイル2 ケーマの白骨宮殿』だぞ

「おれはウルサールの道化だもの。なんでもしていい代わりに、何も持てないことになっている。お金も、家も、名誉もね」金鈴道化師ジェイミー・ティンクティキ

『博物戦艦アンヴェイル2 ケーマの白骨宮殿』小川一水(朝日新聞出版 朝日ノベルズ2010年11月30日発行 1000円+税)

 ラングラフ王ウルサールの命により、太古の博覧王メギオスの伝説を追って1万アクリートの彼方まで航海し、誰も知らなかった未知の土地を踏査し、伝説に語られたメギオス驚異「金毛氈」を王港レステルシーへと持ち帰った戦艦アンヴェイル。しかし、宿敵オノキア王国の軍艦ドレシェンガーとの相次ぐ戦闘の結果、ぼろぼろになったこの船は、帰還祝賀の祭にすら出せぬ酷い状態になっていた。
 冒険を成し遂げた艦長アルセーノ・ヘラルディーノ(アル)と、少女騎士ティセル・グンドラフ(テス)そしてジェイミー(ジャム)に国王ウルサールから次に与えられた命は、この艦の再建と、新たなるメギオス驚異を探し求める探検の旅だった。
 しかし、その再建は一筋縄ではいかず……。

 「博物戦艦アンヴェイル」シリーズの2巻目。実は、前作は「どうしても夏休み帰還に読みたくて」昨年8月まで待って読んだ。とても気持ちの良い、少年少女が周りと力を合わせて艱難辛苦を乗り越える冒険譚だった。
 しかし、続く2巻目はすぐには冒険の話へとは続かなかった。まずはお妃さまの命でテスとジャムが異国アンドゥーダナーの図書船テンユウ号におつかいに行き、続いてアルがヘラルディーノ家のドッグで艦を再建する。もちろんそれはそれぞれ一筋縄では行かず、彼らは安全な故郷の港町レステルシーの中で、それぞれ命がけの冒険をさせられる。
 この冒険を通じて、少しずつ小出しにされるこの世界の有り様がなかなか面白い。著者の頭の中には、もっと様々なこの世界では当たり前の生物や文化、そしてこの世界の人々にとっても常識の外にあるようなメギオス驚異が、まだまだ潤沢に詰まっているのだろう。じわじわと楽しんで行きたいシリーズだ。

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書評 『《呪肉》の徴 グウィノール年代記1』だぞ

「トリナさまは私を助けて下さいました。ですから、今度は私がトリナさまをお助けする番です」メルグリナ・ディオレイド

『《呪肉》の徴 グウィノール年代記1』縞田理理(中央公論新社 Cノベルズファンタジア2010年11月25日発行 900円+税)

 人を初めとする動物、野菜等の植物など、ありとあらゆる生き物に「呪肉」と呼ばれる表皮の突然変異が多発しているダルモリカ公国は、二脚竜に乗る剣士達が守る中世の国だ。そして、中世期にありがちなこととして謎の奇病呪肉は忌み嫌われ、畸端検査官が呪肉を宿した作物・家畜を検査し、必要に応じて焼却を命じている。さらに不幸にして呪肉を宿した人に対しては畸端審問官が調べを行い、腕に呪肉があれば腕ごとの、足にあれば足ごとの切除などを厳しく行っていた。
 シャナキャスケルの都に住む下町の娘メルは、自らの身に憶えた違和感が呪肉ではないかという疑いを誰にも話せずに困っているところを、大公弟殿下の息女、うつけ姫と街で噂になっているアラストリナ・ハイマナシー公姫(トリナ)に救われた。恩義を感じたメルは、アラストリナのために身を捧げると決め、彼女の読み書きの師でもある街に住む没落豪士トレガー・ディオレイドの養女となり、公姫専属の侍女として王城に伺候する。

 まだ物語は始まったばかりだ。呪肉という、癌と人面瘡と伝染病を合わせたような魔術的な宿痾が動物にも植物にも取り憑く中世世界。街中で奇行に奔る信長の女版のような「うつけ姫」。下町育ちのしっかりものの娘。かつて呪肉絡みのことで家が没落したらしい剛直な豪士。呪肉とはまた違うらしい太古の遺跡の呪を受け、日々命を擦り減らし続ける冒険者。そして公位簒奪を企む公姉。謎の吟遊詩人。
 舞台と登場人物達が見えて来た物語は、公姉オルウィナの企みによって大きな転機を迎える。一族の中で唯一人、王城を抜け出すことに成功したアラストリナはメルの力を借りて、国を取り戻す旅に出ることを決意する。だが、公姉オルウィナが遣う異国から来た魔法師の手は、彼らのすぐ傍に迫っている。
 世界観がまずきっぱりと見通しがよいのは、縞田さんが根っこの分でSFモノだからであろうか。平明でストーリーを邪魔したりはしないが、かなりな量の我々の世界とは違う動植物があり、魔法や呪法が跳梁跋扈する。この世界観がきわめて豊穣、かつ心地よい。よい物語の舞台となる予感がする。トリナとメルの行く先々にまだまだ歴史やら習俗やら地理やら、生物やら技術やら、見知らぬ物がたくさん出てきそうで、楽しみだ。

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